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「セナ?」


 声に気がつき、ゆっくりと目を開けると間近に兄の顔があった。


「セナ、おはよ」


「おはよう……ございます」


 私が起き上がろうとすると、兄に再びベッドに戻らされた。


「まだ横になってなさい」


「は、い……」


 起きたばかりで頭が働かないけれど、兄?

 私が不思議そうにしていたからだろうか。兄が話し出した。


「時間ができたからたまたま来たら、セナが目覚めないとリンファに聞いてね……。私がセナについているからと、リンファを追い出した」


 兄がニカッと笑う。


「私、また迷惑を掛けて……」


「迷惑だなんて思わなくていいよ」


 兄が優しく撫でてくれるので、思わずポロッと涙が出た。


「ルーゼント・ホーク……」


 えっ?

 私は涙が出ていることも忘れ、兄を見た。


「どこから話そうか……。

 ルーゼント……。

 彼は以前、ラッセンに来て私と共に魔法の研究をしたことがあってね。と言っても一月足らずで短いものだったけれど、なぜか私になついてね」


 兄は当時を思い出しているのか、天井の方を見ていた。


「彼は真面目だが、私以外とは最低限しか話さず、かといって聞かれたことには丁寧に答えるような人でね……。セナは彼となにかあったの?」


 兄は私の目を見つめた。


「…………何もないです」


「聞き方を変えるね。彼に告白でもされたかな?」


 !!


「…………は、い。あ、いいえ」


「うん?」


「でも……私がテイラー家の者だと分かったら、お兄様たちの迷惑になるから……お断りするつもりで……いたのですが、それも必要なくなりました」


「ん? 私たちの迷惑になるから断る?」


「あ、いえ……はい……」


「セナ、そんなことは考えなくていい。ラッセンからユークリッドに行かせたのは自由に生きてもらいたいからだよ。

 セナはすでにユークリッドに受け入れられている。セナがテイラー家の娘だと分かっても、セナがラッセンに戻ろうとしない限り、誰も手出しはできないはずだよ。

 それに、テイラー家からの行方不明届けは一年を過ぎて更新しなかったからとっくに切れている。国から探されることはないよ」


 えっ?

 探されることはない?

 私が絶句していると


「迷惑だなんて思わなくていいよ。セナは自由だ。でも私がセナの兄だということは忘れないで。いつでも助けたいし、頼られたい。それは父上もエリサも一緒だよ」


「お兄様……」


 兄は私の頭を撫でるとニコッと笑った。


「ところでセナはルーゼントのことはどう思ってるの?」


「えっ、あっ……」


 私は昨日のことを思いだし、青ざめる。


「セナ大丈夫? リンファたちに聞いたけれど、ルーゼントが女性と歩いていた件、実際は思っているものと違うかもしれないよ。ルーゼントに直接話を聞くまでは判断しない方がいい。私の方から探ってみようか?」


 真剣な兄の顔はとてもかっこいい。テイラー家は美形の家族として有名だというのをなぜか今思い出した。


「あ……いえ、しなくて……大丈夫です」


「セナ……」


「自分でなんとかします」


「…………」


 私は何も返せない、何もできないくせに、やってもらってばかりなのは心苦しい。私はこれ以上誰に対しても負担を掛けたくなかった。お兄様が何か苦しそうな顔をしたので、私は慌てて話をそらす。そうしないと自分も耐えられない気がした。


「お兄様は恋人は?」


「え? ……恋人……? うーん……。セナより気になる人ができたら作ろうかな」


「私より?」


「六歳のときからセナのことばかりだったからね。私の人生の大半はセナのことを考えていたよ」


 そう、だったんだ……。


「私は……私の初恋はお兄様でしたよ」


 私が思ったことを口にすると、瞬間、兄はひどく驚いた顔をした。

 私が前世でしていたゲームのときから、私が好きだったのは兄だった。兄ルートはなくて、さらにゲームには少ししか登場しない。それでも兄が出てくる場面はよくスクリーンショットで画像保存をしていた。


「セナ、ありがとう。うれしいよ」


 兄は私を抱き寄せ、頬にチュッとキスをした。


 !!


 私の顔は一気に赤くなった。


「じゃ、お姫様、そろそろ食事にしようね。一昨日の夕食から食べていないって聞いたよ」


「お、一昨日?」


「そう。眠ったままだったからね。目覚めてよかったよ」


 上ずった私の声に兄はクスクス笑いながら私の額にキスをすると、私を横抱きにしてテーブルまで運び、兄の膝の上に座らせた。

 食事をメイドのラウラに頼むと、すぐに運ばれてきた。


「さ、セナはどれが食べたい?」


 だいぶ慣れたこの行為も、今はドキドキしている。きっと顔も真っ赤になったままだろう。兄の肩に顔を埋めて顔を隠すと、ポンポンと頭を優しく叩かれた。


「セーナ! 食べないと元気になれないよ?」


「…………」


 なんだか兄のものすごくご機嫌な声が聞こえてくるが、キスをされた私の顔はなかなか引いてくれない。


「じゃ、もっといろいろなとこにキスしようかなあ」


 え?

 思わず顔をあげて兄を見ると、ニッコリと笑いながら私を見ていた。


「やっとこっち向いたね。セナの告白はすごく嬉しかったよ。私もセナのことが大好きだ。きっとこれは一生変わらないだろう。

 でもね、セナは忘れたいと思わないと忘れられない人がいるのも事実。忘れようとするなとは言わないが、ルーゼントは誠実なやつだから、何か事情があるということは理解してやってほしい」


「……はい」


 その後の私は雛のようにせっせと食事を口に入れられ、お腹いっぱいになるまで食べさせられた。



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