その日、咎人は失った。
その日は、雨が降っていた。
分厚い雲に覆われた大空は薄暗く、時おり閃光と共に轟音が響き渡る。
そんな中、一人の少年が泣いていた。
彼はずぶ濡れになりながら、赤黒いナニかを抱いている。
周囲には鉄の臭い。足下には赤い液体が雨と混じってどこかへ流れていく。
少年は、一人の少女の亡骸を抱いて泣いていた。
それは先程まで笑っていた、少年の友人の成れの果てで。
この世界に絶望して屋上から飛び降りた者の末路。
降り頻る雷雨はまるで嘲笑うかのように、容赦無く一人と一つへ降り掛かる。
それでも尚、少年は少女だったものを離そうとはせず、ただ己の力不足を悔いて嘆き続ける。
いつか少年は、少女の理想を聞いていた。その理想を共に見届けると約束した。
だけど、それらは全て意味を無くした。理想は叶わず、音を立てて崩れ去った。
もう腕の中の少女は動かない。壊れてしまったその身体から、生命の色は完全に消えてしまった。
もはや、ここからの蘇生はありえない。少女は完全に『死』に囚われたのだ。
生きている以上、誰もが死ぬことから逃れることは不可能で、この少女もまた例外に漏れることはなかった。
その定めは摂理であり、いつかは全てが至る場所。そこへ辿り着くのが、少女は些か早かっただけ。
それ自体は不幸なことではあるけれど、それでも『死』の結末に少女は至った。その事実を、受け入れなければならない。
だけど少年は絶叫する。己の未熟を、少女の苦悩に気づけなかった愚かさを、悔いて悔いて悔い続ける。
もうどこにも少女はおらず、もう二度と少女とは会えない。
単純で、だからこそ残酷なその現実は、少年の精神を容赦なく引き裂いた。
そして、少年はまた絶叫する。己の喉が涸れ果て潰えるまで、少女の『死』を嘆き続ける。
悲鳴にも似たその絶叫は、発するだけで何の意味も成さず。
―――この日、少年は『笑顔』を失った。