5話 世界大戦、そして転生
信長は平面の世界地図を見て改めて日本とは小さい国だと感じた。
そしてそのちっぽけな国ですら統一しきることができなかった己の思考、意志、行動がまだまだ足りていなかったことを深く思い知った。
その顔を眺めコアトリクエも遠慮がちに言う。
「…話続けますよ?」
「…うむ。気を遣わせた。すまぬ。」
この一言にコアトリクエは信長という人間が後世に伝えられるような暴君ではないことをはっきりと認識した。
「先ほど話した第一次世界大戦というのが、ここヨーロッパと言われる地域から世界中に波及。日本はイギリスやアメリカ側について清の中にあるドイツの植民地を攻め落として戦勝国となります。その結果戦勝国側で作った国際平和機構である国際連盟でも中心の常任理事国に落ち着きます。ここまでで徳川幕府を倒して5〜60年ってとこです。」
「勝戦しか知らずに60年…。勘違いした文化が根付いていそうじゃ。で、こっぴどく負けたんじゃろ?」
「はい。先の大戦の前から権益をめぐってそもそも微妙だったアメリカとイギリスとの関係が第一次世界大戦から15年くらいで世界経済が壊れて徐々に関係悪化。世界の列強国は自国の植民地や勢力圏を関税封鎖して自国主義に走ります。日本は植民地が少なく経済破綻が見えていたために清改め中国方面へ武力進出。そっちの戦線が上手くいかないままに対中国の戦線拡大が利権損失に繋がるアメリカが猛反発して石油…あー色んなものの動力原だと思ってください。船やら自動で動く車とか空を飛ぶ飛行機とかの。その石油は日本は輸入に頼っていてその輸出を止められたため資源確保のためにアメリカとも戦争開始。で、結果瓦解してアメリカにほぼ占領されたとも言える状況になります。」
これだけの説明で信長はある程度咀嚼した様子で溜息を吐きながら言った。
「圧倒的に準備が足りてないまま見切りと勢いで進んで瓦解か。勝ちしか知らん将が犯す誤ちの典型じゃな。第一そんな大事なものなんとか自国で賄えるようにするか別のもん持っておかにゃー。この時点で先の大戦とやらから4〜50年くらいか?」
「いや30年ですね。敗戦時点で1945年になります。徳川幕府崩壊から100年弱です。」
「なれば350年程度進んだか。とすると今の日の本はアメリカの属国なのか?」
「実態はさておき主権は取り戻していて独立した国ではあります。」
信長の眼光が一瞬鋭くなる。
「…軍権を握られておるか。」
「察しがほんとにいいですね。それなりの戦力はあるものの戦争を仕掛けられないよう法度…ルールを敷かれて、さらに敗戦からずっと時間をかけて国民に戦争はダメと刷り込まれています。アメリカ=世界軍、といったような認識を持たされてますね。」
「まぁ上手く支配された、というところか。にしても30年で国全体での大戦を2回もやったなら世界中疲弊しておるんだろうな。」
「その通りです。故にそこからは武力をちらつかせつつ経済闘争へと世界は動きます。地図を見てください。
そういうとコアトリクエは地図をピンチアウトして地図を拡大しタップするような操作で色を付けながら話を続ける。
「主役はアメリカとソ連。地図で言うとこことここです。お互い陣営作って軍事兵器開発しつつ経済圏をお互いで作って競争。アメリカ側陣営は青、ソ連側陣営は赤の色です。アメリカは資本主義、ソ連は社会主義を掲げます。そのため日本はアメリカの支配下で資本主義側ですが、すぐそばの大陸は社会主義陣営という状況です。」
「戦になれば即時3方向から進攻される…。詰んでるのぅ。」
「結局そうなって世界諸共滅ぶのでそれを止めてもらいたいわけなんです。」
信長の表情が真剣なものになりコアトリクエの目を真っすぐに見た。
「わしがその世に行くのは何年になる?」
信長が興味半分から本気で思案し始めたのを感じたコアトリクエも交渉モードになる。
「キリ良く400年後の1982年と考えていたんですが調整は可能ですよ?」
この切り替えを察した信長は笑みを浮かべた。
「おぬしも大概じゃの。次の大戦が起こるのが2025年前後と言ったな?」
「だいたいその辺りが平均です。」
「なればおぬしの考えていた年数からして日の本が負けてから40年程度あるわけじゃが、その間赤側と青側で睨み合っておるままなのか?」
「ちょうど転換期にあたるタイミング…あーっと時期がそのあたりになるんです。ざっくり言うと赤側のソ連の崩壊の始まりとイスラム主義圏…第三勢力の台頭が起こるのがちょうど1980年半ば頃です。」
「イスラム?主義というからには宗教絡みの集団か?」
コアトリクエは再度地図を拡大して見せる。
「そうです。地図でいうとこの辺り、中東と呼ばれる地域を中心に世界中に広がっている宗教でその中東は石油の埋蔵量が多い地域になります。」
「宗教を全面に出しつつ、にその燃料になる石油?をちらつかせて上手いことやろうとしてるような感じがするのう。」
「中らずと雖も遠からず…ですね。宗教が絡むと人が変わるのは信長さんもだいぶ経験しましたよね?」
コアトリクエのしたり顔の一言に信長は顕如の坊主頭を思い出し、若干表情を曇らせるがすぐに切り替えた。
信長の思考はすでに400年後に移りつつあった。
「思い出すだけで虫唾が走るわ!して日の本はどうなっておる?」
「日本は戦後の復興から工業製品の生産と輸出によって急速な経済成長を遂げて世界有数の経済大国として認識されるようになっています。1980年代後半は経済的には絶頂の時期にあります。」
「…なるほどな。その言い方もそうだが良いこと、良い時期は続かん…と。」
「そこはまぁその通りなんですが、ちょうどそのあたりの時代に信長さんを転生させようと思っていたのでそこから先のことはまだ私にもわからないってことになりますよ。」
「うまいこと言いよる。先に言っておったキリ良く400年後が1982年でそこから2025年…確認じゃがわしは赤子から生まれ直すのか?」
「現在の信長さんはほぼ助かる可能性がないのでそうなります。」
その一言に信長は呆けた顔をしてしまう。
完全に自身の肉体が置かれていた状況が頭から飛んでいたのだ。
「あぁそう言えばそんな状況じゃったの。まぁよい。そうなると戦まで43年…5年じゃな。おぬしの予定より5年遅く生まれるようにせい。」
その5年の意味にコアトリクエは疑問を持ったが話を進めた。
「…?わかりました。1987年に転生するようにしますね。他の面ではどうです?」
「次にわしの親になる人間は政治に関われる立場の者にせよ。」
「いきなり面倒!でもまぁできます。はい。」
「含みがあるのぅ。出来るならばやれぃ。次はわしの配下とわしを討ったやつも転生させよ。」
コアトリクエは驚きのあまり口に含んだ茶を吹き出した。
「!?配下はわかりますけど本能寺の変の関係者も!?」
「当たり前じゃ!きっちりやり返してやらんとわしの気がすまんわ!じゃが誰かは言わんでよいぞ。誰がやったのか考えるのも座興じゃ。」
「でもそれは…めん」
「わしが転生してやる褒美とでも捉えぃ。それにその方が面白かろう?」
-あー…これ本気で楽しもうとしてるやつだから面倒になるけどやんなきゃダメなやつだ…
「まったくこの人は…。そうしたら配下と関係者と関係してそうな人もまるっといきますからね?」
諦め顔のコアトリクエを見て信長はしたり顔。それでも引き出せるだけ引き出そうと言葉を続ける。
「よいぞ!それくらいで程よかろう。次はおぬしじゃ!おぬしと会話が出来る様にせよ。」
「ん?それはまたなんで?結局私は答えになるようなことだったりは言えませんよ?」
「構わん。使える情報源は手に置くべきじゃからの。」
「情報源って…扱い…。まぁそれは簡単なので大丈夫です。」
「最後は成功報酬じゃ。わしがおぬしの望む結果を出したならば…」
ここで信長の切り出した要望にコアトリクエは完全に混乱してしまった。
それ程に衝撃の要望だったのだ。
「そっ…それは!?出来なくはないですよ!?出来なくは!でもそれはさすがに吹っかけすぎというか何というか。」
「さすがにするっとはいかんか。まぁ考えておけ。結局のところ、と考えればより良い結果にならんこともないと思わんか?」
「そう言われると…っていやいや!これは即答出来ません!考えます!」
「固いのぅ。まぁ今後もおぬしと話せるのなら考慮する時間は認めるぞ。」
「うぅ…。私の立場がよくわからなくなる…。」
「気にするでない。大事なのは成すか成さざるかじゃ。」
「それって今別に関係な…」
コアトリクエが言い切る前に信長は畳み掛けた。
「事をより想定通りに成すために褒美で釣るのは常套手段じゃろ?わしをわざわざ送りこんでまでやり遂げたいことがおぬしにはあって、わしはそれに巻き込まれたんじゃ。餌がなかったらわしもやる気出さんかもしれんぞ?」
「それはそうかもしれませんけど結構信長さん乗り気ですよね?」
「そうでもないぞ?そもそも死ぬ気だったしのう。まぁごちゃごちゃ言わんでやれ!」
「えぇー…!暴論!私一応神ですよ!?」
「知らん!」
「これどう転がっても…」
「その通りじゃ!出来るか出来ないのであれば出来るのだろう?」
「そう言われたら確かに出来ますけど…はい。」
コアトリクエは上位神を相手にするよりも質が悪いと思い、信長を選んだことに若干の後悔を感じると共に実際信長と話してみて自身の要望する歴史の改変をやり遂げてくれる可能性がある人物だということを確信していた。
その両極端な感情を表情にすることも出来ず、この要望をないがしろにも出来ない…と言うより受け入れる以外の結論がないことを悟った。
一方信長は結論自身の要望が通ることを確信し、400年後の世界への興味と新しい挑戦への楽しみで溢れていた。
-まだわしの天下統一は終わらぬ…か。人間50年…無為と化した50年を繰り返さぬよう新たな挑戦じゃ!
「もう…話は今のところ必要ないですよね?」
コアトリクエが観念した表情で信長に尋ねる。
「うむ。おぬしの願う世界を作るためにわしを400年後の世に送り込むがよい。」
「わかりました。では転生してもらいますのでよろしくお願いします。」
そうコアトリクエが言うと信長の視界はまた真っ白になり意識は薄れていった。
プロローグパート終了になります。次章から現代パートへと移ります。
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