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信長転生-現代社会で天下統一-  作者: 火路目継麻
第二章-信長成長記-
22/25

17話 群雄割拠と統治者

走る小姓の足音

絶え間なく響く喧噪の声

飛び交う矢に玉に苦無

弾け切れる弓の弦

折れる槍に血糊と刃こぼれで使えぬ太刀

寺が燃え崩壊する音

合間から覗く桔梗紋

最期の瞬間に消えぬ鬱憤

そして違和感

最後に白い光


-ああ。そうか。そういうことか。


信長は前世の最後の記憶の中に何かを悟った。

違和感の正体に気が付いた。

そしてこの気づきが確実に敵の正体にまた1つ近づいたことを確信した。




1990年が明けても信秀の慌ただしさは相変わらずであった。

それもそのはずで、真国政参加党は膨れ上がっていたからだ。

紙原の水面下での取り込みの結果、現職国会議員…内衆議院議員28名、参議院議員21名の合計49人を取り込んでいた。

立ち上げの25人と合わせて74名。

もう立派な1勢力となっていた。

こうなってくると利に敏い連中が献金だの便宜だのと擦り寄ってくるのだ。

信秀の立場は幹事長。

つまりこういった輩への対応も多かった。

それゆえにいつまで経っても慌ただしい毎日であった。


信長が違和感の正体に気付いた日の朝食、疲れ顔の信秀を見かねた道岳が声をかけた。


「これ!そんな顔しとると色々と変なもんに付け込まれるだけじゃぞ!」


「家にいる時くらいはちょっと抜かせてくれよー。」


「ダメじゃ。朝は特にダメじゃ。1日がダメになる。男がそんなツラしていいのは1人酒とケツ叩いてくれる女房と2人の時だけじゃ。」


「状況云々のとこは置いといて、1日がダメになるってのはさすがの金言だよ。とりあえず顔もう1回洗ってシャキッとしてくるわ。」


そう言うと信秀はすっと立って洗面所へと向かって行った。

その後ろ姿を見つめながら時子が道岳に問いかける。


「もうちょっとフォローしてあげたほうがよかったんじゃないの?あれだいぶ参ってる時のあの子よ。」


「それはわしもわかっとる。じゃが、今は立場が立場じゃ。これを乗り越えられんならここで終わってしまうじゃろうて。わしらの長男はそんな男じゃなかろう?」


「なるほどねぇ。あなたの考えもわかるからわたしは春花さんと一緒に支える側に回るのがよさそうね。」


何気ない会話でしかなかったが、間違いなく親が子に向ける厳しさと無償の愛情がそこにはあった。

そんな2人の会話を聞いていた信長は


-改めて親父殿はよい両親に恵まれておるんじゃのう。親の愛の形。これもまたわしが今生で改めて学ぶべきところか。


信長は前世において血縁は大事にしていた。

当然そこに問題があれば弟信行の時ように躊躇はしなかったが大事にはしていた。

だがそれはあくまで戦国大名としての接し方。

今生における親としての自分、そんなことを現在2歳の信長は考えていた。

まだまだ先のことになるのも理解はしていたが、それでも考えさせられる一幕であった。



顔を洗った信秀が多少よい面構えになって戻ってきた。

信秀がここまで憔悴していたのも今日会う予定になってる人物が問題であった。

道岳も話を聞いていたからこその『付け込まれる』だったのだ。

相手は先の話にも挙がっていた平島千歳(ひらしまちとせ)だ。

そして平島を後援している宗教団体浄願教の三条光佐(さんじょうこうさ)も一緒にだ。

紙原の水面下の動きでだいぶ真国政参加党への参画に傾いていたのだが、後援の三条がまずは話を、ということでその場が設けられることになった。

その場に幹事長という立場である信秀が同席するのもまた当然の流れであった。

この三条が曲者で、宗教団体の法主という立場なのだが裏の顔もしっかりとある人物だった。

はっきりと言ってしまえば主要暴力団との繋がりがある人物なのだ。

それを知っているからこその信秀の憔悴だったのだ。

もしこの三条の名前を信長が聞いていたのなら即座に察したはずで、なんとしてもその場に連れてけと喚いたであろう。

そしてその場に行くことができていたのであれば相当の衝撃を受けることになったのだが…



その夜、紙原、信秀、平島、三条による4者での会談が行われた。

結果は決裂。

三条の提示した内容が受け入れられるものではなかったからだった。

もし平島を取り込めていてその派閥ごと取り込むことができていれば相当な勢力になるはずだったのだが、それは失敗に終わった。

だが、この会談そのものがリークされていたようで報道各社が『平島議員も離党、真国へ合流か?』と一斉に報じた。

実際の結果は決裂しているのだが、日に日に増す真国政参加党や世論の勢いに与党首脳陣は追い込まれていた。

地価の異常高騰も察していて、経済が壊れかねないことも認識していたからこそ先回りして手を打たないことには政権基盤が一気に崩壊するであろうことがわかりきっていたからだ。


1990年1月25日、そうやって追い込まれていった結果史上最大となる失策を発令した。

『総量規制』と『地価税法』の導入だ。

行き過ぎた地価の高騰を鎮静化させる目的で発布されたこの規制が市場心理を一気に冷え込ませた。

それも規制と法との同時投入で相当な冷え込みとなった。

もし追い込まれた末ではなくもう少し冷静な状態で政策を議論できていたのならばこの政策は当たっていたかもしれないし、タイミングを見ることもできたかもしれない。少なくとも同時に2つ投入することはなかったはずだ。

しかし世論や経済、自身の利権を守るために半ば見切り発車で発令してしまったがために市場もコントロールを失い、日本経済は地獄の窯の蓋を開けてしまうことになった。

だが、これは歴史が大きく変わった瞬間でもあった。

コアトリクエによって送り込まれた信長をはじめとする戦国期の転生者たちの手により歴史が動き始めていたことを証明していた。


そしてこの与党の失策が真国政参加党の勢いをさらに加速させた。

その結果、紙原は衆議院にて内閣不信任決議を投げ可決させる。

紙原は水面下の動きで自党へ引き込めないまでも不信任決議における根回しはしていたのだ。

その結果が倒閣の成功である。

経済が地獄の蓋を開けたのと同時に政界も混迷を極めることになった。

1955年から与党第一党であった民自党は国民からの信頼を度重なる政権首脳による不祥事で失い、紙原によって分断され、既存野党は野党で大した勢いも政策もない。今最も勢いのある真国政参加党もそれなりの勢力でしかまだない。

政界は確固たる本命不在の群雄割拠の様相のまま解散総選挙となった。





政治混乱、経済崩壊、権力の群雄割拠。

信長はこうなった世情を見て自身が駆け抜けた戦国の世を思い出していた。


-こうなってくると結局の根本、人間は変わらんのかもしれんな。

わしの生き抜いた乱世の世と今の世情は目に見えて血が流れておらんだけの違いしか感じぬ。

人…というよりは権力を持つ人間の様とでもいうべきなのかもしれんな。

統治せんとする者の争いはいつの世も変わらない。

これは一つ真理かもしれぬのう。

そして民はそれに振り回される…か。

わしもそうしてしまっていたのかもしれぬな。

いや…そうしていたのであろうな。

そこに怨嗟が募り積み重なっていずれは弾け飛んで高転び。

わしの他生の人間(じんかん)が無為となったはこの因果か。

統治の争いの果てが猫神の見た崩壊の世となる…か。


正に…であった。

政治が混乱し、混乱した政府首脳陣が失策を犯し、国民の生活が混乱し…そして世の中が混乱の極みへと向かう。

世間に蔓延る不安は秩序を乱し、正義も悪もなくなる。

勝った者だけが正義。

力ある者は権力を握らんと打って出る。

意思ある者は正義の名の下に立ち向かう。

既存権力はそれに反発する。

血の流れる争いも、血の流れない争いもいつだってその混乱に振り回されるのは大多数の大凡人だ。

しかし権力を持つ者はその事実に目をつむる。

気づいていても利権の確保が優先であり、大義名分として掲げるだけでその実何もしない。齎さない。

人類の歴史を振り返ると残る記録の大多数は争いの結果であり、その争いは権力闘争がほとんどだ。

そしてこの歴史の先がコアトリクエが見てきた地球の崩壊であった。


信長は2度目の人生でこの思考へと辿り着けた。

そして辿り着けたからこそ思考が進んだ。


-つまりはこういった権力争いの果てが地球の崩壊…だとすればわしはどうする?

統治すれども君臨せず…いや統治すれども統治せず、こんなところに治めなければならぬか。

すべてが民の意思の下に統治される。

こんな世でなければ…この因果はなくならぬ。

また難題もいいところじゃ。

相当効率良く、それも迅速に民の声が反映されるような構造、そしてそれが行き過ぎぬように管理、誤った方向へと向かわぬよう誘導。

これらが成り立たねば不可能。

新しい技術がなければまず実現はできぬが…今世ならそういった技術も生まれておるか生まれてくるかもしれんな。

…ん?これは…そういうことか?くっくっくっ…猫神もやりおるわ。

わしがここに思考が至るであろうことを予期しての祖父上殿か。

『わしの要求を満たした環境』とはよう言うたもんじゃ。


信長はこの思考の中でコアトリクエがこの藤原家に信長を転生させた思惑を察した。

辿り着いた作るべき世の中の形、そしてそれには信長単体での行動や思考だけではなく何かしらの技術的発展も必須。

その必要な技術を開発し得るであろう組織がそこに用意されていたことに気付かされたのだ。

ここに思考が至った信長の頭の中に声が割り込んできた。


-さっすが信長さん!ちょっと気づくの早すぎですよー!


コアトリクエが信長の思考を読んでたまらずに声をかけてきたのだ。


-おぬし…人の思考まで勝手に覗けるのか?


-こうやって私と話すことも思考の内じゃないですか!基本的にダダ洩れですよ。


-なんとも厄介なもんじゃ。が、おぬしが画策したことが間違いなくわしの利になるであろうことがようようわかったからまぁ良いわ。つまりわしが今至った思考はおぬしの書いた絵に沿うておるということ。正当に辿り着けたということじゃな?


-基本的な考え方としては…ですね。そこからどうするのかが信長さんの腕の見せ所ってやつですよー!


-軽く言いよるわ。細部を考える、どう実行、運用するを考えるのは文化や人の行動を見んことにはたどり着けぬからのう。ここはおいおい考えるとして、おぬしに一つ確認じゃ。


-はい。なんでしょう。


-わしは一度死んでおるのか?


この問いにコアトリクエは逡巡した。そしてそのまま応えることにした。


-肉体的(・・・)には1度間違いなくお亡くなりになっていますよ。


-で…あるか。つまり肉体と魂は別、わしのこの魂は織田三郎信長のものと同一である、ということじゃな?


-…その通りです。


-そして肉体が完全に死を迎えると魂も共に消滅する、これもまた間違いないか?


-おっしゃる通りです。


-なればわしはおぬしのその言い様をそのまま捉えてわしが『特別』であることの理由とするが間違いないか?


-…やっぱり信長さんの頭の中どうなってるのかわからないですね。そこまでわかるのはすごすぎです。


-これで一つ疑問が消えたわ。ついでに今後の起き得る事態への対処も今から考えられる。諸々と納得いったわ。


-はぁー。見込んだからこそ転生してもらったけどここまでとは思ってませんでしたよ。御見それしました。


-はっはっはっ!良いわ!おぬしの想定よりもわしが頭が回る人物だったのならおぬしが求めるところもより上手くいく可能性が大きくなったということじゃ!なればまずはわしの他生の歴史を学ばねばのう。


-まぁそれはそれですね。元々期待しかしていませんでしたから。より楽しめそうってことで受け入れておきますよ!


そういうとコアトリクエの声は聞こえなくなった。

信長の思考力は自分自身に起きている、ある事実についての理由を突き止めた。

そしてそれは今後も起き得ることであることも確信した。

その条件になるであろうことも察している。

このことから信長は戦国の世の後世に伝わっている歴史を学ぶことにした。

そこから推察できる今後の可能性があったからだ。

本来であれば信長自身で歴史書だったりを読めば事は済むのであるが、まだ今の時代の文字を全て認識はしていなかったので人を頼ることにした。


-武宮殿下に祖父上殿は『歴史好き』と言われておったな。


武宮と道武の何気ない会話を覚えていた。

そしてまっすぐ道岳の下へとむかった。

都合よく道岳は1人でリビングでテレビを見ていた。

道岳の隣に座り道岳に問いかける。


「じーじ。のぶながってどうしてしんじゃったの?」


「ん?この前のテレビのことか?」


「そう!」


「信長には難しい話じゃぞ!同じ名前じゃから興味持つのは当然かもしれんがのう。」


「おしえてー!」


「はっはっはっ!知識欲旺盛なのは良いことじゃ!織田信長は家臣の明智光秀に裏切られて自害したんじゃ。裏切りの要因は色々あるがわかってないがのう。」


「そのあけちってひとはどうなったの?」


「これもまたすぐ討たれた。豊臣秀吉が京都の山崎ってところでの戦に勝って敗走中に落ち武者狩りに討ち取られたんじゃ。まぁ実は生きてて徳川家康の下で天海という坊さんになったなんて話もあるがのう。」


-光秀は可能性がある…か。次じゃ。


「のぶながといっしょにしんじゃったひとは?」


「一緒に?有名なのは森蘭丸かのう?あとは一緒とは言えないかもしれんが、織田信長の子の信忠も一緒に自害してるぞ。どちらも最後まで戦ったがその首が取られたという話はないからどうなったかは諸説あるみたいじゃ。」


-蘭と城介もか。


「ほかにはー?」


「他!?んー他なー…。」


「さっきのいえやすとかひでよしはー?」


「その2人は織田信長の後を受けて天下を統一しておる。どちらも畳で死んでの大往生。天下をしっかり取った人間の最期だったようじゃぞ。」


-この2人はないな。こんなところか…。


「ありがとう!」


そういうと信長はソファーから飛び降り寝室へ向かい思考をまとめる。


-少なくとも3人には可能性がある。光秀がそうなった場合厄介ではあるが、蘭と城介はそうであれば良いのう。城介の場合はまたわしの子になるのだろうか…。これはわしにどうにか出来るものでもないからその時を待つ…か。他にも可能性はありそうじゃが、おいおい調べるか。


そう考えると信長は窓から外を眺めた。

昔では考えられなかったような現代の風景が広がっている。


政情は混乱、経済も混乱、そんな中を父信秀は戦っている。

信長自身もこの時点で目指すべきところは定まった。

今後起き得る事態への考察も進んでいる。

事態は全て進んでいた。



そうしていると信秀が帰宅してきたようだ。

帰宅と共にリビングから道岳と信秀の会話が聞こえる。


「やっぱり新党みたい。平島が離党するのはつかんでたけど。」


「そうなれば完全な宗教政党かのう?後ろが浄願の三条光佐なんじゃろ?」


「この前の会談の要求内容からしても間違いないと思う。」


「そうなるとまた本命も不在でごちゃごちゃした選挙になりそうじゃのう。」


「でもまぁそれなりに紙原さんはいいところまで行くよ。根回しが凄い。勉強することだらけだよ。」


と、間近に迫る衆議院選挙の話題だった。

信長は当然ながらある一点に食いつく。


-光佐!?あやつ…なのか?


こうして平島が新党を結成し、さらに混迷となった衆議院選挙が幕を開けた。

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