第九十五話 主人公の取扱説明書
鍵返却のために制服に着替えてきていたリリーダだったが、このまま部屋に戻ることはしなかった。何を思い立ったか、なんとなく寮ではなく校舎のほうに足が動いてしまった。特にやることもないのだが、本人も無意識に動いているようだ。これもなんとなくだが、嫌な予感だけ目の前を走ったように顔を上げた時だった。廊下の反対側から誰かの気配がした。それは少しずつ近づいてきた。よく見ると、どこかで見たことのある人がいるような気がした。なんとなく違和感だけを感じ取ったため、角を曲がりその人とすれ違うことを身体が拒否した。
「」
なんとなく声がした。それだけを感じとった。誰かが、リリーダの隠れたすぐ近くの教室に入った音を気配で感じた。
「」
そして教室からもまた声がした。
なぜかその時は、その教室に入らなければならないと感じた。扉の前に立ってしまったが、入るべきか迷ってしまう。どうすべきなのかわからない。それでもリリーダは、その教室を開けなければと思考が誘導される。
ガラガラ。
リリーダはゆっくりと瞬きをしてから教室に目をやった。教室には二人いることに気づいた。その二人もリリーダが入ってきたことで扉に目を向けてきた。その視線が驚きからすぐに呆れたような視線に変わったように感じた。
「あなたですか。この縁だけはいらないのですが。」
「なんにしても、邪魔しかしてこない。」
始めに声を出したのはグラン・アンジャードルタ。その次にケイン・アンジャードルタが視線を外して声を出した。
「あ、なんで?・・いえ、あなたたち!どういうつもりですか!?」
混乱しながらも、リリーダは二人の存在を確認したことで、威勢よく噛み付く。
グランとケインはお互いで目配せをしている。
「ねぇ、ここにあるものがある。」
ケインが意味深に紙を持っている。それをリリーダには見えないように、裏面をわざと持っているようだ。
「いい値で取引したいと考えている。」
リリーダは二人の言っていることがわからず、疑問しか沸いてこない。
「とある、競技中の人の写真だ。この学園には重要人物の人が多い。写真には特に取り扱いが重要視されて、厳重に確認されているのは知っているな?」
グランが説明している。
「この写真、実は本人の了承を得ていないものなんだ。しかし、本人からの了承は出ないだろう。だが、君はこの写真がどうしても欲しいのではないかと思って・・ね?」