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 実は団長さんのことは知っていた。正確に言うと、前世の私が知っていた……。ただ、前世の記憶はだいぶ薄れていて、名前も覚えていないし、姉の攻略対象だったことぐらいしか覚えていない。

 ということは、すでに姉と繋がっているかもしれないし、私がこの国で行方不明だと言うことを聞いているかもしれない。


「ロイ、あの団長さんには警戒しましょう。少し危険な気がします」


「そう……でしたか? わかりました」


 ロイは不思議そうな顔をしつつも了承してくれた。お屋敷に戻ると、リンファに気づかれないようにプレゼントを隠し、デザートについてはロイからサイに話してもらうことにしたが、この数ヶ月で二人はすっかり料理人である。


「セナ、おかえりなさいませ」


 ロイと話しているとリンファが厨房から出てきた。と、共にパイナップルの爽やかな酸味の香りがふわりとした。


「なんだかおいしそうな香りが……」


「店の大家さんが、珍しいものが入ったからとお裾分けしてくださったのですが、食べ方がわからずでサイが悩んでおります」


 大家さんはお隣で青果店を営んでいて、たまにこうしてお裾分けしてくれる。


「良い香り! 私もみたいです」


 話ながら厨房に行くと、やはりパイナップルがあった。それも五つも!

 ただ、前世の知識なので、これがパイナップルだとは言えないし、知ってるとも言えない。


「あら? これ本で見たことがあります。こんな香りがするんですね。良い香り~」


「食べ方って覚えてますか?」


「確か……芯と皮はよく洗ってから煮出したものを飲み、それ以外を実として食べる……だったと思います。私がやってみてもいいですか?」


「お願いします」


 サイからパイナップルを渡されると、水でじゃぶじゃぶ洗った。洗ったあと包丁で切ろうとすると、サイから「指示をしてください。私が切りますので」と包丁を取り上げられた。

 危ない手つきでもしていたのだろうかと思ったものの、私は説明に徹してサイに任せた。

 なんとか切り終わり、芯と皮を砂糖とレモンと共に煮出し、実の方は一口大に切って皿に並べてもらった。煮出し終わると、水と氷で割ってカップに入れて準備を終えた。


「いただいてみましょう」


 テーブルにおいたパイナップルとパイナップルジュースは色鮮やかな黄色と香りがとても食欲をそそる。フォークで実を刺し、ゆっくりと口に入れて咀嚼すると甘くジューシーな実が口内を潤す。

 懐かしい……。


「おいしい……」


 おいしいものはみんなを笑顔にする。通いのメイドさんにもお裾分けしたので、みんなで感想を言いながらパンに生かせないかを話し合った。

 結局、パイナップルを乾燥させ、食感が残る程度に切ってからパン生地に混ぜ混むことにした。こういう時、魔法は便利である。食材を乾燥させるのもあっという間に終わる。


「パイナップルが乾燥で味が凝縮されてるけれど、パンがほんのり甘くなる程度でよく合いますね」


「大屋さんへのお裾分けの分は置いててくださいね」


 パクパク止まらずに食べてるロイとサイを見ていると、一声掛けずにはいられなかった。



 次の日、結局パンを焼き直すことになった。新作のパンを焼くとだいたいが次の日まで残らない。今回もかなり多目に焼いたのに。

 新たに焼いたパイナップルパンを持って大屋さんのところに向かう。パン屋は今日は定休日なので、仕込み仕事がある午後までは私たちもお休みだ。その時間を使ってサイとともに行ったのだが今日は見慣れない店員がいた。


「おじさん、昨日は果物をありがとうございました! すっごくおいしかったです」


「そうかい? 香りがいいから試しに仕入れてみたけど、おいしかったのなら継続しようかな」


「そのときは店でも使わせてくださいね」


「もちろんだよ」


 おじさんはニッコリと笑いながら、見慣れない店員に手招きして呼んだ。


「セナちゃん、私の親戚でたまに店を手伝ってくれるアレンだよ。アレン、こちらはお隣のふわふわベーカリーのセナちゃんとサイさん。いつもパンをお裾分けしてくれてる」


「はじめまして、ふわふわベーカリーのセナとサイです」


 頭を下げるとアレンは濡れた手を拭きながら頭を少しだけ下げた。


「はじめまして、アレンです」


 アレンは頭を上げるとニカッと笑った。この人も背が高い。


 ん?


「わー!! アレンさん、血……血が出てる!」


 手を拭きながらではなく、手を止血しながらこちらに来たようだった。


「かぼちゃ切ってたらすべっちゃって……」


 なんでもないことのように言っているが、結構ざっくりいってそうだ。私は思わず治癒魔法を使ってしまった。


「おお! 治った。ありがとう!」


 アレンは手を裏表とヒラヒラさせて傷の部分を確認した。


「セナちゃん、アレンのためにありがとうね」


 店の契約のときに治癒魔法が使えることは知られていたので特に問題はないが、その知られた経緯も今と同じようにおじさんが怪我をしたからだった。

 この人たちはおっちょこちょいに違いない。


「あ、忘れるところだった。これ昨日いただいた果物で作ったパンです。食べてみてください」


 そう言っておじさんに渡すと「いつもありがとうね」と返事があり、私とサイは早々にお暇した。



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