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29 ルーゼント side


「えっ……あ……すごい……」


 何だ? この魔力は。

 ギルバートによく似た香りの心地のよい魔力。私は身体中をチェックすると、驚いたことに全身の怪我が治っていた。思わず女性の両手を掴んだ。


「ありがとう! こんなにすばらしい治癒は初めてだよ! 肩にあった古傷まで治ってるなんて!」


 治癒どころか魔力の香りまで自分好みだ。だが、もう一人の年配の女性に両手を掴んだことを窘められハッとした。


「あぁ、すまない。つい興奮してしまって失礼しました。治癒のお礼がしたいのですがどちらの治療院にお勤めですか?」


 なんとしても、逃したくない。この人はどこの人だろうか。

 だが、女性は首をかしげる。


「あ、いえ……私たちは商店街にあるふわふわベーカリーで働いてます」


「え? これほどの治癒の使い手がパン屋さん?」


 ふわふわベーカリー? 聞いたことがないな。新しくできた店だろうか。


「お礼はいりませんので……」


 年配の女性が感情をなくしたように言って立ち去ろうとするので私は慌てた。


「私は第四騎士団のルーゼント・ホークと申します。お店の方に今度お伺いしますね」


「お礼は入りません」


 年配の女性は頑なにお礼はいらないと言っていたが、治癒の女性はかわいく頭を下げていった。青い瞳の女性は一言でいうなら美人だ。とても綺麗な顔をしていた。

 ギルバートの親類だろうか。面影がよく似ているし、何より魔力がよく似ていた。気のせいかな……。

 理想が服を着て歩いていることにしばらくボーッとしていた。


 ふわふわベーカリー。戻ったら調べてみよう。


 戻ってすぐに上司に報告をし、早速ふわふわベーカリーについて調べると新しくできたかなりの人気店のようだった。男性二人、女性二人で切り盛りしているらしく、人気店のパンは昼には売り切れるらしく朝イチが確実だとか。それならば朝イチに行ってみよう。

 こんなに夜が明けるのが楽しみな日が来るとは初めてだ。


 次の日、職場に行く前にふわふわベーカリーに寄った。お礼はいらないと言われていたのでその点は追々しようと一先ずパンを買いに行く。

 人気店らしく朝イチに来てみたがすでに行列ができていた。

 近所の人だろうか、とても和やかに立ち話をしながら開店を待っていた。


「おや、初めて見る顔だね」


「騎士様も買いにいらっしゃるんだねえ」


 庶民の家に近いからか、客を見ても私以外に貴族はいないようであった。


「評判のいいパンを食べてみたくて来ました」


「ここのパンは驚くわよー! 一度食べたら止められなくなるわよ!」


「それは楽しみです。それにしてもすごい行列ですね」


「パンはもちろんだけどセナちゃん目当てのじいちゃんらも多いからね」


「セナちゃん?」


「売り子さんでかわいい子だよ。騎士様かっこいいからセナちゃんどうだい?」


「おい、ばあさん。セナちゃんを勝手に勧めるな!」


「じいちゃんらはこれだから……。とにかくかわいい子だよ」


 それから楽しそうにご老人同士雑談しだした。

 客はみな気さくな人が多いらしく、他にも私に気軽に話しかけてきた。普段ならこのような交流は仕事でなければしないが、ここは存外居心地が悪くない。


 セナちゃん……か。


 店が開店し、そろそろ順番が来た頃、買い物が終わったご老人に「セナちゃんいたわよ。がんばって」と声を掛けられた。すっかりセナ目当てだと思われているが間違ってはいない。


 ついに私の番になった。


「先日はありがとうございました! 今日は評判のパンを買いに来ました。どれがおすすめですか?」


「いらっしゃいませ。こちらとこちらが今日のおすすめです。良いジャムが手に入ったのでこちらもおすすめですよ」


 鈴の鳴るようなかわいらしい声で案内してくれる。どのパンも見たことがないもので、お勧めを買うことにする。


「ではそれらを二つずつお願いします。あと、飲み物はありますか?」


「今日は紅茶ならございます」


「では、それも二つお願いします」


「はい、ありがとうございます。お会計はあちらです」


 会計をしている女性と昨日は森に来ていたのか。こちらはだいぶ緊張しているようだ。購入し終わり、店を出るとご老人たちから「かわいかったでしょ!」と次々に声を掛けられた。笑顔で対応してから職場に向かった。


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