34 ギルバート side
どうしているだろうか。
生きているのだろうか。
「お兄様、セナはまだ見つからないのですか?」
「まだ見つかっていない……」
「セナ……かわいそうに……」
エリサは毎日セナのことを聞いてきては落胆している。
あの日、私はルーゼントを信じてやってほしいとセナに言ってわかれた。次の日、リンファによるとセナはルーゼントを見ることなく接客をし、その話をすると店を飛び出して行ったらしい。ロイやサイが追いかけ探したが見つからず、それっきり行方知れずとなった。
あれから一ヶ月何の手がかりもなく、生きているのか死んでいるのかでさえ分からない。
それから二十日程して、ルーゼントがうちを訪ねてきた。ルーゼントとはじっくり話したかったので自室に通した。
「お久しぶりです。ギルバート様」
「あぁ、久しいね。遠いところから来てくれてありがとう」
「いえ……。今日は折り入って話がありまして……」
「どうした?」
「単刀直入に言いますが、セナさんはギルバート様の妹ですよね?」
「…………どうしてそう思うの?」
「魔力が……ギルバート様とセナさんは同じ魔力をしています」
「ん? どういうことかな?」
「私は人の魔力を感じることができるので……」
「それはまた特殊な能力だねぇ」
私は一口紅茶を飲んだ。
「そうですね。家族とユークリッド国王しかこのことは知りません」
「そんな大事なこと、どうして私に話したの?」
「ギルバート様は他言しないでしょ?」
「……まあ、そうだね。で、それを聞くためにラッセンまで来たの?」
「いえ、セナさんはどこですか?」
「どこ……とは?」
「ふわふわベーカリーはしばらく休みますの張り紙のままずっとお休みです。セナさんがこちらに帰ってきたからではないのですか?」
ルーゼントに焦りの顔が見られる。
「それで?」
「私はセナさんが好きです。愛してます。会わせてください」
「…………」
やはり女性といたというのは理由があったのだろう。ルーゼントの真っ直ぐな瞳には誠実さが見られる。
「その前に確認させてほしい。ふわふわベーカリーが休みに入る少し前に女性と一緒に歩いているのを見かけたと聞いたが、何か理由があったのか?」
「女性?」
ルーゼントはしばらく考えた後、ハッと顔を上げると身を乗り出して答えた。
「母です! 女性と歩く経験がなさすぎて忘れてましたが、母が王都に来ていたので頼まれて何度か街を案内しました!」
「…………母? お若いのか?」
「いえ、若作りはしてますが、それ相応に年はとっています。まさかセナさんがそれを見たのですか?」
ルーゼントの顔色が青くなっていく。余程の若作りなのだろうか?
「落ち着け! 少し紅茶でも飲んで!」
言われたルーゼントはおとなしく座り直した後、ゆっくりと紅茶を飲んで呼吸を整えた。
「ギルバート様すみませんでした」
「いや、しかし……ここまで聞いてすまないが、セナはここにはいない」
「ではどちらに?」
「…………」
「ギルバート様?」
答えていいものか迷ったが、ルーゼントのことだ。いつかは知られてしまうことだと思い話すことにした。
「セナは君に店で会ったその日から行方不明だ。一人で飛び出して、ロイたちがすぐに追いかけ探したが見つからず、未だに分からないままだ」
「はい?」
「事件や事故に巻き込まれたのか、自分から身を隠したのか、生きているのか、死んでいるのか……すべてが分からない。公爵家でも探しているが手がかりは今のところ何もない」
「…………もしかして、私が母といたから……?」
「それも分からない。それだけの情報がない」
ルーゼントの顔色がどんどん悪くなる中、ルーゼントが切り出した。
「あの……これは確実ではないのですが、セナさんは聖女ですか?」
「……どうして?」
「以前ユークリッドで二十三人の毒の治療をしたとされる人物がいます。特定はされませんでしたが、私はそれがセナさんではないかと考えています」
「…………それを誰かに話したりは?」
「いえ。依頼があり騎士団で調査をしなければならなくて、私が所属する第四にも調査依頼がありました。私はセナさんの魔力を感じましたが、それについては報告していません」
「調査依頼? 誰からの依頼で、他がどのような調査結果だったか分かるか?」
「商隊からだとしか聞いてませんが、急ぎ詳しく調べるよう伝えます。ですが、ここまで遠いのでどうしても日数が掛かってしまいます」
ロイが痕跡を消したから大丈夫かと思っていたが、ルーゼントのように気づくものもいる。もしかして他にも何か気づいたものがいたとしたら……。
少しでも手がかりになるのであれば……。
「ルーゼント、すまないがここでしばらく待っていてくれないか。すぐに戻るから」
「……はい」
不思議そうな顔をしたルーゼントを部屋に置いて、私は父の部屋を訪ねた。
「父上、少しよろしいですか?」
「ギル、どうした?」
私はルーゼントの話を詳しくした。
「早く動きたいので転移を使ってユークリッドにルーゼントを連れて行きたいのですが……」
「分かった。ギルを信じているよ。気をつけていってきなさい」
「父上、ありがとうございます」
礼をして父上の部屋を去ると自室に戻った。自室ではルーゼントがソファーに座ったまま私に顔だけ向けた。
「待たせてすまない。では行こうか?」
「ど、どちらに?」
「ユークリッドに」
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