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32 ルーゼント side

 

 セナに関してはロイやサイのおかげで単なる移住者となっているが、彼女はギルバートの妹だ。

 自領から連れてきた手の者にテイラー家を探らせたところ、ユークリッドで妹が行方不明となっていたことが数日前に分かった。またテイラー家では以前、公爵令嬢を長きに渡り虐待した罪で家庭教師が処刑されている。セナに関して他の情報は巧妙に隠されていてなかなか分からなかったが、私にはその情報だけで十分だった。


 ロイは護衛で、サイも……護衛か何か。リンファは侍女であろう。そしてテイラー家にとってセナは行方不明ではなく……、行方不明と見せかけているのはおそらくラッセンの事情が絡んでいるのだろう。


 一度ギルバートに連絡を取ってみるのも手かもしれないな。


 それから数日後、不思議な事件が起こった。


「この場所か……」


「そうみたいですね」


 報告によると、一昨日、二十三人の商隊が誤って毒を食べ全滅になるかもしれないというところに、何者かが治療して助けたらしい。商隊はお礼をしたいらしく騎士団に申し出てきたが治癒師の痕跡がなくたどれなかったらしい。


「特に何も残ってないですね」


「…………」


 辺りは複数の足跡が入り乱れていたため、本当に事故があったのかどうかさえも分からない。が、私には分かってしまった。微かにセナの魔力を感じた。


「ロイド、戻ろう」


「えっ? いいのですか? と言っても、この有り様じゃぁ何も分かりませんね」


 ロイドは辺りを見回してため息をついた。


「死にそうな二十三人もの人を治したとすれば、治癒師が四、五人は最低でも必要です。毒の影響が元々ほとんどなかったのか、この事故そのものがでっち上げか。どちらにせよ、この状況では判別できませんね」


「そうだな。第四でも調査不能として報告しておこう」


 ここから漂う魔力を探るとセナのものがほとんどで、他にもあったがそれは微かだ。おそらく治療はセナ一人で行ったのだろう。

 二十三人もの人を……。

 魔力切れを起こしてなければいいがと思うが、これだけの人数となると悪い予感しかない。そして、これだけの人数を本当に一人で治したとすると、かなりの魔力保持者ということになる。ギルバートも魔力量がすごかったが、セナはそれと同等かそれ以上?


「副団長どうされました?」


「あ、いや、なんでもない」


 冷や汗が出そうになるのをなんとか気持ちを切り替えて団の方に戻った。団に戻ると宰相から念話が入り、パラビッドへの出発は三日後で、第一王子と同じ日に出発することを告げられた。


 森にいたということは、その地点では体調も悪くはなかった。おそらく団長が調べさせていたのに気がついてロイたちが休ませていたのではないかと思っている。ロイたちが出勤しているということはセナは安全な場所にいるはずだ。団長が命じた調査を私が終わらせたことで監視がなくなり森に行ったのだろう。そこで苦しんでいる人を見つけた。

 森に行った次の日には復帰する予定だったのだろうが、セナはたぶん魔力切れを起こしたのだろう。


 はあ、私の魔力を分け与えたい……。


 セナに会えないまま長期の内偵に入りそうなことも残念に思っていたが、なによりセナの容態が気になってしかたがなかった。


 出発する当日になり、ふわふわベーカリーにいつものように行くとセナがいた。会いたいと思っていたから幻だろうか。と思っていたらセナ自身に手を引かれて建物の脇道に連れられて行った。


「ルーさん! たくさんのお花をありがとうございました! これ、私が昨日焼いたので食べてください」


 ずっしりと重たい紙袋を渡されて驚いた。


「え? こんなに? ありがとうございます。うれしいな。じゃ、私からは花を」


「ありがとうございます」


 セナを見ると元々ほっそりと線の薄い体だったのが、さらに細くなっていた。私は思わずセナの頬に触りそうになったが、思いとどまった。


「こんなに痩せてしまって……」


「……もう……大丈夫です。ご心配おかけしました」


「セナさん……花ばかりごめんね。私はあなたが心配でたまらない。あなたに会えなくて……ずっと心配でよく眠れなくて……、あなたのために花を摘んでいる時だけが唯一癒される時間でした。あぁ……俺何を言って……」


 あー、俺は何を言ってるんだ。突然こんなことを言ってしまって。自己嫌悪で頭をガシガシと掻いた。


 するとセナの手が伸びてきて、私の目元をなぞった。


 !!


 離れそうになったセナの手を掴み、自分の頬にあてると、思いの外温かい。


「セナさんが無事でよかった……」


 心の底からそう思う。それなのにセナは人の心配をしだした。


「ルーさんもしっかり食べてください。ルーさんに何かあったら私も心配です」


「それなら……毎日元気にお店に出てください。それで私も元気になれますから」


 私は握っていたセナの手を持ちかえて、手の甲にチュッとキスをした。


「えっ? あっ……」


 セナは慌てて手を放そうともがいたが、私は放してやれず、さらに握るとセナは顔が紅潮した。


「セナさん、私はあなたのことが好きです。こんな気持ちを持ったのは初めてです。今すぐでなくていいですから、いつか返事をください」


「……はい」


 勢いがついて告白までしてしまった。今日の昼にはパラビッドに向けて出発するというのに。

 だが、もう一度セナの手の甲にキスをするも、セナの顔は紅潮したまま嫌がった様子はない。このまま健やかに、何事もなくセナが過ごせることを祈りつつ、セナと別れた。


 それから一月以上パラビッドから戻れないとはこのときは思ってもいなかった。





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