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30 ルーゼント side

 

「ロイド、パン買ってきたから一緒に食べないか?」


 ロイドは今組んでいる部下であり同僚騎士だ。私の補佐の仕事を主にしてくれている。


「副団長ありがとうございます。頂きます」


 私は買ってきたものを机に広げ、ロイドに半分渡すと、ロイドは驚いた顔をした。


「これ、ふわふわベーカリーのじゃないですか!」


「……知ってるのか?」


「有名店ですからね。すごく人気店なのに低価格でおいしいって評判ですよ。もしかして副団長並んだのですか?」


「うん」


「いや、言ってくだされば次からは私が買ってきますよ」


「待つのも楽しかったからいいよ」


「そうですか? では朝飯食べ損ねてたので遠慮なく頂きますね」


 ロイドはニコニコしながら大口を開け食べていく。私も一口食べようとパンを持った。


 ?


「柔らかいですよね」


 ロイドはモグモグしながら話し掛けた。

 私はそれに頷いて一口食べると、ふわっとした食感に麦の香りがし、これはバターだろうか?とにかく食べたことがないパンがそこにあった。


「おいしいな」


「ふふっ。副団長もそんな表情をされるのですね」


 ロイドは楽しそうに食べていた。

 紅茶も一口飲むと……ん? これはうちの紅茶か?

 もう一口飲むと、やはりうちの領の紅茶だった。ホーク領は辺境の地ということもあり、茶葉はこちらにはある特定の商会からしか入ってきていないし、入る量も少ない。わざわざ購入してくれていたことに、思わぬところで繋がりができたようでうれしくなった。


 昼休憩に入ると一旦うちに戻ってからふわふわベーカリーに向かった。ふわふわベーカリーは商店街の中にあるので馬は馬場に預けてから少し歩く。

 店に着くと、ちょうど店を閉めようとしていたので慌てて中に入ると店員が皆出てきた。


「セナさんとおっしゃるそうですね。昨日はありがとうございました。ほんとに助かりました」


 昨日のお礼を言うと、やはり年配の女性はいい顔をしなかったが、私が持ってきた紅茶の茶葉をお礼だと渡すと驚いたセナが店の奥に行き、店にある茶葉の袋を持ってきて見比べていた。私が持ってきたものは領内で特別に作ったサイズの大袋だったため、セナは驚きつつも笑顔で受け取ってくれた。そのせいか、他の店員の顔も和らいだ。


「ホーク様、セナが喜んでいるので今回は受け取ります。けれども困った人を助けるのは当たり前のことです。どうか今後はお気になさらないでください」


 年配の女性は信念を持ってお礼はいらないと言っていたようだ。困った人を助けるのは当たり前……。言うのは簡単でも実際やるのは大変だが、この人はそれを実際にやっているのだろう。


 その後すったもんだの末、セナにルーさんと愛称で呼ばせることに成功し、年配の女性がリンファという名前、厨房がロイとサイだと知った。


 それから私は毎日のように店に通いつめた。縁を繋ぐためにある意味必死だったかもしれない。常連の一人となり、お年寄りとの会話も毎度のこととなった。セナに会えることはとても楽しい毎日だったが、セナには私の好意は届いていないようだった。


 ある日警護を終え、帰宅する途中でセナとロイを見かけた。声を掛けようと近づくと、ロイはセナを背後に隠し、守るような体制に入った。


「あ、ルーさんでしたか……」


「驚かせてしまったようですみません。セナさんが見えたので……」


 ロイは何かの訓練を受けているようだがあえて指摘をするようなことはしなかった。

 セナに聞けばリンファへプレゼントする服を探しているとかで困っているようだったので、私が知っている店を案内することにした。どの店も庶民服としては少し値段は張るものの品質がよく、プレゼントには最適なものであった。


 案内しながらセナが好きそうなものも合わせて聞いてみるが、あまり物欲はないのか興味を引くものもなく、また好みのものもよく分からなかった。ロイからセナは前からほしいと言ったことがなく、あるもので納得する子だったと聞いた。

 どうやらリンファとロイはセナの親代わりのようだ。


 買い物が終わり、互いに挨拶をしていると団長を見かけたので手を挙げた。


「だんちょー!」


 団長は私に気がつき走ってくるなり、


「ルーゼントが呼びつけるなんてめずらしいな」


 呼びたくはなかったが、団長から毎日のように治療をしてくれた人を紹介しろと言われれば、自分がいるときにサッと済ませるぐらいしかしたくない。パン屋さんに直接連れていくのも嫌だ。


「ふわふわベーカリーのセナとロイです。はじめまして」


「私は第四騎士団団長のア」


「団長! 彼女が先日報告した方です」


「……。先日はルーゼントを助けていただきありがとうございました」


 名前を名乗ろうとしていた団長の言葉を遮ると、団長は名乗らないまま礼を言った。名前まで名乗らせるかよっ。


「いえ、たいしたことはしてませんので。それよりも今日ルーさんに手伝ってもらったことの方がありがたくて。ルーさんありがとうございました!」


「ルー……さん?」


 団長が困惑の表情を浮かべていた。


「はい。ルーさん」


 ふふふ。


「では、私たちはこれで失礼いたします」


「はい。ではまたあさって!」


「はい、お待ちしております」


 セナたちと分かれ、私はセナたちが見えなくなるまで目で追っていると団長がぽつりと言った。


「ルーさん? あいつらは庶民だろ。そんな風に呼ぶなんて無礼ではないか?」


「元はこの国の者ではないようなので庶民かどうかは知りませんが、私が呼ぶように言ったんですよ。ルーと愛称で呼べと」


 私はチラリと団長を見てから、セナたちがいる方向を見たまま答えた。貴族で異性に愛称で呼べとの意味は、この国では婚約関係以上にしかしない。といっても今ではふわふわベーカリーの常連もルーさんと呼ぶが。


「信じられないな。たかだか傷を治してもらった程度で?」


 私は怪我の報告の時、骨折の話はせず、傷を治してもらったとだけ報告していた。その程度の子に愛称で呼ばせることが信じられないらしい。


「信じなくてもいいですが、あの子に手出ししたら許しませんよ」


 団長は信じられないという顔をしたままだったが私は特に気にせず挨拶をして団長と分かれた。



誤字報告ありがとうございます!

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