31 ルーゼントside
セナたちを服飾店に案内して二日が経った。朝いつも通りふわふわベーカリーに行くとセナがいなかった。
「リンファさん、セナさんは?」
「急病で……。しばらく休んで静養させようと思ってます」
「医者には?」
「はい。大丈夫です。しばらく忙しかったので疲れたのでしょう」
「お見舞いは……行ってもいいですか?」
「共同で生活してる家なのでそれはご遠慮ください」
「そう、ですか……」
私が通いだしてセナが休みだったのは一度もなかった。それだけに病気の具合が心配でたまらない。お見舞いも断られてしまった。
私はどうにかセナの様子を聞きたかったが、私に個人情報をそう易々と話すとは思えない。それならばお見舞いの品を渡してもらうことにしようと考えた。
次の日、屋敷の庭園から咲きそうな蕾と咲いた花を摘み取り、花束を作ってパン屋に向かった。リンファはお礼もなかなか受け取らない人だ。それならばと、うちに咲いていた花を持ってきたのだ。これが買った花であればダメなような気がする。
「リンファさん、これセナさんへのお見舞いです」
「花束ですか? これどうされたのですか?」
「うちの庭から私が摘んできたので、お店とは違って不恰好ですが……」
「ふふっ。そんなことないですよ。セナは喜ぶと思います。ありがとうございます」
リンファが快く受け取ったことに安堵した。
毎日そんな日がしばらく続き……かといってセナの容態は分からないまま一週間が経とうとした。セナに会えないことで私もなかなか眠れず、眠るために飲む酒の量が徐々に増えていった。
そんな折、国王から再度密命を受けることとなった。
「ルーゼントすまない。内偵を頼めないだろうか?」
「いかがなさいましたか?」
「パラビッド国に行ってほしい。詳しい内容は宰相から話させるが、ユークリッドの貴族と結託してどうもいろいろとやってくれてるらしくてな」
「承知しました」
宰相から、今は国内での内偵をやっていて、もう少ししたら相手の動きが分かるだろうとのこと。それが済み次第、相手国の方の内偵をしていくようだ。私の任務は他国の内偵の同行だった。表向きは友好国への訪問のため、第一王子に同行する。第一王子は一年後に王太子となることが発表されているため、警護人数も多く、その警護に紛れて入り込む予定だ。
ほんとは王都を離れたくはない。が、王命は絶対だ。
「ロイド、ちょっと頼みたいことがあるのだが……」
「改まってどうしたのですか?」
「実は第一王子の護衛でパラビッドに同行することになった」
「え? 近衛に移動ですか?」
「いや、第四のまま同行するだけだ」
「いつですか?」
「第一王子の出発は来週だが、私は上が調整中だそうだ。調整出来次第追いかけての出発らしい」
「私も同行でしょうか?」
「いや、ロイドは残って業務をしてくれ」
「承知しました」
ロイドが手帳に記入しているのを眺めながら、私はもう一つ頼み事をした。
「それと、プライベートの頼み事なのだが……ふわふわベーカリーの様子を見てくれないか? たまにでいいから……」
「セナちゃん……でしたっけ?」
「お前がセナちゃんって呼ぶな!」
ロイドがぷっと笑う。
「今まで何度もパンを頂きましたからね。それぐらいお安いご用ですよ。毎日は無理でもできるだけ行ってきますね」
「ありがとう。でもセナさんに手を出すなよ」
「分かってますよ。何かあれば連絡致します」
ロイドはニコッと笑い了承してくれた。
数日経ち今朝もふわふわベーカリーに行くがセナはいなかった。が、何かおかしい。知った魔力を感じる。
様子を見るため離れていると、知った顔の部下がふわふわベーカリーの常連に話しかけては魔力を使っていた。確かあいつは記憶を少しだけなくすことができる内偵に長けた者だ。
私はその者の背後にまわり、魔力を使って拘束する。
「何をしている?」
「副団長!」
「な・に・を・し・て・い・る・?」
「あ、これは……」
「これが最後だ……。な・に・を・し・て・い・る・?」
「私はだ、団長に命じられて調査をしておりました!」
「調査?」
「はい! セナという女性について調べよと命じられております!」
調べた内容を吐かせ、汗をだらだら流しながら答えた部下の拘束を解き、部下がホッとした顔をしたその時、私は部下の首を掴み耳にソッと告げた。
「余計な報告をすればどうなるか分かってるな」
「はい! 承知しております!」
「では、行け」
部下は一礼をして、転げるように走っていった。念のためロイドに念話でこのことを話すと、ロイドも知らなかったようだ。
団長め!!