36 ルーゼント side
「もっと早くに……」
「え?」
「もっと早くにギルバート様に会いに行けば……。そしたらもっと早く動けていた……」
「……そうかもしれないが、だからといって見つかるとは限らない。この件で巻き込まれたかどうかは分からないのだから……」
「そうですね」
セナ、どこにいる? 会いたい……。
「ルーゼント、私はそろそろ戻るよ。何か分かれば連絡をくれ。リンファにでも伝えてくれたらいいよ」
「分かりました。お送りします」
私は馬を借りていることもあり、馬を並走させながらセナの家近くまで送った。そしてギルバートにはラッセンに残してきた家の者への手紙を託した。
団の執務室に戻るとロイドが部屋に戻ってきていた。
「お帰りなさい。客人は帰られたのですか?」
「あぁ」
「ギルバート様、でしたか? ものすごい美形でしたね。どちらの方ですか?」
ユークリッドの貴族でないことをロイドは気づいたのだろう。紅茶を入れながら聞いてきた。
「彼は私がラッセンでお世話になった方だよ」
「ラッセン……ですか。セナちゃんの親戚……ですか? 顔がよく似てらしたような」
「だから、セナちゃんって呼ぶな」
「えー! ふわふわベーカリーが休業してみんなの癒しだったセナちゃんに会えなくて寂しいのは副団長だけじゃないですよ!」
「…………セナさんは人気者だな……」
「何かあったのですか?」
「さぁね。分からん」
ロイドは他言するような人ではないが、ギルバートを会わせたのは間違っていたかもしれない。ロイドは勘がいい。
「とりあえず調査を急いでくれ」
「はい、承知しております」
パラビッド国……王族も含めほとんどの人は友好国らしく気のいい人が多かったことを知ったことは、パラビッド国内での仕事での成果だと思っている。だからこそ、今回のセナの件は本当に関係しているのか分からない。
コンッコンッ
「おー、ちょっといいかー」
ロイドと話しているとなぜか団長が訪ねてきた。団長はこちらが返事をする前にノックと共に入ってきた。
「いい香りがするな。ロイド、私にも入れてくれ」
「はい。少々お待ち下さい」
ロイドはカップを増やしカップを温め出した。
「ルーゼント、休暇はどうした?」
「ご心配なく。もうすぐ帰りますので」
「いや、そうではないのだが。少しいいか?」
「なんでしょう?」
「ふわふわベーカリーのことだが……彼女たちはどうしたんだ?」
「さあ。貼り紙通り私にはしばらく休むということぐらいしか分かりませんが?」
「そうか……いや、何か犯罪でも巻き込まれたかと思って」
「何故です?」
「強いて言えばルーゼントが長期休暇を取ったから」
「団長、長期休暇はしばらく休みがなかった私に国から休みを与えられたもので、私が休みを主張したわけではないですよ」
「表向きに……はな」
「紅茶が入りましたよ。団長、今日は副団長に突っかかりますね」
ロイドはふふっと笑いながら三人分の紅茶と茶菓子を並べた。
「何もなければいいのだが、何かあれば力になるから」
「以前はセナさんのことをこそこそかぎ回っていたのにどういう風の吹き回しですか?」
「いや、あの時はお前が騙されているのかと思っていたから」
「騙されてなどいません」
「ルーゼント、まあ、話を聞け! 最初はお前が人となかなか打ち解けないから心配していたのが、どんどんのめり込むようにパン屋に行くから何かあったのかと思ってな。
だが、人を見ると悪い人ではないらしいし、店で見るといつも一生懸命で人当たりも良い。そんな人たちが前触れもなくいなくなるのはおかしな気がしてな」
「とにかく、私には分かりかねます」
「そうか……。では邪魔したな。いい休暇を」
団長は紅茶をぐいっと飲み干すと部屋を出ていった。
「副団長、良かったのですか?」
「ロイド、私はセナさんがどうしているのか本当に知らないのだよ。何があったのかも含めて何も知らない」
「それって、行方不明……? 嘘でしょ? 何で?」
「…………」
私は答えようもなく無言でいると、ロイドは「調査を急ぎますね」と言って部屋を出ていった。