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「セナ……すみませんでした。この国で身を隠しているのに騎士団の人と関わらせてしまいました」
「え? 騎士団の人だとダメだったの?」
「セナは今、ラッセン王国では行方不明ということになってます。隣国とはいえ、騎士団の人に身元を調べられたらラッセン王国に問い合わせがいかないとも限りません……」
「ふふっ。リンファ……ありがとうございます。私、あの方は大丈夫だと思いますよ。私たちが困ったことにはならないと思います」
「どうしてですか?」
「なんとなく? なんですけれど、きっと大丈夫です。それにこの国に来たときに金髪だった髪をかえて茶髪にしたのは、この国の人は誰も知らないからきっと特定はできないですよ」
リンファはすごく困ったときにする顔をしていたが、私は気にせずうちの方に向かって歩いた。
次の日の朝、店の前にはオープンを待つ人の列ができていて、その中に昨日の怪我人、第四騎士団のルーゼント・ホークがいた。ルーゼント・ホークは騎士団の服を着たまま店を訪れていたのでとても目立っていた。
「どうしましょう! 今日はセナを厨房にしますか?」
「リンファ、落ち着いて。大丈夫ですから!」
リンファは落ち着きがなくそわそわしていたが、私はその様子を見たからか、逆に落ち着いていた。
「さ、お店を開けますよー! みなさまいらっしゃいませ! 順番に中にどうぞ」
ルーゼント・ホークの番になると、リンファは緊張しながらもいつもの顔に戻っていた。
「先日はありがとうございました! 今日は評判のパンを買いに来ました。どれがおすすめですか?」
「いらっしゃいませ。こちらとこちらが今日のおすすめです。良いジャムが手に入ったのでこちらもおすすめですよ」
私もいつも通りの接客をする。
「ではそれらを二つずつお願いします。あと、飲み物はありますか?」
「今日は紅茶ならございます」
「では、それも二つお願いします」
「はい、ありがとうございます。お会計はあちらです」
袋に商品を詰めてリンファに渡すと、リンファもいつも通りに対応していた。
そしてルーゼント・ホークが店を出ると、リンファは明らかにホッとした顔を見せた。
その日も忙しく、昼過ぎまで途切れることなくお客さんの相手をし、そろそろ閉店準備に取りかかった頃ルーゼント・ホークが再び現れた。
今日、二度目ということもあり、ロイとサイも店内に顔を出した。
「セナさんとおっしゃるそうですね。昨日はありがとうございました。ほんとに助かりました」
ルーゼントが私に言うと、リンファが私の前に出た。
「お礼はいらないと言ったはずです」
「ですが、これだけのことをしていただいたので……」
ルーゼントは少し困った顔をしてから、袋を差し出した。
「これはうちの……ホークの領地で取れる紅茶です。たいしたものではないのですが……」
リンファが動こうとしないので、私が受け取って中身を見ると……
あれ?
私は厨房に行き、あるものを持って戻ってきた。リンファやロイ、サイは私の方を驚いて見ていたが、私が持ってきたものと、ルーゼントがくれたものを見比べるともっと驚いた。
「うちで使っている紅茶はホーク様の領地のものだったのですね」
「はい。今朝紅茶を買ったときに気づきました」
私が笑顔で言うとルーゼントは少し照れたような顔をした。
この紅茶はリンファがいろいろ飲み比べをして、うちのパンに一番合うと思った紅茶で、私たちも日常的によく口にしていた。そのため定期的に商会から仕入れていたが、まさかルーゼントの領地のものだったとは。
「これが……お礼のかわりと言ってはなんですが……」
「いえ、とってもうれしいです。それにこんなにたくさん!」
私がニコニコしているからか、リンファの顔からやっと眉間のシワが消えた。
「ホーク様、セナが喜んでいるので今回は受け取ります。けれども困った人を助けるのは当たり前のことです。どうか今後はお気になさらないでください」
そうリンファがいうと、ルーゼントは頷いた。
「わかりました」
それらのやり取りを見届けると、ロイとサイは厨房に戻っていった。
「ホーク様、ありがとうございます」
私は再度紅茶を見せながら言った。
「セナさん、ルーと呼んでください」
?
「実はホークと呼ぶとホークの主……つまり父のことを指すことになってます。ですので、ルーと呼んでください」
「ではルー様……」
「いや、ルーです」
「ルーさま……?」
「ルーです」
「ルー……、さん」
「ぷっ」
リンファは私たちのやり取りをみて吹いていた。ルーゼントはがっくりしつつも、それならと納得してくれたが、なんとも押しが強い。
これが私たちとルーさんとの出会いだった。
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