45 ルカ side
「サクラ、一週間ずっと一緒にいて私の直感はやはり当たっていた。サクラを生涯私に守らせてほしい。結婚しよう」
私のプロポーズに対してサクラの返事は
「ルカ、大好き」
だった。
なんて幸せなんだろう。私はその日のうちに兄上に報告した。兄上は人払いをし、私の話に耳を傾けた。
「兄上、単刀直入に言います。ある女性にプロポーズをしました」
「そうなの?」
「その女性とすぐにでも結婚したいです」
「ルカはどうしてそんなに急いでるのかな?」
「オルセーから聞いているかもしれませんが、例の事件の被害者に一目惚れしました。彼女は私にとって唯一無二の人です」
「唯一無二?」
「はい。彼女の側にいると、心が暖かくなります。こんなことは初めてで、最初はなぜなのか分かりませんでしたが、彼女の出す空気が癒しそのもので、彼女を見ているだけでうれしい気持ちが溢れてきます。そんな彼女を逃したくないのです」
「身元は分かったのかい?」
「いえ、それはまだです。ですがおそらく貴族です。平民の姿勢とは異なっています」
「誘拐された上に訳ありかもしれないってことかな?届けには該当しないのでしょ?」
兄上は髭を触りながら私に聞いた。
「そうです。該当する届け出はありませんでした。彼女は事情があり平民として過ごしていたのかもしれません。だからこそ、私がこれからの人生を守ってあげたいのです」
「まあ、ルカがそうしたいのなら反対はしないよ。ただし、身元や事情がある程度分かるまではオルセーが付けた枷は取ってはいけないよ。かなりの魔力量があると聞いてるからね」
「分かりました。ご心配であれば、オルセーの診察時に魔力の調査をさせましょう」
「ではオルセーに指示しておいてね」
「はい。結果がでましたら報告いたします」
「そんな顔しない! ルカが惹かれたのであればきっと大丈夫だよ」
「……はい、ありがとうございます」
一応は了承を得たのと私の意を汲んで、数日後『誰と』の部分を内密に婚約をしたことだけを発表すると兄上は約束してくれた。
サクラとの出会いは事件現場だ。サクラは誘拐監禁され、ひどい怪我を負わされ瀕死の状態であり、いつ死んでいてもおかしくなかった。オルセーがいなければ助かっていなかっただろう。
どれだけの期間囚われていたのかは分からないが、オルセーは一番の古傷は一月前くらいだろうと推測していた。
私の大丈夫だという声に反応し、その後意識を失った時は危惧したが、オルセーの治療で今では歩けるぐらいにまで回復した。あと一週間もすれば普通に生活できるだろう。
サクラは初めは分からなかったが、かなりの美人だ。化粧をしていなくてもこれだけ綺麗なのだから、囚われた理由も頷ける。もちろん暴力は同意できない。ずいぶん痩せているが、これは今後の治療と食事によって改善するだろう。
性格は控えめで、また根は素直であるが意思は強そうだ。髪の色からすると貴族と思われるが、救った時は茶色にされていた。何があったのだろう。
サクラの今までの人生が気にならないわけではないが、これからの人生が一緒に過ごせるのであれば、ゆっくり知っていけばいい。私はそう思っていた。
「オルセー、忙しいところすまないが、サクラの魔力についてできるだけ詳細に調べてほしい」
「……いかがなさったのですか?」
「サクラと婚約することにした。発表は後日行うけれど、陛下からサクラの魔力を調査するように指示が出た。すまないが頼むよ」
「承知いたしました。では本日の診察からやってみましょう。結果が出ましたらお持ちいたします」
「ありがとう」
二日後、オルセーは驚くべき結果を持ってきた。朝から忙しく執務をしていると、オルセーが訪ねてきた。
「ルカ様、今、よろしいですか?」
執務室には私の他にサージを含め三人の側近がいたので区切りが良いところで私は三人を下がらせ、結界を張り声が漏れないようにした。
「申し訳ありません。早急に知らせたいことがありまして」
「サクラの魔力結果かな?」
「その通りです。サクラは唯一の方かもしれません」
「ん。続けて……」
私はオルセーをソファーに誘導しながら話を促した。
「はい。魔力量はルカ様程ではないですがAでした。それは想定内でしたが属性が特異です」
オルセーは何度も書類を確認しながらゆっくりと話した。
「おそらく彼女は聖女です」
「は?」
私は書類を手渡すようにオルセーに手を出すと、オルセーは該当の検査結果を指差しながら渡してきた。
私はいくつかの項目を確認すると、これは聖女だと言わざるを得なかった。
「どうして彼女が……」
「治癒にこれだけ特化している人は初めて見ました。ルカ様、いかがなさいますか?」
「んー。どうもしない…………が、これからも守ると約束したからには全力で守る。サクラが誰であろうと、誰にも渡しはしないことにかわりはないよ」
「そう言うと思いました。サクラには検査のことも伝えてません。医療班の者はルカ様と守秘義務の契約済みですから口外できませんし、漏れる心配はないかと……」
「そうだね……しばらくはサクラの魔力を封じたままで……まあ、私といれば魔力を使う必要もないしな」
「婚姻を結ぶまでは他の者との接触も避けたほうがいいですね」
「分かった。陛下にもそのように伝えておく。オルセーありがとう」
私は書類に封印の魔法を掛け誰も開けられないようにし、机に片付けた。
オルセーと別れた後、私はサクラのところに転移した。サクラにはスリープを掛けてから部屋を出たのでまだ眠ったままだ。
私はサクラの眠っているベッドに座り、サクラにそっとキスをした。
「誰だか知らないがサクラを手放したのだ。私は絶対に手放さない。君が聖女だろうとなかろうと……」
もう一度キスをすると私は執務室に戻った。