40 ルカ side
「ここだと水もないな。ちょっと待って」
私は女性を抱え直してから不思議な生物に小さく頭を下げた後、自室へと転移した。女性をベッドに寝かせると水差しから水をグラスに入れ、女性に飲ませようと横に座り背中を支えたが、女性は戸惑ったようにしていた。
「これは水だよ。大丈夫。飲んでごらん」
女性はそれでも飲もうとしないので、この水は安全だと自分が飲んで見せた。
「ね。大丈夫だから飲んでごらん」
するとやっとこくこくと飲み出した。少しずつだが水を飲み干したことにホッとした。
「あの……暴れてすみませんでした。あの……あなた、は誰れすか?……ここは?」
水を飲み干した女性はおずおずと聞いてきたが、まだ声は掠れていてうまく舌が回らず発音できていないようだ。体も力がうまく入らないようで支えてないと倒れそうで危ない。
「私はルカ。ここは私の寝室だよ。あなたは?」
「私、は……? なんれここに?」
女性は頭を傾げる。
「あなたは誘拐されていたところを私たちが助けて、治療のためにここに連れてきた。何か覚えていないかな?」
「私っ……ゆうか……? え? あ……?」
「うーん、あなたは今混乱しているようだ。無理に思い出さなくていい。これからは私が守るから安心していいよ」
「守る?」
「あぁ、私が生きている限り何者にも手出しはさせない。あなたはあなたが思っているよりひどい目に合っている。もうそのような目に絶対に合わせないから安心してほしい。そういった意味の守る、だ」
「……えっと……あなたをなんとお呼びすれば……」
「私のことならルカでいい」
「ルカ……様?」
「いや、ルカでいいよ」
「ルカ……ありがとうございます」
女性はへにゃりと笑った。
「ん。ところであなたの名前は分かるかな?」
「サクラ……だと思う」
「珍しい名前だが、呼びやすそうだ。ではサクラ、あなたの身元が分かるまでは不自由を強いるが危害は絶対に加えない。約束するよ」
サクラはこくんと頷く。ぱっちりとした大きな青い瞳がキラキラとしていて化粧もしていないのに美しい。
「あっ……」
足枷に気がついたサクラが枷を触る。
「これは魔力封じの枷で、サクラの身元が分からない、さらにサクラの魔力が膨大なためつけてある。すぐに取ってやりたいけれどそれができなくてすまない」
「魔力……?」
「しばらくは……身元が判明するまでは我慢してほしい。でも、記憶をたどるのはゆっくりでいいよ。無理をする必要はない」
「……はい」
「そう心配そうな顔をしなくてもいい。この部屋は私しか出入りできないから危険もない。大丈夫だよ」
「えっ……あ、……」
サクラは青くなったり赤くなったり、さっきからくるくる表情が変わっている。しばらくはサクラに付きっきりでいようと思った。
「ところでさっきの不思議な生物に心当たりはあるかな?」
「ウサギさん、じゃないのですか?」
「ウサギさん、とやらは私は全く知らないかな……。あのようなものは私は初めて見たよ」
「そうなんですか?」
「あの者は、サクラが眠っていると知ると額に足を乗せて、サクラを目覚めさせたんだ」
「あの子達にそんな能力があるの、ですか? ……知りませんでした」
「うーん、妖精だろうか。後程調べてみよう。ひとまずは今からサクラを医療班に連れていこうと思う。サクラが目覚めるまで尽力してくれた良い先生たちだ」
一瞬不安そうにしたサクラにキスをすると、サクラはみるみる顔を真っ赤にしていた。
「キッ……」
「き?」
「キス!」
「ん?」
「キスは好きな人、とする、もの……では……」
サクラは顔を真っ赤にしたまま口を手で隠した。
「ん? 私はサクラを生涯守ると約束した。サクラはありがとうと了承したよね?」
「えっ、そういう意味?」
「それ以外にある、のかな?」
サクラはひどく驚いた顔をしていた。
「…………」
「えーっと、サクラは私が嫌い……なのかな?」
「……嫌い、ではないです。助けてもらったし……。でもまだルカのこと何も知らないし……」
「ではこれから知ればいいよ」
私はニッコリ笑い掛けるとサクラはさらに耳まで真っ赤にしていた。あまりのかわいさにもう一度キスをした。