俺達は……このままじゃダメなんだ!だから、頼む!追放されてくれ!
優しい追放系を書いてみたかった。後悔も反省もしていない。
「勝手な話で悪いが……お前を今日限りで追放させてもらう」
パーティリーダーの聖騎士がそう切り出したのは、俺達のパーティが念願のSランク認定を受けた日の夜の事だった。
パーティを組んではや5年。時に堅実に、時に大胆に様々な冒険を繰り返し、やっとの思いで冒険者として最高の名誉と言われるSランク認定を受けたと言うのに……
「それは……もう決定事項なのか?」
「……あぁ、もう決まった事だ」
突き付けられた現実を飲み込もうと呟き……聖騎士の、そして傍にいる仲間達の姿を見て俺は悟った。
この追放はSランク認定を受けた事で浮かれた結果のタチの悪い冗談などでは無さそうだ。
俺にパーティ追放を伝えた聖騎士だけで無く、魔術師も神官も狂戦士も狩人も、今まで助け合ってきたはずの彼等彼女等の表情が、何より追放を否定しないその沈黙が、この追放が本気だということを雄弁に物語っていた。
「そっ……か。俺さ、自分で言うのもなんだけど……結構頑張ってたと思うんだよね。確かに俺はみんなより弱かったけど……それでも弱いなりに頑張ってた来たと……思ってたんだけど……追放……か」
俺はみんなより圧倒的に弱かった。もちろん、みんなに追いつける様に努力は惜しまなかった。
けど……結局みんなには追いつけなかった。
俺には才能が無かったんだ。だから俺はパーティ内で雑用係のような位置にいた。いや、ようなじゃなくて普通に雑用係だ。
でも、いや、だからこそ。俺はみんなが冒険に集中出来るようにあらゆる雑用を請け負った。
けれど……Sランクになった彼等にもう俺は必要ないらしい。それどころか……最初から必要無かったのかもしれない。
ヤバい……ちょっと泣きそうだ。……ちがうな、ちょっとどころじゃない。割とガチで泣きそう。今も視界の隅がボヤけ始めてるし。
「……そうか。分かった。じゃあな。俺はいなくなるが……お前らは、頑張れよ」
そう言ってもう仲間ではなくなってしまった彼等に背を向け、部屋から出て行こうとする。
今は少し……1人になりたい気分だった。もしかしたら仲間だと思っていたのは俺だけで、本当はウザがられていたんじゃ……そうでなくても、ずっと足でまといで邪魔だと思われていたんじゃじゃないか……そんな考えが頭の中でグルグル渦巻いている。
かなりショックだ。数日は寝込むかもしれない。
「ちょっと待ってくれ!」
だから、聖騎士の声が聞こえたのは本当に偶然だった。
でも、聞こえて本当によかったと思う。もし聖騎士の声が聞こえなくて、そのまま帰ってしまったとしたら……俺は、立ち直れなかったかもしれない。
「これだけは言わせて欲しい。お前がパーティに不要だって事は絶対に無い。お前は確かに弱かった。狂戦士はおろか魔導師にも、それこそ神官ちゃんにすら腕相撲で勝てないくらいに」
うるせぇよ。俺知ってんだかんな。神官ちゃんの身体強化の恩恵はとてつもないって。
全力で身体強化した神官ちゃんは何気にパーティ内で1番身体能力高いって知ってんだかなんな。
だって聖騎士、お前も勝てねぇだろ。全力で身体強化した神官ちゃんとの腕相撲。
というかこのパーティの中でお前が腕相撲で勝てんの俺くらいじゃん。
聖騎士、お前も覚えてるだろ?
全力で身体強化した神官ちゃんVSその他パーティメンバー全員で腕相撲したにもかかわらず瞬殺された事を。
あとそれ以降神官ちゃんが絶対に腕相撲しようとしなくなって一時期パーティ内で『腕相撲』が禁句になった事も。
あ、聖騎士の後ろで神官ちゃんが恥ずかしそうに俯いて神官帽で目元を隠してる。しょうがないよね、16歳のうら若き乙女が20過ぎた大人の男に腕相撲で勝てるって言われたらそら恥ずかしよね。
「でもその代わりに俺達が冒険に専念できる様に色々やってくれた。
冒険の途中の料理もあと片付けも全部やってくれたし、寝床の設営も迷宮のマッピングも、武器の手入れも物資の補給も。依頼で行く街や途中でよった街でのコネ作りも、最適な依頼の見繕いも。買い物での値引きや素材売却の時の値段交渉も、俺達のコンディションの調整も、野営時の見張りだって大半はお前がやってくれた。
狂戦士が依頼で行った街の貴族と揉めた時には仲裁してくれたし、神官ちゃんが眠れない夜は子守唄も歌ってくれた。
狩人ちゃんが故郷の味が懐かしいって言った時はそこの郷土料理を再現してくれたし、魔術師が読みたがってた希少な魔術書もいつの間にか入手してくれた。
俺が愚痴りたい時だっていつも飲みに誘ってくれた。
むしろ俺達って戦闘以外何もしてなくね?ってくらいお前は色々な事をしてくれた。誰もやりたがらないような雑用を、お前は一手に引き受けてくれたんだ」
あ、神官ちゃんがか〇ちゅまガードしてる。さすがに恥ずかしかったのかな?
狂戦士も恥ずかしそうにポリポリ頬かいてるし、魔術師はうんうんと深く頷いている。狩人ちゃんにいたっては料理の味でも思い出してるのか空を見てよだれ垂らしてるよ。
ってそうじゃないわ。
俺、頑張ってたよな。でもさ、それを認めてくれるって言うなら……なんで追放なんかするんだよ。
って言うか改めて言われて気付いたけど俺働き過ぎじゃね?戦闘が出来ない代わりにそれ以外全部やってんの俺じゃん。
「肝心のお前を追放する理由だが……正直言ってこのままお前に頼り続けたら、俺達は戦闘しか出来ない可哀想な奴になっちまうと思ったんだ。
だって俺達のやってる事と言ったらさ。
朝お前に起こされて、お前が準備した朝飯食って。お前が準備した装備に着替えて、お前が見つけてきた依頼受けて。お前が見繕ってくれた迷宮に行って、昼にはお前が確保してくれた安全地帯でお前が準備した携行食を食べて。
冒険から帰ってきたらお前が依頼の報告行って、その後はお前が準備した夕飯を食う。
食べ終わったらお前に装備預けてその後は自由時間を過ごして適当なタイミングで寝る。これが俺達の基本的な1日だ。
野営の時だってテントを設置してくれるのはいつもお前だし、見張りも1番長くやってくれる。
改めてまとめるとマジでどうなんだこれ!?俺達本当に戦闘以外何もやってないよ!」
聖騎士の慟哭が響き渡る。
どう返していいか分からず仲間達の方を見ると、神官ちゃんはかりち○まガード継続中、狩人ちゃんもまだトリップ中。
魔術師は俺からそっと目を逸らし、狂戦士は明後日の方向を向いて下手くそな口笛を吹いている。
「お前は俺達のオカンなのか!?むしろオカンに養われてた頃の方がまだ自分で色々やってた気がするぞ!このままじゃ俺達ダメ人間になっちまうよ!」
後ろでトリップ中の狩人ちゃんを除く3人がうんうんと頷いている。どうやら自覚はあるようだ。
というか狩人ちゃんはそんなにトリップする程地元の料理が好きなのか。また今度作ってやろう。
「だから……俺達、自立しなきゃいけないと思ったんだ。このままお前に頼りきりになる訳にはいかない。人として頼り切ってちゃいけないんだ!
俺達は……このままじゃダメなんだ!だから、頼む!追放されてくれ!」
聞いてるこっちが情けなくなるような聖騎士の慟哭に、彼の後ろではトリップから復活した狩人ちゃんを含む4人が力強く頷いている。
「あ、あぁ……」
その迫力に気圧され、つい生返事をしてしまう。
あれ?なんだこの気持ちは……みんながひとり立ち(パーティだから5人立ち?)すると聞いて胸の奥から湧き上がるこの気持ちは……
これが子の自立を見守る親の気持ちなのだろうか?
「分かった。じゃあ俺は明日からお前達を起こしにはいかないし、なんの準備もしない。もちろん冒険にだってついて行かない。今日使った分の装備の手入れだけは最後にやっといてやるが……これからはこれも含めて全部自分達でやるんだぞ」
「「「「「わかったよ、母さん」」」」」
誰が母さんじゃ。
ちなみに、パーティを追放された俺は冒険者稼業から足を洗い、冒険者ギルドの酒場に就職した。
考えはいたけど本編中に出せなかった登場人物達の設定
『雑用係』
主人公……のはず
人族の男(22)
戦闘以外の全てを受け持つ
よって戦闘以外は万能
髪型:茶髪に近い黒髪
目の色:紅目
『聖騎士』
人族の男(21)
パーティリーダーでタンク
髪型:金髪
目の色:碧眼
『魔術師』
人族の男(23)
魔術オタク
後衛メイン火力
髪型:銀髪オールバック
目の色:水色
『狂戦士』
獣人(虎)の女(21)
戦闘狂の気がある
メインアタッカー
髪型:赤髪のショート
目の色:赤目
小麦色の肌
巨乳
『神官ちゃん』
人族の少女(16)
後方支援を一手に受け持つ
髪型:青髪ロングヘアー
目の色:青
微乳
『弓術士ちゃん』
エルフの少女(18)
狩人上がりの冒険者
髪型:若草色でポニテ
目の色:黄色の瞳
ぺったんこ