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 私の名前はセナ・テイラー。

 私は家族みんなから嫌われる落ちこぼれ。

 十五年前、私はテイラー公爵家の次女としてこの世に生を受けた。家族みんなが金髪に青い瞳を持つテイラー家は美形の家族として有名らしいが、真相は分からない。

 そして私は現在、あの日が来るのを静かに待っていた。


 家族は公爵である父アスワン、子爵になった六つ上の兄ギルバート、ニつ上の姉エリサの四人家族だ。私が産まれてからすぐに母は持病が悪化して亡くなったので母の記憶はない。


 といっても、家族のこともよく分からない。私自身、物心がついたときには部屋に控えている侍女がそばにいるくらいだった。例え突然の動悸で動けなくなったり、倒れたりしても侍女がいるだけで、家族と接した記憶がほとんどなかった。


 なぜ私は一人なのだろうと思うこともあったが、私が産まれてすぐに母が亡くなったため、家族からは私が母の命を奪ったから恨まれていると、一人目の家庭教師だった人から何度も聞かされた。母の命を奪う原因であれば、恨まれても仕方がないと。


 特に兄から恨まれているようで、兄から話しかけられたことは今まで一度もなく、たまに出会ったときには、私の存在はまるで空気のようで、兄のあの青い瞳に私は写ったことがあるのだろうかと思う。


 父は家を不在にすることが多く、会っても挨拶を交わす程度だ。兄や姉には話しかけているのを見たことがあるので、やはり私のことを恨んでいるのだろう。

 父からは自室と食堂以外の利用を禁止され、一応食堂は使えるが食べるときはいつも一人だったし、余計なことはするなと常に言われていた。といっても入学式を含め学園にも通えなければ、部屋の外にも出たことがないので、私はいつも一人だった。父からは、綺麗な石が埋め込まれた金のブレスレットを必ず身につけているようにと渡されたのが記憶にある唯一のプレゼントだ。


 姉は華やかな顔立ちをしていることもあり、周りにたくさんの人が集まってくる。たまに見かける姉は金色のさらさらした髪をきれいに結い上げ、派手ではないが、いつも綺麗なドレスを姿勢よく着ていたので誰の目からも凛としている人のように見えるだろう。

 めったに会うことはないが、姉からはお友達など周りに人がいるときだけ、「あなたも食べる? 部屋に届けさせるわよ」「眠そうね。お昼寝してらっしゃい」など姉妹のように話しかけられる。

 私はそんな一言一言でも内心、嬉しかったが、ある時を境にそうは思わなくなっていた。




 あれは確か五年前の十歳ごろのある日のことだった。


 話しかけられることが極端に少なかったためか、言葉の習得が遅く、六歳から家庭教師がついたが、先生にはよく叱られていた。


「ギルバート様やエリサ様はよくお出来になるのに、どうしてセナ様は同じようにお教えしてもお出来にならないんでしょうね? お母様のお命を奪ったのですから、これぐらいすぐに覚えてください」


 何度も何度も言われ、その言葉だけはすぐに覚えたほどだった。その後必ず背中を鞭で打たれるまでがセットだ。私は言葉も知らなければ、表情もどうすればよいのかも分からず、泣きもせず無表情な私に家庭教師は益々イライラしてエスカレートしていった。

 その日は体調の悪さも重なって、ひどく打たれた拍子にそのまま椅子から倒れ、運の悪いことに側にあったチェストに頭を打ち付けたらしい。

 頭部にドロリと流れ出るものを感じながら、そのまま意識を失った私は、その後、長い長い夢を見ることとなった。




 ◇



「あー! やっと仕事が終わったー!」


 夢の中の私はPCから目を離し、窓の外を見て背伸びをした。今日は一日書類をまとめてたから肩凝りが半端ない。週末は趣味のパンでももりもり焼いて肩凝りをほぐすか。


「さくら先輩お疲れ様でーす。今日はカラオケに行きます?」


 後輩の晴がすかさず話しかけてくる。晴は同僚で私の一年後輩で入ってきた新人だ。


「お疲れ様ー。ごめんね、今日はパス。寝不足だから帰って寝たい」


「またゲームしてたんですか?」


 晴がクスクス笑う。


「はは、やっと昨日クリアしたのよ。だからしばらくはゲームはしないつもり。眠たいし!」


「今回はどんなゲームだったんですか?」


「エリサっていう女の子が王子と側近を攻略するゲームなんだけど、一ゲームで誰か一人だけしか攻略できないし……、だから五ルートもあってさあ。全部やるのに二ヶ月もかかっちゃった」


「二ヶ月! 長っ!」


「エリサは王子とのスチルが一番綺麗だったわよ」


「先輩は相変わらずどんなジャンルのゲームにも手を出してますね。前回は推理ものでしたよね」


「そういうわけでもないけど……でもしばらくは寝不足解消のためにゲームはやめるわ。ってわけで今日は帰るね」


「はい、お疲れ様でしたー」


 話しながらも片付けを終えた私は、後輩に手を振って会社から退社した。


 帰る途中お気に入りの珈琲ショップでサンドイッチとカフェオレを注文し、待っている間にスマホを確認した。新しい情報は特にないかな。

 サンドイッチとカフェオレを受けとると壁際の一人席につき「いただきます」と手を合わせる。ここのサンドイッチはパンがふわっふわですばらしくおいしいのだ。これを自分で作るのが夢だが素人にはなかなか難しい。

 私は食べながらスマホで昨日までやっていたゲームアプリを開くとエリサと五人の男の子たちの紹介ページとスチルを眺めていた。


 エリサは公爵令嬢で兄と妹がいたが、妹が生まれたときに母を失い、ショックからなかなか抜け出せなかった。だが攻略者と出会い徐々に立ち直り最後は攻略者と婚約する。

 兄は優秀だがエリサ同様にショックからなかなか抜け出せずに苦しむが、エリサが学園に入ったぐらいからゲームにはあまり登場しなくなる。

 妹は生まれたとき以外はモブ扱いでほぼ登場しない。何をやっても出来が悪いという設定があり、そのためからか早々にゲームから退場するのはどのルートでも一緒だ。


 そんなエリサが学園で恋をし、いろんなスチルを集めながら婚約するまでがこのゲームの大まかな内容だ。

 私はこのスチル集めに夢中になっていたのだが、それがやっと昨日全種類集まった。


「王子がやっぱり王道なんだろうけれど、私はこの子の方が好みだったなあ」


 私はスチルを眺めつつ、おいしいサンドイッチとカフェオレを楽しんでいた。

 だが、それ以降の記憶が私にはなかった。



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