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【第一章:ツイホウ】

【第一章:ツイホウ】

【これまでのあらすじ】

 アタシ、ナローはどこにでもいる普通の錬金術師! ある日三百六十度どの角度から見てもイケメンな勇者様に誘われてダンジョン攻略パーティに入っちゃったの! でも勇者のユウって、見た目はいいけど性格はサイアク! すぐイジワルするし、アタシのことを「子豚ちゃん」なんて呼んで笑ってくるし! でもいざってときは、ちょっとだけ頼りになっちゃったりシテ……。

 そんなアタシとユウはマウンテンゴリラにとてもよく似た聖女のセイと戦士のウォーと一緒にとーっても難しいって噂のダンジョンに挑戦することになったの! なんでも足を踏み入れた人はみんなどうでもいい配達物ですら会員特典のお急ぎ便で頼むような人になっちゃうんだって……。ちょっと怖いけど、大丈夫だよね! アタシたち四人が揃えば、何が来たって、絶対ぜーったい、チョー無敵だもん!





【本編】



「ぐわぁあああああ!!」

 ナローは大声で叫んだ。


「落とし穴に落ちちまったァああああああっ!(図1参照)」






 図1


___( ^ω^)____

   ¯¯¯¯¯¯¯¯¯  じめん







「ククク……ひっかかったな!」

「な……何ィ! その声は勇者のユウ!」

「いや目は塞がってないんだから声じゃなくて姿で判断すればいいだろ」

「その冷静な判断能力は……勇者のユウ!」

「いや目は塞がってないんだから人格じゃなくて姿で判断すればいいだろ」


 地面からすっぽり首だけを出した状態で、ものすごい角度でナローはユウを見上げていた。ユウはユウで近づきすぎてものすごい角度でナローを見下げていた。これではほとんど鉄格子から星を眺める囚人と泥を眺める囚人である。


「ひっかかったっていうのは……この間のメタボ検診のことか!」

「知らんわお前の健康事情は」


 ナローは必死に落とし穴から出ようとした。けれど泥は甘く、切なく、狂おしく……彼を捉えて離さない! かなり愛そのものに近い。


「ククク……お前は罠にかかったんだよ」

「罠!?」

「そのとおり! お前をこのパーティに誘ったのがまさか本気で仲間を求めてのことだと思ったかァ!?」

「ま、まさか……」

「そのまさかだ! 自分は勇者に誘われたすごいやつだって期待したかァ!? 俺はただお前をいたぶるためにこのパーティに誘ったんだよォ!」

「そんな……!」


 ショックでナローは震えようとした。けれど彼を捉える落とし穴がそんなことすら許さない。恋人の携帯を勝手に操作してありとあらゆる連絡先を消去して家に監禁するタイプの愛に限りなく近い。


「どうして……」


 ということで、ナローは声だけを震わせて言った。


「どうしてそんな、幼少期に目覚めた力のために周囲の人間から敬遠され心に孤独を抱える日々の中で暴力とコミュニケーションを混同してしまった悲しい人間のような真似をするんだ!」

「だいぶお前俺のこと理解してるな」


 ククク……と笑いながら勇者のユウは遠ざかり、距離を取った。そしてナローがついさっきまで背負っていたパーティの荷物をこれ見よがしに手に取る。


「お前がここに来るまでにひいこら言いながら運んできた荷物……。この中に何が入ってるかわかるか?」

「ま……まさか!」

「そのとおり! お前を痛めつけるための道具が入っているのさ!」


 ジーッ、と荷物のチャックが開かれた!


「ククク……」

「そ、それは……!」

「ああ、おにぎりだ」


 手のひら大のライスボールをユウは両手に持っている。

 もちろんそれが食べるためでないことは、いくら食いしん坊のナローでもわかった。


「まさか……そいつを僕の顔面に投げつける気か! トマト祭りみたいに!」

「その……まさかだ!」


 びゅん、と170km/hを超える直球がナローの顔面に直撃する。

 悲惨!


「ハムッ、ハフハフ、ハフッ!! ツナマヨうまっ!」

「その余裕もいつまで持つか……な!」

「ハムッ、ハフハフ、ハフッ!! しらすうまっ!」

「ギャハハハ、どんどんいくぜェ~!? 終了条件は二つ! このおにぎりがなくなるまでか、お前がこのおにぎりを食らいきれなくなり『食べ物を粗末にするな!』と世間から叩かれるまでだ! それが終わったらパーティから追放してやるよ! どう考えても殺しちまった方が後腐れはないがなんかそういうことにしなくちゃいけない気がするからな!」

「な、なんて卑劣な……ハムッ! ハフハフ! ぐうっ!」


 ナローは思わず叫んだ。

 おにぎりを食べたことで膨れたお腹が地面の中に散らばった小石に突き刺さり始めたのである。

 このままでは風船のように爆裂四散してバラエティー番組の「ワハハハハ」みたいなガヤ音声を挿入されてしまう!

 こんなときは……仲間との絆を信じるんだ!


「セイ! ウォー! 黙って見てないで助けてくれよ!」

「ウホ」

「ウホウホ」

「クソッ! やっぱりマウンテンゴリラ相手に人間語は通じねーぜ!」

「ククク……こんなこともあろうかと俺とお前以外のパーティメンバーをマウンテンゴリラで固めた甲斐があったぜ……」

「最初から計算尽くだったってことかよ……!」


 九個目のライスボールが投げ込まれる。ストライーク! 三連続奪三振! しかしこの残虐なおにぎり拷問にチェンジの概念はないのだ!


「やめろォ!」


 それでもなお、ナローは人の善性に訴えかけることをやめなかった。漢文の時間に性善説のところだけノートを取っていて、性悪説のところでは友達と消しカスを投げ合って遊んでいたからである。


「こんなおにぎりの使い方……お米を作った農家の方に申し訳ないと思わないのか!」

「ククク……そう言うと思って生産者の米倉五十郎さん(83)に事前にインタビューしてきてやったぜ、この偽善者野郎!」

「用意が周到すぎる」

「VTRスタートだ!」





~夏の終わりの夕暮れのようなBGM~




――――お米作りは好きですか?


「好き……好きなあ。改めて言われるとよぉわからんなぁ。もうウン十年やってることだからよ」


――――ウン十年!


「んだよ。中学出てからはぁずっとこれ一本だもんつけ。あんたが生まれる前からよ」


――――すごいですね。お米作りにかけるこだわりなんかも?


「まぁ、犬ッコロさ逃がさんことだな」


――――犬?


「んだよ(深く頷く)。犬だけは切らしちゃいかんよ」


――――それはどうして?


「……………」


――――あの、


「シッ!(口の前に指を立てる)」



(カメラの映像が急に暗くなる)


(カメラが米倉氏から空に向きを変える)


(真っ青な晴天が広がっている)


(カメラが地面に向きを変える)


(地面には空を覆っているような巨大な影が映っている)


(犬が狂ったように空に向かって吠えたてている)


(終わりを報せる笛の音のような、甲高い風切り音が響いている)


(映像が途切れる。再生終了)




【第一章:ツイホウ――――了】

【To Be Continued……】




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