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「二時間で売り切れはさすがにまずいですね……」
「少しパンの種類を減らしましょうか?」
ロイとサイが心配そうな顔をしている。
「まだまだ私たちの動きにムダがあるのかもしれませんね」
リンファも心配そうな顔をしているので、私の考えを伝える。
「とりあえず作るパンを増やしましょう。当面は仕込みの時間を二時間早めましょう。そして追々人を雇って元の時間に戻るようにしましょう」
最初に決めた時間以上に働いてもらうのは気が引けるが、お客さんが来ても買えない……が続くのは良くない。
「そうですね。それとロイ。提案なのですが、パンの価格を端数なしにして切りがいいようにしませんか?」
「そうすれば、時短になりそうですね」
方針が決まるともう一度店に出すパンを考え、手間がかかるパンはしばらくはお休みすることにした。そうして営業を再開したら、昼過ぎにちょうど売り切れるぐらいになった。時間的には四時間。
私は次から次に来るお客さんの注文を聞きながら、手早く商品を袋につめレジ係のリンファに個数とともに渡す。するとリンファは会計をしてお客さんに渡すのがうちの店のやり方となった。
仕入れに関してはロイが、その日に出すパンに関してはサイが担当している。私は主に新作を考え、リンファは経理も担当している。四人がうまい具合に担当にはまったので、もめることなく楽しく仕事ができていた。
営業を開始して二月も経つとだいぶ慣れ、ムダな動きもかなり減り、効率が良くなった。週に一日の定休日はやることがまだまだ多いが、やわらかいパンがユークリッド国で受け入れられたことにひとまず安堵した。
「結局人を雇わなくても大丈夫になってきましたね」
サイが紅茶を一口飲んでからニッコリ笑うと、ロイも頷いた。
「最初は大変でしたけど、今ではパンの種類をもう少し増やしても大丈夫かと思うようになってきましたね」
「みんなががんばってくれたから、お店も軌道に乗ってきました。ありがとうございます!」
私がみんなに頭を下げると、リンファがあわてて私を起こした。
「セナが一番頑張ってますよ。それに毎日が楽しいです。セナのおかげです。ありがとうございます」
リンファを見るとニッコリと笑っていて、私もうれしくなった。私がやりたくて始めただけに、楽しいと言われるてホッとした。
「さて、今日は週に一度のお休みですが、セナはいかがなさいますか?」
「木の実を拾いながら魔法の練習をしてこようと思うの。リンファは?」
「もちろん一緒に行きます」
「結界もだいぶ上達しましたから一人でも大丈夫ですよ?」
「んー……。では、今日はセナが一人でできるか見ますね」
リンファは木の実を入れるかごを私に渡した。
私がリンファよりも先に歩き森に向かった。森の中は涼しくとても過ごしやすい。いつも練習している場所は少し開けていて草原のように草が生えている。
私は結界をはると、魔法で風を当てる。
「うん。跳ね返ってくるわね。うまくはれてるわね」
「はい。強さも十分あります」
リンファも結界の確認をすると、その後はいつも通りに一通りの魔法を繰り出す。それが終わると苦手な攻撃魔法をひたすら練習する。
玉のような汗をかきながら練習していると、人の叫ぶ声が聞こえた。
「うわっ!」
?!
「リンファ、なにかしら?」
「叫び声でしたね」
私は練習を止めリンファと顔を見合わせるとお互いに頷いた。結界をとき、声がする方に慎重に向かうと百メートルほど離れたところで馬がうろうろしていた。
馬にゆっくりと近づくと、地面に転がっている男性を発見した。歳は二十代だろうか。
「大丈夫……ですか?」
「ああ、よかった! 実は足を怪我したので動けなくて……。助けを呼んでもらえませんか?」
男性の足を見ると、向いてはいけない方向に足が向いていた。これは誰がみても完全に骨折だ。聞けば、飛び出してきた小動物に驚いた馬が立ったときに荷が崩れ、その拍子に馬の足に当たり、それが原因で馬が暴れてしまったらしい。本来ならこれぐらいでは落馬はしないが、考え事をしていたため判断が遅れ、変な落ち方をしてしまったらしい。
するとリンファが私を見て頷いた。
「あの……私、治癒が使えるので……治しますね」
と言うと共に、男性の体を治癒魔法で包むと骨折していた箇所は元通りになった。
「えっ……あ……すごい……」
男性は身体中をチェックすると私の両手を掴んだ。
「ありがとう!こんなにすばらしい治癒は初めてだよ!肩にあった古傷まで治ってるなんて!」
リンファはハッとしてすぐに男性に手を離すように言った。
「あぁ、すまない。つい興奮してしまって失礼しました。治癒のお礼がしたいのですがどちらの治療院にお勤めですか?」
「?」
治療院?
「あ、いえ……私たちは商店街にあるふわふわベーカリーで働いてます」
「え?これほどの治癒の使い手がパン屋さん?」
男性は驚いた顔をしていたが、リンファが私の前に出て男性に向けて
「お礼は入りませんので……」
そう言って私の手を引いて去ろうとすると男性が焦ったように言った。
「私は第四騎士団のルーゼント・ホークと申します。お店の方に今度お伺いしますね」
リンファは再度「お礼は入りません」と告げてから去ろうとしたので、私は手を引かれながら男性に頭を下げてその場を去った。