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信長転生-現代社会で天下統一-  作者: 火路目継麻
第二章-信長成長記-
17/25

12話 選挙活動

1989年6月23日(金)


2歳の身体になってから3週間が過ぎた。

信長は毎朝5時に起きて形稽古、そしてそれを見られる前に春花の布団に戻り一緒に起床。

日中は現代の知識を得るために人の会話を聞いたり人々の様子を見たり、と情報収集。

徐々にだが現代の当たり前を蓄積していっていた。


そして今朝の朝食時にいつもと様子が違うことを察した。

都議選の告示日がきたのだ。

つまり信秀の選挙活動が始まる日だった。


信秀は興奮した様子で準備していた。


「やっと始まるぞ!どれだけの票を得られるか本当に楽しみだ!」


「そんな次元で行くんじゃない!やるからにはちゃんと当選して自分の意志を政治の世界で実現してこい!」


「当然だよ親父!落選してもいいなんて欠片も思ってないから!」


「ならば出陣せい!」


「おう!行ってくるわ!」


そういうと信秀は颯爽と家を出ていった。

その姿を見送りながら春花は信長に


「あとで事務所にお父さんの応援に行こうね。」


と優しく話しかけた。

信長にとってもこれは渡りに船で現場に行けるのはまたとない学びの機会であった。

そして信秀の後ろ姿を見つめながら信長は少し感傷に浸っていた。


-にしても親父殿が『出陣』とは…懐かしい感覚じゃのう。他生の童のわしもこんな後ろ姿を見ておったな…。


現代での普遍的な幸福に触れる中で信長は前世における『そういう場面』を振り返ることが多くなっていた。

戦国武将『織田信秀』が戦国の子『吉法師』に与えてくれたもの、そしてその才能を信じて託してくれたもの。

そういった類のものは前世でも感じていた。

父親『織田信秀』とその子『吉法師』の関係において何をしてくれていたのか、それは信長も覚えてもいなかったし気にしてもいなかった。

だが信長は今の世においてはそういった事に重きを置くべきなような気がしていた。

そしてその感覚のもとに前世を振り返ると父親の愛情を感じる場面も多くあったと思い返していた。

だからこそ、『出陣』という慣れ親しんだ言葉と共に飛び出していく父親の姿に感じ入るものがあったのだ。


-そしてこれが今生の戦の形一つなのは間違いないのだろう。あの親父殿が策があると言うておったからには何を準備したのかはわしも気になるな。


そういった感傷からすぐに頭を切り替える信長。

確かに信秀は策があると言っていた。

信長の覚えている戦国武将『織田信秀』は合理的で抜け目なくやるべきことは躊躇なくやってしまう。

それでいて印象操作が上手く場を上手くまとめてしまう、そんな人物であった。

信長はそんな父親が現代において何をしでかすのか、そしてそれは前世のように信長の指針や基盤になりうるものなのか。

その辺りのことを考えていた。



そうして思考に浸っていると外から何やら声が聞こえてきた。


『東京都都議会議員選挙に立候補しました民自党の藤井竜山、藤井竜山でございます。』


選挙カーだ。

早々から活動を開始した立候補者が藤原邸の近くを通ったのだ。

気になった信長は2歳児らしくそばにいた道岳に問い掛けた。


「じーじ。うるさいのなに?」


「うるさいのときたか。あれは選挙カーと言ってルールにがんじがらめの選挙での常套手段じゃよ。名前を連呼するくらいしかできんがのう。」


「いみあるのー?」


「まぁなんだかんだで意味はある。良いかどうかは別じゃがの。あれで票が伸びたりも実際しておるし、まぁ風物詩みたいなもんじゃ。」


「でもうるさい。」


「確かにのう。しかし選挙法が変わらん限りはなくならんのだろうなぁ。にしても信長よ。本当に急にちゃんとしゃべれるようになったのう。」


この一言に信長は少々やりすぎたかと思いつつも道岳相手ならばと可愛さアピールで切り返す。


「おぼえたー!」


「そうかそうか!えらいぞ!全ては学びじゃ!うんと覚えろ!そして活用しろ!」


と、簡単に信長の思惑通りに転んでくれる道岳であった。

そんな道岳をよそに信長は思考の世界に浸る。


-ルールというのは選挙法とやらのことか?つまり法度と同義で捉えてよさそうじゃな。しかしただ名前を言うだけ、挨拶するだけが選挙活動なのか?政策やら何やら語らなくてなんの意味があるのだろうか。というよりも武力の治世でないはずの今生の世で、その統治に関わる者を選ぶ民がそれほどまでに愚かになっているのか、そもそも政治と切り離されてしまっているのか…。何か構造的な問題があるような気がしてならんな。


信長はこのやり方で票が伸びるという道岳の言からここまで考えた。

それなりに立場のある人間であるはずの道岳も当たり前のように受け入れているということも気になった。

それほどまでに当たり前のことになっているという事実。

そして選挙法があるからこうなっているという事実。

信長は再度道岳に問い掛けた。


「そのるーるってだれがつくってるの?」


「それは国会で決めておるんじゃよ。信秀が立候補したのが東京都の議会で簡単に言ったら国会は国の議会。そこで法律は決められておるんじゃ。そんなことまで気にするとは本当に聡い子じゃ!」


孫溺愛モード継続中の道岳は満面の笑みで答えてくれた。

そしてそれを聞いた信長は悟った。


-なるほど。国会の議員連中が本格的に利権と欲におぼれておる結果がそれか。朝廷の無能な公家共と似たようなものか…。結局そもそもの政治体制を解体するところから考えんといかんようじゃ。それも武力制圧無しで…か。なかなかの難題になりそうじゃのう。民が愚かなほうが統治は容易い。だがその方向で進んで発展も未来も生まれんし、猫神が見てきた結末もそういった統治の先。なればこそわしが壊さねばならん…か。それを四十年弱で…いや三十年でやり切りその先へと備える十年にせねば…。


信長は目指す到達点から考えて、現体制の解体やら新しい治世の枠組みに社会を治めるまでの時間を考えた。

そしてそこに至るためにはもう既に余裕もないのだということも悟った。


-わしの思惑に乗せるためにこの年に生まれ直させたが骨が折れそうだのう。しかしやると言ったからにゃやらんといかんだで。政権構想はまだまだ練りながら進めるとして、まずは現体制を良く知ることからじゃの。


先を考えてやや気が重くなったもののそれでも言ったことはやる。

自分のやりたいこともやる。

そのために突き進むと決めているのだから何がなんでも実現する。

これが織田信長の基本だ。

ある程度思考が進んだ信長は情報収集のために信秀の事務所へと向かいたかったが1人で外には出れないので待つ他なかった。

やりようのない信長は仕方がないので点いているテレビを見て時間を潰すことにした。

だいぶ現代に馴染みつつある信長であった。




そうして昼も過ぎてやっと春花が外に出る準備をしていたので信長もそれに従って準備していると、普段は着ないような服が待っていた。

子供用のジャケットに蝶ネクタイ…某名探偵のような恰好だ。

立候補者の妻子が事務所へと赴くのだからそれなりの恰好は必要ということで用意されたものだった。

それを見て信長は束帯を思い出す。


-これが今の世の束帯のようなものなんじゃろうが…やはり正装はいつの時代も堅苦しくて好きにはなれんのう。


などとぼやいていた。


そして着替えた春花と信長は車に乗って信秀の事務所へと向かった。

10分程度だろうか。

それくらいで到着した。

父、信秀の名前やポスター、幟で遠目にも目立つ事務所だ。

中では多くの人が慌ただしくしていた。

そしてその中心に信秀がいた。

春花と信長に気づいた信秀が声をかけてくれた。


「おー!春花に信長!来てくれてありがとう!」


「なかなか忙しそうね。何から手伝えばいい?」


「とりあえずボランティアの人のお茶出しとか手伝ってくれたらそれでいいよ。ありがとう!」


「はいはい。あなたはこれから選挙カー?」


「いや、歩く。俺はあれ使う気がしないんだよね。あのうるささに腹立つし。それに演説でいろいろとやるつもりだからその下地作りに行くよ。」


「その辺りはきっとまた突拍子のないことやるんでしょうけどちゃんとルールの範疇でやってよ?」


「大丈夫だって!ギリギリのラインはちゃんと確認してあるから!」


「本当いつもそういうところばっかり攻めるんだから。」


「それくらいやんないと俺みたいに後ろ盾のない人間はアピールできないからな!じゃあまぁ行ってくるわ!」


そういうとものすごく太い襷におそらく政策であろうことを印刷してあるものを下げて信秀は出ていった。

その姿と会話から信長はまた考えた。


-親父殿もあれは意味ないと思っておるんだろうな。それに突拍子もないこと…常識外のことを成すのは変わっておらんのだな。記憶はなくとも親父殿は親父殿…か。


信秀は他の候補者とは違う方法…公職選挙法で規制されている個別訪問や気勢を張る行為にあたらないギリギリのラインを攻めつつインパクトのある選挙演説で選挙を戦うつもりだった。

これが功を奏するかどうかはわからなかったが、信秀なりの『政治を変える』という意思は選挙活動でも表れているようだ。


そしてその選挙演説が実際に相当のインパクトを残すことになる。

それは2日後のことであった。

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