5話 気位の高い叔父
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-叔父上殿か。さてどんな男かのう。
信秀が気位が高いと言い、春花が苦手そうにしていた男だ。
2人分の足音と共に近づいてくる。
「こんばんは。一人だけ夜になってごめん。兄さんも出産おめでとう!」
「おーありがとなー!元親も仕事お疲れ!」
信秀が会話の流れで叔父の名前らしき事を言うと信長は反応した。
-もとちか?…元親?長宗我部…ん?
そんな信長の反応には誰も気づかず会話は続く。
「兄さんの後を引き継いでるだけだから楽なもんだよ。あっ、親父!第二開発の甲斐部長が明日出来れば午前中に時間欲しいって言ってた。」
それを聞いた道岳は一瞬社長の顔を見せて、そしてため息を一つ吐いた。
「そうか。連絡ありがとう。しかし甲斐が急く話じゃといい予感はせんなぁ…。」
わかりやすく落胆した道岳を見て元親は話を逸らす。
「まぁその分今日楽しんでるでしょ。母さんちょっと疲れた顔してるし。」
すると時子が身を乗り出して応える。
「本当よ。この人信長ちゃんを乱暴に振り回すから大変だったのよ。たっぷりお仕置きさせて貰いましたけど。」
「初孫じゃぞ…。はしゃいでしまうじゃろが。」
「その初孫をいきなり病院送りにしそうだったのは誰ですか!」
「…すまぬ。」
「よろしい。」
しょぼくれる道岳に威厳たっぷりの時子であった。
そんな場面を読んでか元親が場を茶化す。
「ははっ。社長の親父しか知らない人からしたら衝撃の絵だね。」
「五月蝿いわ!可愛いもんは可愛いんじゃ!」
元親の茶化しで道岳も少し調子を取り戻した様子。
それを見てさらに元親は場を回す。
「親父もおじいちゃんだもんな。あっ、兄さん!忘れないうちにこれ。出産祝い!」
「わざわざありがとう。小雪さんは元気?」
「元気も元気。出張中でアメリカだから戻ってきたら一緒に顔出さすよ。というか甥っ子くん…めっちゃ俺のこと見てるよね?」
『アメリカ』という単語から信長の思考が進み出す。
-会話の流れから察するに小雪とやらが叔父上殿の妻であめりかというところ…確かノビスパニアの辺りにある国におるのか。言い方から考えるとすぐに戻ってくることもできるのだろうな。この時代、海を越えることもたやすくなっておるのか。
信長がそんなことを考えていると、ここまで一言も発さずにいた春花が元親に応えた。
「この子すごい回りを見てるんですよ。それに不思議なくらい泣かない子で。おかげさまで私もよく寝れるんですけどね。」
「なんか大物感のある子だね。兄さんの子で親父の孫で名前が信長だもんなー。ひょっとして信長の生まれ変わりだったりして。」
この一言に信長は目を見開きはっきりと驚く。
-!?この男…何かを知っておるのか?座興に言っておるだけなのか…
そんな信長をよそに信秀が元親の一言を呆れ顔で切り返した。
「お前漫画の読みすぎ。でもそれくらいすごい子になって欲しいから俺ももっと頑張るけどな!」
「兄さんにもっと頑張られたら俺の立場がもっとなくなるから程々に頼むわ。」
元親はそう言うと少し陰りのある表情になる。もし信長の視力がちゃんとしていたら見逃さなかったであろうが今の信長の視力ではそれを見ることはできなかった。それゆえにこの一言をさほど気にも留めなかった。
-どうも座興に言っておるだけには思えるが…判断はまだできんのう。それにしても場を回すのが上手いというか場の中心に居たがるというか…母上が苦手とするのも納得のいく男のようじゃ。それに叔父上殿は祖父上殿の会社とやらに所属しておって、親父殿の後を引き継いだということは親父殿はその会社には今は所属しておらんのだろうか?そうなると政治に関わる立場におるのは親父殿なのだろうが…どうせならそこがはっきりすることを話してくれんかのう。
信長は話を聞いて考えることしかできない今に少し焦れた。両親と祖父祖母、そして何か引っかかりを感じる叔父元親と揃っている機会をでき得る限り活用したいのだ。考えることしかできない頭と泣くことしかできない身体。信長は考える。
そして決めた。
-まずは情報と知識の蓄積。焦りは不要。急いては事を仕損じる。そして身体をでき得る限り早くどうにかするために…動かせるところを動かし続ける。言葉を発することができるようになるためにも声を出さんといかんか。母上には申し訳ないが少しうるさくするしかなかろうな。
信長の切り替えは早かった。今出来ることと出来ないことを見極め最善を行く。
この思考と判断、そして行動の早さが信長という男の強みだ。
信長は早速行動に移る。
タオルケットに包まれベビーベッドに寝かされている身体をじたばたと動かし…そして泣き始めた。
「ぎゃあー…おぎゃー!!!」
急にじたばたしながら泣き始めた信長に春花が驚きながら反応した。
「あれ!?急にどうしたの?ミルク?」
そう言いながら信長を抱きかかえた。それでも信長は動きも泣き声も止めない。
「本当にどうしちゃったのかしら…?」
困った様子の春花に時子が応える。
「病院から家に来て初めて見る顔、初めて聞く声…それに誰かさんに振り回されたりでストレス感じてるのよ。抱っこしながら寝かしつけてあげるのが一番。お母さんの腕の見せ所よ。」
そう言うと道岳に視線をやり、その視線に何かを察した道岳は自分の子供達に顔を向けた。
「そうじゃ。ちょうどお前等がいるから見せたいものがあったんじゃ。ちょっと書斎に一緒に来てくれんか。」
「またなんか新しい商品のアイディア?」
「そんなところじゃ。ほれ!さっさと行くぞ。」
そう言い信秀と元親を強引に道岳の書斎へ引っ張って行った。
すると時子が
「これでミルクもあげられるわね。こうやって夫は教育していくのよ。」
と、しっかりドヤ顔で春花に言った。
そして信長は失敗したことを悟ったがこれも学びと切り替えていた。
-あちらの話が聞きたかったが…少なくとも今の身体でも人払いはできるんじゃな。ここまで大人しくしていたのもあるんじゃろうが…やはりできんと諦めるのではなく行動せんと状況は動かんものじゃ。日々鍛錬するしかない。さてやるか。
そんな信長を微笑ましく見守る春花と時子。
そしてコアトリクエは…そんな信長を見て爆笑していた。
漏れ聞こえる笑い声が誰のものか察した信長は密かに復讐を誓いつつ母の腕の中で力尽きて眠りにつこうとしていた。
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