表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/27

22話 冒険者たち

 アルスとソフィーは路地裏を抜け、隣の大通りに飛び出した。


「こっちだっ」


 アルスはソフィーの手を引き、大通りを外に向かって走って行く。


「あのっ、シャルちゃんはっ!」


「大丈夫だ! あいつならなんとかなる! 逃げ足も速いしな!」


 心配そうな顔のソフィーに、アルスは一瞥して言う。


 嘘では無い。ああ見えてシャルミィは戦える。全盛期ほどではないだろうが。

 獣人特有の身軽さと、引き際を判断する嗅覚もある。きっと無事に戻ってくるはずだ。


「あいつは大丈夫だ! だから今は、俺を信じてついてこい!」


「っっ――、はいっ!」


 アルスが言うと、ソフィーは気持ちを切り替えるように大きく返事をした。


 そう。今は信じることしかできない。仲間たちが無事に追いついてくることを。無事に身を隠せる場所まで辿り着くことを。そこで打開策を思いつくことを。

 だから今は仲間を信じ、身を隠せる場所に早く到着しなければならない。


 ――ああ、ここは任せた。あの廃屋で待ってる!


 アリシアに言った「あの廃屋」。それはこの大通りの路地裏にある、とある空き家。

 俺が勇者をやめ、底辺の生活をしていた頃、雨風を凌ぐために使っていた場所。

 人もなく、誰かに見つかる危険も無い。一旦身を隠すには最適な場所だ。

 

 シャルミィもその言葉を聞いていた。だから後で追いついてくるはずだ。

 だが、そこに辿り着くまでに、一つの障害があった。


「……ベルエスター通り……」


 アルス達が今走っている大通りの名は、ベルエスター通り。


 そこは、()()()()()()()()()()()大通りとしてよく知られている。


「冒険者達に出くわさなきゃいいけどな……」


 アルスは目を細め、ギリッと歯を噛みしめた。


 ソフィーの捜索及び身柄の確保は、ギルドの依頼とされていたほどだ。

 彼女の捕獲に貢献すれば、教会やアランスールから恩賞が出るだろう。

 その報酬目当てに、彼女を捕らえようとする冒険者がいてもおかしくない。

 願わくば、冒険者に出会わないまま廃屋まで辿り着きたい。


「教会は――」


 アルスはバッと後ろを振り向く。

 ベルエスター通りには、追いかけてくる教会構成員は見当たらなかった。


「やっぱりいないか。この通りも押さえてくると思ったんだがな……」


 アルスが少しほっとしながら、再び前を向こうとすると。


「アルスさん、違います! 上ですっ!」


「……!?」


 緊迫感のあるソフィーの声に、アルスは上を見上げた。


「なっ……!?」


 大通りの両端には、高層の家屋が連なるように並び立っている。

 その屋根の上に、教会構成員たちが構え、こちらを見下ろしていた。


「上、かよっ!」


 アルスはソフィーを引っ張り、咄嗟に速度を上げる。


「――かかれ!」


 それと同時に、教会が次々と屋根から飛び降りてきた。

 着地した教会は勢いそのまま、アルス達へと向かってくる。


「ちぃっ!」


 アルスはソフィーと共に、懸命に走る。

 しかし無情にも、だんだんとその距離は縮められていく。


 構成員たちは腰から剣を抜き、さらに距離をつめる。

 そして間合いに入ると、彼らは剣を一斉に剣を構えた。


「くそっ……!」


 万事休す――――そう思ったとき。


 上空にある家屋の屋根から、何者かの陰が、降り注いできた。



「――助けに来たぜぇ! 『失格勇者』!」



 アルスに牙をむいた教会の剣は、着地した彼らによって止められた。


「っっ――!?」


 剣を受け止めたのは、剣、槍、戦斧など、さまざまな獲物。

 それを持つ彼らは、鎧を纏う者、軽装の者、役職服の者、多種多様で。

 そして、人間、エルフ、ドワーフ、獣人など、異種混合だ。


 彼らは人呼んで――冒険者。中央(セントラル)に住み着いた戦士達。

 

 その数は、数十。この場にいる教会に、匹敵する人数だった。


「野郎ども! 今日は大仕事だ! 気合い入れろぉ!」


 鳥の獣人が言うと、大きな歓声と共に、冒険者達が教会軍を押し返した。


「ぐっ――、冒険者だと!?」


 後退した教会の兵士が驚くように声を上げる。


「……お前ら……」


 アルスは足を止め、突然現れた冒険者達を呆然と見つめる。

 そんな彼の横に、若いオークの男がやって来た。ピギーだ。


「やあ。やっぱり君だったんだ。教会に乗り込んだのって」


 にこやかに笑う彼を見て、アルスは困惑する。


「どうして、なんでこんな真似をする……!?」


 そして飲み込めない様子のまま、今度は前にいる冒険者達を見た。


「お前ら、わかってるのか!? 教会とアランスールを敵に回すことになるんだぞ! そこまでしてどうして、俺たちを助けるんだよ!」


 ソフィーの捕獲を邪魔するなど、教会への反逆だ。中央(セントラル)で暮らせなくなるどころか、下手をすれば牢獄から出られなくなるというのに。


 すると、鳥の獣人が振り返り、アルスを見て笑った。


「別にお前さんのためじゃねーよ、『失格勇者』。俺たちはそのお嬢ちゃんのために戦うのさ。お前さんがやってるみたいにな」


「――そうだ! ソフィーちゃんのためだ! お前のためじゃねー!」

「大丈夫だダークエルフちゃん! こんな奴ら、君には近づけさせねぇ!」


 それに冒険者達が続き、続き、彼らはまた一段と盛り上がる。


「私の、ために……!?」


 彼らの声を聞いて、ソフィーは驚いたように目を見開く。


「そうだよ。みんな、君のために駆けつけたんだ」


 隣にいるピギーが、彼女を見てそう言った。


「マリンちゃんが冒険者達に呼びかけたんだ。アルス君たちを助けてあげてほしいって」


「……っ!」


 その言葉に、アルスは目を見開いた。


「マリンが……?」


 彼は俯き、ふと昨日の光景を思い出す。


 ――お願いしますよ~っ! またいざって時に助けてあげますから~っ!


「…………あれは、無しだって言ってたのに。面倒くさがりな、奴のくせに」


 静かにそう言うと、アルスはほのかに笑った。


「ちゃんと、助けてくれんのかよ。俺のこと」

 

 また助けられちまったな。あいつに。


「――ブモオオオオオっ!!」


 冒険者のトロールが繰り出した棍棒に、構成員たちがなぎ払われる。


「早く行け! 『失格勇者』! ここは俺たちで食い止める!」

「ソフィーちゃんのこと助けられなかったら、承知しねえからなー!」


 冒険者達が教会を食い止めながら、アルスに進むよう促す。

 アルスはソフィーの手を取り、意を決したように走り出した。


「礼を言う!」


 彼に連れられながら、ソフィーは冒険者達を振り返る。


「みなさん、ありがとうございます! 私、このご恩は忘れませんからっ!」


 その言葉に、冒険者達は大きな歓声で応えた。


「行くぞ!」


「はい!」


 アルスに手を引かれ、ソフィーは再び前を向く。

 そうして二人は、戦う教会と冒険者達を後ろに、大通りを走る。


 もう目的の廃屋まではそう遠くない。これ以上教会に見つからなければ、無事にそこに身を隠し、アリシア達の到着を待つことができる。


 もう少し――とアルスが心中で呟いた、その時。


 後方――――風が蠢くような感覚に、彼はふと振り返った。


「…………!?」


 それを見たアルスは、目の前の光景を疑った。


 戦う冒険者達の遥か先、その上空に漂う、巨大な陰。


 真っ黒な体表に張り付いた、白金の鎧のような鱗。出張った顎に並ぶ牙。巨大な図体には、鋭い爪を携えた四つの足と、一本の長い尾を生やしている。


 大きな翼が音を立てながら空気を揺らし、その頭についた赤眼が光った。


「あれは、ファフニール……!?」


 アルスはその巨大な竜――ファフニールを、呆然としながら見上げた。


 前方の冒険者達も、その異様な光景に、立ち尽くしている。

 遅れて振り返ったソフィーも、その姿に驚愕していた。


「危険種が、どうしてこんなところに……!?」


 そう、ファフニールは危険種であり、人里を離れた山脈に生息するとされている。


 過去に誰も討伐した記録の無い、幻の竜種(ドラゴン)と伝えられ、アルス自身も見たことがない。

 だからこそ中央(セントラル)に、こんな街中に突然現れるなど、あまりにも不自然なのだ。


 ファフニールは翼をはためかせ、街を散策するようにゆっくりと浮遊している。

 特に暴れる様子もなく、ただ静かに宙を漂っていた。


「なぜ暴れない……? 危険種に指定されている竜種(ドラゴン)が……」


 そこまで言って、アルスは感づいたように目を開いた。


「……まさか……教会がファフニールを従えている……のか……!?」


「えっ……!?」


 暴れる様子のない危険種。そして、俺たちの逃亡中の出現。


「明らかに訳アリだ! 間違いねえ、ファフニールを出現させたのは奴らだ!」


「……っ!」


 アルスはファフニールを、教会が仕向けたものだと確信した。


 教会が竜種を抱えているなど、聞いたことがない。中央(セントラル)の民でさえ知らないだろう。

 教会はファフニールを捕らえ、機密に軍事力としていた。だからこそファフニールは幻の竜種ドラゴンとされたんだ。人が目にすることなど、なくて当たり前なんだから。


 その秘密をここまで堂々と明かし、街中に危険種を放ったからには、後に民からそれ相応の問答を迫られる。それでも教会は、その苦肉の策を実行した。つまり――――。


「そこまでして、こいつを捕まえたいってことかよ……!」

 

 相応のリスクを背負ってまで、教会はソフィーの身柄を求めている。


 なぜ、そこまでこいつにこだわる?


 アランスールの令嬢――――そのことの他に、こいつには何かがあるのか?


「アルスさんっ! ファフニールが!」


「っっ――」


 緊迫したソフィーの声に我に帰ると、アルスは空を見上げる。


 すると、ファフニールが向きを変え、今度は彼らのいる方に向かってきていた。

 赤い瞳を光らせ、何かを探すように街の中を見下ろしている。


「ちっ……! 奴らの意図は、上空からの探索か!」


 ファフニールが教会と繋がってるなら、その目に映るものは、きっと教会にも伝わる。

 はるか上空からの広い視野を頼りにして、俺たちの居場所を割り出すつもりなのだ。


「こっちだ!」


 アルスはソフィーの手を引き、咄嗟に方向転換する。

 そしてそのまま、二人は大通りから繋がる裏路地へと姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ