【第三章:THE TOWER】
【第三章:THE TOWER】
【これまでのあらすじ】
_[警察]
( )(^ω^)
( )Vノ )
| | | |
【本編】
「ククク……。無様だな、ナロー」
「そのSっぽい感じの台詞と声は……勇者のユウ!?」
「視覚情報を軽視しすぎてるだろ」
鉄格子を挟んで二人は向かい合っている。
もちろん中にいるのがナローで、外にいるのがユウだった。
「どうしてお前がここにいるんだ!?」
「ククク……お前が通貨偽造罪で国家指名手配されてから五年。いつかこんな日が来るだろうと思ってあらかじめ刑務官採用試験を受けて見事合格。新規採用職員として様々な業務をこなしながら職場で円滑にコミュニケーションを進め、今ではすっかり後輩から頼られるプチベテランとしていきいきと働いていたのさ」
「用意周到すぎる」
「ククク……結局世の中、あらかじめ自分の未来を十分に検討し、準備を進め、心身を適切に管理してその都度必要な行動を取れた人間が勝ち組なのさ」
「誠実すぎる」
ふん、と笑うと、ユウはナローに忍者みたいな巻物を投げつけた。
「春画?」
「いいや。ここでのお前の生活スケジュールさ。本にして500ページになるから重いだろうと思って巻物にしてやったのさ」
「どういう方向性の配慮?」
「言っておくが、俺はスケジュール通りにいかないのが大嫌いだ。その巻物に書いてあるとおりに行動してもらうぞ。まずは秒単位で指定してある呼吸のタイミングから揃えるんだな」
「ヤバすぎる宗教教義?」
フハハハハ、と高笑いをしながら去っていくユウの背中を見つめながら、「クソッ!」とナローは毒づいた。
「こんなはずじゃなかったんだ……。本当なら僕は今ごろ大金持ちで……なんか綺麗で僕だけに優しい人と結婚して……あとなんかこう、いい感じに幸せになるこう、あの、それが、あれして……」
しかしいつまでも貧困な想像力を披露したり落ち込んだりしているわけにはいかない。ではどうすればいいのかと言うと、とりあえずはここでの生活を把握しなければならない。刑期は千二百年。とてもではないが毎朝のラジオ体操と起き抜け一杯の青汁がなければ耐えきれない長さだ。今のうちから生活のリズムを組み立てておかなければならない。
そのためには、癪だが、たった今ユウが置いていった巻物を読んでおかなければならない。徳の高い僧侶が米粒に書き込むような細かい字だったが、さすがそこは錬金術師。ナローは虫眼鏡を錬成してその言葉を解読し始めた。長い時間が必要だった。少しずつ季節は移り変わっていく。気付けば弟子もできた。ドキュメンタリーの取材も五回来た。インターネットで好き放題言われた。一つの宗派もできた。それでもナローは驕ることも折れることもなかった。来る日も来る日も寝食を忘れて解読に取り組んだ。そしていよいよ残り3cmで読み切るという場面に至って、こんな言葉が現れた。
『ククク……よくぞここまで辿り着いたな』
「こいつ文章でもクククって笑うんか」
『ここまで来た君の力なら大丈夫! 仲間の力を信じて脱獄してみよう!』
「攻略情報の具体性が皆無すぎる」
しかし、ナローがその最後の一文を読み切って顔を上げると、気が付いた。
ユウの言うとおりだったのである。いつの間にか、ナローはたくさんの仲間に囲まれていた。視界に映る数々の黒々とした毛並みの仲間たち。皆、ナローの顔を見つめていた。
「ま……マウンテンゴリラのまっちゃん。マウンテンゴリラのうっちゃん。マウンテンゴリラのんっちゃん。マウンテンゴリラのてっちゃん。マウンテンゴリラのんっちゃん2。マウンテンゴリラのごっちゃん。マウンテンゴリラのりっちゃん。そして……マウンテンゴリラのらっちゃん!」
長い月日を鉄格子の中で過ごしてきた。時にはぎゅうぎゅうに詰まりすぎて身体が破裂することだってあった。そんな苦しい日々を共にしてきた仲間だったから、言葉は通じなくても、気持ちは通じていた。
「ウホ」
「ウホ」
「ウホ」
「ウホ」
「ウホ」
「ウホ」
「ウホ」
「ウホ」
マウンテンゴリラたちが、自分の身体の毛を一部むしり取り、一箇所に集めた。
一体何を。ナローは一瞬だけ迷ったが、しかしすぐに、答えを見つけた。
鉄格子の窓から、日の光が差し込んでいる。
「どんな暗闇の中でも、日当たりを気にした建造物の内部にいる限りはいつか光が差すんだね……」
ナローは太陽の光を虫眼鏡に集めた。
そしてゴリラの毛に、それを当てる。
チリチリ……シュボッ!
神が人に火を与えた日のように、人とゴリラは手を取り合い、新たな火を生み出した。
彼らを押し込めていた罪人の塔――――その崩壊。
燃え盛る炎は赤く、具をケチった日のトマトスープよりも赤く――――。
【第三章:THE TOWER――――了】
【To Be Continued……】