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「セナ、ブレスレットははずさない方がいい。ブレスレットで抑えてる分だけ魔力を使うなら聖女と疑われることもないだろうが、もし、今回みたいに使うときは回りの記憶を操作しなければ王家に囲われてしまうよ」


 私はブルッと震えた。

 助けたいだけで動いては、今回みたいにみんなに迷惑をかけてしまう。


「お兄様……すみません。私、何も考えずに……」


「今回のようにうまくいくとは限らないからね。セナ……」


「はい。気を付けます」


「もしものときのために、ロイたちには私から話しておくから、セナも考えてみて」


「……はい」


「セナ……そんな顔しないで。セナはたくさんの人の命を救ったんだ。これは誇れることだよ」


 うつむきがちな私に兄は優しく言ってくれたが、聖女の話を考えるとなかなか気持ちが浮上できなかった。ブレスレットはしっかり身につけて、魔力を使いすぎないようにしなくては……。

 そんな私を見て、兄はゆっくりと背中を擦ってくれた。まるで大丈夫だよと言われてるようで、背中が暖かかった。


 しばらくすると、リンファが二人分の食事を運んできた。


「ギルバート様もこちらで召し上がってくださいね」


「リンファ、ありがとう」


 食パンも用意されていた。レシピは書いていたが、ロイとサイはレシピだけで上手に作り上げたようだった。


「セナ、まだ無理はしなくていいからね」


 兄はその言葉と共に私を抱き上げ、食事があるテーブルまで行くと、私を膝上に乗せてから座った。


「おにぃ……さま?」


「無理はしなくていいからね」


 兄はニッコリ笑って、私用のスープをすくい、私に食べさせた。


「セナ、ゆっくりお食べ」


 有無を言わさず、口元に運ばれてくるスープをこくんと飲み込む。この行為にだんだん慣れてきたのか、今回はスープの味がしておいしかった。



 三日後、ようやく店に出る許可が出たので開店から入ると、次々とお客さんに声を掛けられた。


「病気は治ったのかい? なんだか痩せてしまって……。あとで差し入れ持ってくるね」


「大丈夫? もっと食べるんだよ」


「無理してはいけないよ」


 そして、花束をずっと贈り続くてくれたルーさんが来店した。


「あ、リンファ、少し抜けますね」


「はい」


 モーリアの店からの手伝いはまだしばらく来てもらっているため、接客を任せてルーさんを店外に連れ出した。


「ルーさん! たくさんのお花をありがとうございました! これ、私が昨日焼いたので食べてください」


 ルーさんはわりと甘いパンも買うことが多いので、食パンに野菜とカツを挟んだサンドイッチと先日森で取ってきたクルミを入れたパン、ブルーベリーの甘いジャムパンの三種類を入れた袋と紅茶を手渡した。


「え? こんなに? ありがとうございます。うれしいな。じゃ、私からは花を」


「ありがとうございます」


 ルーさんは荷物を片手に持つと、さっきまで微笑んでいた表情を曇らせた。私の頬に触るように手を伸ばしたが、結局触らずに手を下ろした。


「こんなに痩せてしまって……」


「……もう……大丈夫です。ご心配おかけしました」


「セナさん……花ばかりごめんね。私はあなたが心配でたまらない。あなたに会えなくて……ずっと心配でよく眠れなくて……、あなたのために花を摘んでいる時だけが唯一癒される時間でした。あぁ……俺何を言って……」


 ルーさんは頭をガシガシと掻いた。よく見るとルーさんの目元にはクマができ、痩せた感じがする。

 私は思わず手を伸ばしてルーさんの目元を親指でなぞるように触った。ルーさんはビクッと一瞬したが、すぐに私の手をつかんでそのままルーさんの頬に当てた。


「セナさんが無事でよかった……」


「ルーさんもしっかり食べてください。ルーさんに何かあったら私も心配です」


「それなら……毎日元気にお店に出てください。それで私も元気になれますから」


 ルーさんは握っていた私の手を持ちかえて、手の甲にキスをした。


「えっ? あっ……」


 私は慌てて手を放そうとするが、ルーさんが放してくれず私の顔だけが真っ赤になっていった。


「セナさん、私はあなたのことが好きです。こんな気持ちを持ったのは初めてです。今すぐでなくていいですから、いつか返事をください」


 ルーさんの赤い瞳が揺れながら私を見ていた。


「……はい」


 私は小さく返事をした。つかまれていない方の手を花束を握ったまま自分の頬に触れると熱を持っていて、自分の顔の熱さが分かった。


 ルーさんが私のことが好き……?


 ルーさんはもう一度手の甲にキスをすると手を放してくれた。


「セナさん、いい返事を待ってます。私はあなた以外考えられない」


「……はい」


 私の返事を聞いたルーさんは、パンの袋を上げて「これ、ありがとう」と言いながら馬場の方へ走り去っていった。


 一人残った私はルーさんの後ろ姿が見えなくなるまで目で追いかけ、ルーさんが見えなくなると花束に目を落とした。今日は白いマーガレットの花束で明日、明後日にでも満開になるだろう。私は顔の熱が冷めるのを待って店に戻った。


「セナ、渡せましたか?」


「あ……はい」


「セナ?」


「………………」


 気がつくと、私は奥にある休憩室に座らされていた。部屋には私だけで、みんなは仕事をしている声がする。


 ルーさんが私のことが好き……?

 ほんとに?


 私は現在、自国から逃げてる。私だと分かれば公爵家にも迷惑をかけてしまうかもしれない。しかし、それは許さることではない……。


 考えるまでもない。お断りしよう。



 でも……。


 なんだか胸のあたりがチクチクする感じがする。が、これはきっと気のせい。しばらく休めば治るはず……。ほら、もう治まってきた。


 私は呪文のように、心の中で大丈夫、大丈夫と唱えていた。


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