都会に烏、田舎に鳶
『猫はよく車に轢かれているけれど、犬が轢かれているの、見たことないね。』
と、屈託のない笑顔で不穏な話をする彼。
「それはね、」
少し戸惑ったが、そんな素振り、おくびにも出さず私は答える。
「猫はわざとやってるの。」
『えっ』
さすがに少し刺激が強かったようだ。
「死期を悟った猫が、最後の最後に、自分の命を終わらせる瞬間を楽しんでいるのよ。そうでもなきゃ、理由がつかないでしょう?」
『言われてみれば、猫ってそういうところあるのかも。』
彼を丸め込むのは簡単だ。
でも、今私が言ったことは本当だ。私の中では。
私は中学生の3年間、田舎に住んでいた。主要産業が漁業の、いわゆる漁師町というやつだ。
そこでは、カラスなどほとんど見ない。カラスよりもトンビの方が圧倒的に数が多い。何故だろうと思うまもなく私はそれに慣れ、そして高校生になった。
街へでてみると、はたとトンビを見なくなった。そしてまた、何故だろうと思うまもなく私は慣れた。
代わりに、カラスと、車に轢かれた猫をよく見るようになった。猫は、国道の端で、平面になって死んでいる。カラスはそれを啄む。
何故だろうと思うまもなく、私は慣れた。
いや、駄目だ。
慣れちゃ駄目なんだ。慣れて良いことと、慣れてはいけないことがある。
これは後者で、そして私はそのことについて何も出来ない。
理由を考えよう。
猫が轢かれる理由を。そして、それを本当にしよう。
なるべく素敵な理由がいい。




