表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/27

エピローグ

 中央(セントラル)の中心に位置する、教会本部。


 その深部、薄暗さに包まれた玉座に、神妙な顔をした一人の老人が座していた。

 教会の総統、マグル・ランシーだ。


 マグルは教会軍に撤退を命令した後、帰還した彼らからの報告を聞いた。

 報告を聞かずとも、マグルは彼らの目を介してその光景を見ていたのだが。


 失格勇者(フェイル・ヒーロー)――――アルス・ベルストが、再び聖剣を振るう姿を。


「……やはり、聖剣を隠し持っていたか、アルスよ」


 アルス・ベルスト。かつて教会と共に、魔王を滅ぼした少年。

 

 十年前と同じ、聖剣――〈白き方舟(ヴァイス・アルヒェ)〉を操り、あのガラハルドを倒した。

 その力は綻ぶことなく、勇者に相応しいまでの、強大なものだった。

 

 失格勇者は――――力を失ってなどいなかった。


「…………くく、く」


 マグルは密かに口角を上げ、愉快げに笑った。


 教会はソフィー・アランスールを捕獲することができなかった。この状態が続けば、アランスールからの圧力は強まる一方だろう。


 だが、マグルが得たのは、その不利益が霞むほどの収穫だった。

 彼自身、ソフィーの捕獲を目前にしての撤退を、少しも厭わないほどに。


「待っていろ、アルス・ベルスト。再び、選択の時は訪れるだろう」


 勇者――アルス・ベルストは復活した。かつてかざした、その力と共に。


 そして、マグルの脳裏に浮かぶのは、勇者の側にいるダークエルフの少女。

 消失したはずの回復魔法を使うことのできる、喪失癒手(ロスト・ヒーラー)のことだった。


「……これから、面白くなりそうだ…………。くくっ、ふはははははっ!」


 マグルは邪悪な笑みを浮かべ、快活に笑った。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 

 中央(セントラル)の一角に佇む、小さな木製の借家。

 その内部、日の光が差し込む部屋の中で、一人の少年がベッドに横たわっている。


「……」


 その少年、アルスはふと、目を覚ました。

 

 彼は半開きになった目で、辺りを見渡す。


「――起きられましたか」


 そして、ふと聞こえてきた声の方に視線を向けた。


 そこには、優しい笑みを浮かべたダークエルフの少女。


 ソフィーが、ベッドの横で椅子に座りながら彼を見ていた。


「お前……」


「おはようございます、アルスさんっ」


 パッチリと目を開いたアルスを見て、ソフィーは嬉しそうに笑った。


「そうか…………俺は、ぶっ倒れたのか」


 教会との戦いの末、アルスは聖剣を解放し、ソフィーを救った。

 そして、〈白き方舟(ヴァイス・アルヒェ)〉を振るった反動で、彼は倒れたのだ。


 全てを思い出したアルスは、素早くベッドから身を起こした。


「もう動いても、大丈夫なんですか……?」


「ああ、なんともねえよ」


 答えながら、アルスはベランダから見える、外の様子を見た。

 家の外には、明るく日の照る、青々とした空が見えた。


「……俺は、どのくらい眠ってた?」


 その景色を見て、ふと浮かんだ疑問を、彼はソフィーに問いかけた。


「丸一日です」


「……マジかよ……」


 アルスは頭を掻きながら、ため息をついた。


 〈白き方舟(ヴァイス・アルヒェ)〉を全力で振るった反動により、丸一日眠っていたようだ。


 アルスは視線を下ろし、自らの右手を見つめた。


「……やっぱ、昔みたいにはいかねえか」


 聖剣を扱うには、その膨大なエネルギーを制御する器が必要である。

 

 アルスは勇者をやめてから、〈白き方舟(ヴァイス・アルヒェ)〉を振るうことはほぼ無かった。

 そのため、勇者だった頃とは違い、今の彼の体は、聖剣の持つ力に耐えかねるのだ。

 

 昨日、教会が撤退してくれたのは幸運だった。

 ソフィーを目の前にして教会が素直に退いたことには、少しだけ違和感は残るが。


「あれ以降、教会に動きはあったか?」


 アルスが問うと、ソフィーは首を横に振った。


「いいえ。あれから動きはありません。助けてくださった冒険者の方々も無事です」


「……そうか……。よかった」


 彼女の言葉に、アルスは少し安堵した。


 ソフィーがこうして無事であることが、教会に動きがなかったことの証明でもある。

 そして、助けてくれた冒険者達が無事であることも、彼は素直に嬉しかった。


「教会は今、人々に問い詰められて、それどころじゃないみたいです」


「……ま、それもそうか。危険種(ファフニール)を街に放ったんだ。反感を買って当然だな」


 操っていたとはいえ、人の住む街の中に危険種を放ち、騒ぎにならないはずがない。

 教会が疑念を解き、人々を諫めるまでには、もう少し時間を要するだろう。


「シャルミィと、アリシアはどうした?」


 そういえば、あの二人の姿が見えない。家の中にも気配を感じなかった。


「お二人は、外の様子を見てくると、少し前に出かけていきました」


「……そうか」


 昨日傷を負ったものの、もう外を出歩けるほどにアリシアは回復したようだ。


 アルスはホッと息をつくと、おもむろにソフィーの顔を見つめた。


「なら丁度いい。少し、話をしないか?」


「話……?」


 彼の言葉に、ソフィーはきょとんとしてそう言った。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 アルスとソフィーは、部屋のベランダに並び、外を見つめる。


 青々とした空から明るい日差しの降り注ぐ中央(セントラル)は、いつもより少し騒がしく思えた。


「少し、騒がしいな」


 外を見ながら言うアルスに、ソフィーは彼の顔を見て笑った。


「それはそうですよ。勇者様が復活したんですから」


「…………」


 そう。俺は〈白き方舟(ヴァイス・アルヒェ)〉を呼び出し、失ったはずの勇者の力を振るった。

 教会や冒険者達にも見られた。他にも見た者はいるかもしれない。

 すでに中央じゅうに伝わっているはずだ。俺が勇者の力を隠し持っていたのだ、と。

 

 勇者はこの世界において特別な存在だ。それだけで大騒ぎだろう。だが。


「…………それだけじゃ、ないだろ」


 アルスは横目にソフィーの顔を見ながら、そう言った。


喪失魔法(ロスト・マジック)。お前が使った、あの回復魔法」


 彼の言葉に、ソフィーの顔から笑みが消えた。


 ガラハルドに追い詰められたあの時、彼女の唱えた魔法により、アルスの傷は癒えた。

 それはまさしく、先代の魔王によって封印された「喪失魔法(ロスト・マジック)」――回復魔法だった。


 使える者など聞いたことはない。間違いなく、彼女が世界で唯一の使い手だ。


 勇者の復活と同等、もしくはそれ以上に騒ぎの種となるはずだ。


「千年前に失われた魔法――――どうしてお前は、それを使える?」


 アルスの問いかけに、ソフィーは外を見ると、口を開く。


「……わかりません。どうして私だけが、この魔法を使うことができるのか」


 そう言うと、彼女は再びアルスの顔を見た。


「昔、あなたに会いに行くために、魔法の修練に励みました。その中で習得したのがこの魔法です。このことは、父にも話していません」


「…………」


 呆然とするアルスに、ソフィーは苦笑した。


「…………やっぱり、こんなことでは信じて頂けませんよね……」


「……いや、信じるよ。別にな」


「えっ……?」


 アルスの言葉に、ソフィーは意外そうに声を漏らした。


「真相にそこまで興味があるわけじゃねえしな。お前言うならそうなんだろ」


「あ、あはは……。それでいいんですね……」


 あっけらかんと言う彼に、ソフィーは拍子抜けしたように苦笑した。


「……んじゃまあ、こっからが本題だ」


「……?」


 きょとんとするソフィーを、アルスは真っ直ぐに見つめた。


 俺の秘密と、ソフィーの秘密。それはどちらも明かされてしまった。

 これから、俺たちを取り巻く環境は大きく変わる――――その上で。


「お前はこれから先、どうする?」


「えっ……?」


「俺はお前を助けた。そうしたいと、俺が思ったからだ。俺の都合で、本来やるべきじゃねえことをした。すぐに家に帰るべきお前を、俺の意思で引き留めた」


 アルスは憂いを帯びた目を細める。


「だから、これから先どうするかはお前が決めてくれ。お前の意思で」


 そう。これからの彼女の行く先は、俺には決められない。「喪失魔法(ロスト・マジック)」のことが周知された今、これから彼女が辿る道が安全だとは限らない。


 アランスール家のあるサフィアとは違い、ここでは彼女の身の安全は保証できない。


 だから、彼女が故郷に帰る道を選んだとしても、それは仕方がないことだった。


「…………」


 それを聞いたソフィーは、少しだけ呆然とした後、



「…………アルスさんは本当に、困った人ですねっ」



 おかしそうにに笑ってそう言った。


 面食らうアルスを見て、彼女は穏やかに微笑む。


「それなら、私も自分の意思でここにいます。ずっとあなたに会いたくて、やっと会って、一緒に過ごして、それでもまだ一緒にいたいと思うんです」


 そう言って、ソフィーはアルスの顔を真っ直ぐに見つめた。


「だから、たとえどんなことが待ち受けていようと、私はあなたの側にいます。もう私はあなたの、あなた達の仲間ですから」


「…………」


 彼女の言葉に、アルスは呆然とした後、ゆっくりと外の方を向いた。


「……これまで通りにはいかないぞ。俺もお前も、秘密を明かしたんだ」


「はい、分かっています」


「これからもっと忙しくなるぞ。教会やアランスールにも、また狙われるかもしれない」


「大丈夫です。あなたと一緒なら、乗り越えます」


 どんな言葉にも笑って応えるソフィーに、アルスは、


「そうか」


 そう言って、無表情な顔を少しだけほころばせた。


「ふふっ」


 ソフィーは彼の笑みにつられるように笑うと、


「これから、よろしくお願いしますね、アルスさんっ」


 この中央(セントラル)で最初で出会ったときのように、両手で彼の手を取った。


 アルスはそんな彼女を見て、穏やかに微笑んだ。


「ああ、よろしく頼む」



 ――こうして、失格勇者(フェイル・ヒーロー)喪失癒手(ロスト・ヒーラー)は改めて仲間となった。



「……そういえば、なんですけど」


「ああ?」


 何かを思い出した様子で、ソフィーが続ける。


「アルスさんって、私と会ったときのこと、覚えてるんですよね?」


「ああ。それがどうかしたか?」


 彼がそう答えた途端、ソフィーは悪戯な笑みを浮かべた。


「じゃあ覚えますよね? 私に――――『お嫁さんになってよ』って言ったこと♪」


「っっっっ」


 その言葉に、アルスはギクッと体を強ばらせた。


「……さ、さあ……、そんなこと、言ったか…………?」


 彼は目を逸らし、汗をダラダラと流しながら誤魔化す。


「ええー、ひどいです~。言いましたよ~」


 ソフィーは眉をひそめると、上目遣いにアルスを見る。


「……私と結婚するの、そんなに嫌ですか?」


「っっ――」


 その赤い瞳に見つめられ、アルスは思わず狼狽える。


「くっ…………」


 心の中を見透かされるようなこそばゆさに、彼は耐えかね、


「~~~~~~っっ」


 やがて我慢を切らしたように、ソフィーの手を振りほどいた。


「ああ嫌だね! お前みたいな図々しい女は! 出直せ!」


 ソフィーは驚いた顔をした後、アルスの様子に「くすっ」と笑った。


「そうですかっ。それは残念です」


 彼女は腕を後ろで組むと、口を開く。


「でも、いいです。いつか、自力であなたを振り向かせて見せますからっ」


 ソフィーはそう言いながら、アルスに向けて満面の笑みを浮かべた。


 その笑顔はとても眩しくて、彼は少しだけ見とれてしまっていた。


「…………フン。そうかよ」


 アルスは我に帰ると、誤魔化すように外の方を向いた。

 ソフィーも外をむくと、微笑ましげに口を開く。


「……本当に、素直じゃない人です」


 小さく聞こえた声に、アルスは聞こえていないフリをした。


「…………はぁ」


 自分の中にあるこの感情には、まだ、素直にはなれないみたいだ。


 しばらくすると、外を見ていたアルスは、前方に見慣れた姿を見つけた。


 一人は、赤髪に猫耳と尻尾を携えた、小柄な猫人の少女。

 もう一人は、鎧の下に青のロングスカートを身につけた、金髪の騎士の少女。


「――あ! アルだー! 起きたんだな~!」


「――アルス! なるほど、今日はお祝いかな」


 アルスの姿を見た途端、走って駆けつけてくるのは、彼の仲間達だった。


 そして、もう一人。


 彼の隣で、新しく仲間に加わったダークエルフの少女が笑っていた。


「ご馳走、今日は食べてあげてくださいね」


 その言葉を聞くと、アルスは嬉しそうに笑った。


「ああ」



 俺は隠していた勇者の力を、ソフィーは隠していた「喪失魔法(ロスト・マジック)」のことを明かした。

 俺は事実上勇者として復活し、彼女は回復魔法を使える唯一の存在として知れ渡る。


 これからきっと、俺たちを取り巻く環境は大きく変わるだろう。


 教会やアランスール、その他の勢力が、また接触してくるかも知れない。


 場合によっては、ずっと暮らしてきたこの中央(セントラル)を離れることになるかも知れない。


 でも、大丈夫だ。


 もう、一人だったあの頃とは違う。

 

 今の俺には、頼りになる仲間達がいるから。


 

 アルスは目を瞑り、ほのかに笑った。


                                ――END


 最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

 数ある作品の中からこの作品を選んでくださったこと、それなりの文量を最後まで読み切ってくださったことに感謝です。更新中も、いただいた評価やブックマークからやる気をいただきました。

 改めて、ありがとうございました。


 作品についてですが、一旦これにて完結となります。

 一旦というのは、

 まだ露出していない設定や、頭の中でやんわりと考えているこれからの展開があるため、要望によってはこの続きの執筆を優先する可能性があるからです。


 私自身、今は度々ラノベ新人賞に応募しており、この作品も新人賞に応募しようと執筆しています。

 ですので、基本的には新作の執筆を優先します。

 上記のような場合もございますが、ひとまずその点をご了承ください。


 最後に、

 これまで自分の小説を多くの人にお見せすることがなかったため、自分の小説が面白いのか、面白くないのか分からず、不安に苛まれながら執筆しております(笑)

 ですのでもしよろしければ、最後までお読みいただいた後に、一言でも感想をいただければ幸いです。

 率直なもので構いません。ばっちこいです。


 以上です。

 改めに改めまして、この作品をお読みいただき、本当にありがとうございました。


 20/6/1 おん

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ