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 目が覚めるとまだ日は高いようでそんなに寝ていないのかなと時間を見ると一時間ほどしか経っていなかった。

 前世の私は実母の顔を覚えていなかった。ひどいことをされたのは覚えているが、藤堂家で過ごした日々が少しずつ癒してくれた。


 今の私も誰かの癒しになれたらいいのにと思う反面、即座に私には無理だと思い直す。今の家族にさえ生まれたときから悲しい思いをさせてきた。みんなが優しいから忘れがちだが、本来は母を死なせた嫌われる立場だ。


 気分を変えようと食堂に水を飲みに行くと、食事の用意をしていたモーリアに驚かれた。


「まぁ! セナ様。お目覚めになられたのですね。よかったです」


 ホッとしているモーリアに聞くと、私は一日眠っていたようで、リンファたちは私を心配しつつ、仕込みのため店に行ったらしい。


「一時間ほどしか経っていないと思ってました」


「お疲れだったのでしょう。今、お食事ご用意しますね」


 モーリアはパスタとスープとサラダをテーブルに用意し、私はそれを味わって食べた。そのあと、モーリアが湯船を用意してくれたのでゆっくりと湯浴みをした。

 湯船に入るとだいぶ頭がすっきりしてきたものの、昨日会えなかったルーさんのことを思い出すと胸がチクチクした。


 魔力を使えるようになってから、体の水分を飛ばすのも、髪の毛を乾かすのも一瞬でできるようになり、湯浴み後はいつも一瞬で乾かす。体をきれいにする魔法もあるにはあるが、私は湯船に入る方が好きなのであまり使うことはない。


「ルーさん、明日は来るかしら……」


 私は独り言を無意識のうちに発しながら部屋に戻るとベッドに横になった。考え事をしているといつの間にかリンファたちが帰って来ていた。

 リンファは部屋に入ってくるなり


「セナ! 大丈夫ですか?」


「あ、はい。心配かけてごめんなさい。私は大丈夫です」


 私はビクッとして慌てて起き上がりながら答えると、リンファはホッとした顔を見せた。


「昨日は熱はないようでしたが、心音がひどくゆっくりとしていたので心配しておりました。無事に目覚められて安心しました」


「もう大丈夫です。リンファたちに迷惑ばかりかけてすみません」


 私は頭を下げるとリンファは首を振り、ニッコリと笑う。


「迷惑だなんて思いませんよ。少しでも食べられるようでしたらみんなと一緒に夕食にしませんか?」


 リンファに誘われ食堂に行くと、ロイ、サイ、モーリアが食事の準備が終わった食卓で待っていてくれた。ずいぶんと心配をかけてしまっていたようで申し訳なく思い謝ったが、ありがたいことにロイたちはあたたかく迎え入れてくれた。


「さ、食べましょう!」


 リンファの声にロイたちは食べることに専念し、私はその様子を見てあることを漠然と考えていた。




 ◇




 あれから一週間ほど、何事もなく過ごした。前世の夢を見ることもなく、そしてルーさんも店に来ることもなかった。


「ルーさん、いらっしゃいませんね」


「そう……ですね……」


 私は店が終わるとサイと一緒に森に来ていた。今日の森は穏やかで、私は先に木の実をかごいっぱいに集める。サイはその間、食べられる魔物を刈って捌いていた。

 粗方作業が終わると、サイに魔法を習うために私は結界を張った。サイはある程度説明をしたあと、実際に幻影を出して見せてくれた。


「まずは自分を出してみます。頭の中で細部まで想像することが大切です」


「わっ! すごい! サイが二人いるわ」


「まずは見えるようにすることを目指しましょう。それが出来たら保持をしつつふらつかないように気を付けていきましょう」


「はい!」


 私はサイの説明が良かったからかイメージがしやすく、すぐに自分の幻影を出すことができた。そしてそれを保持することを指示されたが、これがなかなか難しい。何度も何度も失敗しながら、少しずつ出せる時間が増えていった。


 幻影をある程度の時間出せるようになると、サイは幻影を出したままを保つように言ってから、雑談としてルーさんの話をしだした。


「セナに気があると思っていたのですがね」


「……そんなこと……ないですよ」


 私はドキドキしながらも、目の前にゆらゆらと揺れる自分をうつし出していた。


「セナその調子です」


 サイに励まされながら幻影を保つようにするが、サイのように滑らかには全くできず、話をしながら保つのは難しくかなりゆらゆらしている。


「セナ、初めての練習でここまでできるのは素晴らしいですよ」


「本当ですか?」


 すると、ホログラムのように映されていた自分の姿がパッと消えた。


「あ……消えちゃった」


「いえ、一日でここまでできるのはすごいです。私は出せるようになるまで三日掛かりましたからね。しかもモノトーンでしたよ。色がつくには更に三日かかりましたよ。それでも仲間内ではかなり早い方だったんですよ」


 サイは私を気遣うように言ってくれたが、ゆらゆら揺れないようになるまでどれくらい掛かるのだろうか。ゆらゆら揺れているうちは実際には使えないのでできないのと一緒だ。



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