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プロローグ
そこは千年に一度、魔王が誕生し、平和が脅かされる世界。
それと共に、魔王を倒す勇者が選定され、人類を救ってきた世界だ。
十年前、魔王を倒したのは、まだ八歳の天才勇者だった。
彼は人々に賞賛され、またそれ以上に、非難された。
なぜか。それは、彼が斬ったのが魔王の繰り出す魔物だけではなかったからだ。
魔王は人々の悪意を操り、人間や亜人までも自らの手駒とした。
その手駒たちを、彼は容赦なく斬り伏せた。
倒れた彼らを、死の淵から救い出すことはできなかった。
なぜなら、この世界には回復魔法が存在しないから。
そえゆえ彼はいくつもの命を殺し、人々の反感を買った。
世界の安寧と人々の幸福を願った彼は、自分の姿を顧みて、絶望した。
こんなものが、自分の目指していた、勇者なのか――――――と。
彼は心を閉ざした。それと同時に、勇者としての力を失った。
人々はそんな彼に、皮肉を込めてこの名を贈った。
――――「失格勇者」――フェイル・ヒーロー――と。