第八十六話 恋する前に
「今までどの殿方に嫁いでもいいようにと、たくさんの勉強をしてまいりました。つらいことがあっても耐えてきたのです。あの方の笑顔が私を救ってくださったんです!それなのに・・・。」
令嬢の私を捕まえる腕にも力が籠められる。彼女は下を向いてしまった。
「あの女許せない!」
突然の方向転換に驚くアリミナール。今までの悲しみに暮れていた顔はどこにいったのかお怒りモードのようだ。
「突然、あの方の近くに現れたのです!どこをみてもあの女がちらついて!誑し込もうとしているに違いありません!」
なんとなくだが、殿方=グランならば、近くにいるあの女=リリーダ?のことではなかと思考を巡らせる。主人公だし。
「あの女は許しません!あの方に相応しいのはこの私です!必ず目に物を見せてやります!」
さきほどからこの令嬢は、リリーダをいじめようと画策しているのかすごい剣幕で怒っている。アリミナールもどうしてよいのか、一言も言わず話を聞いているだけだ。
アリミナールは考えていた。見知らぬ令嬢に何を言われてもいいが、友達であるリリーダを悪く言われるのはモヤモヤしてしまう。
「あなた、どう思います!?あの女は絶対に許されないと思いません?私の味方になるというのなら、褒美を考えなくもないですわ。だって私の名前は!」
勝ち誇ったように傲慢に話を続ける令嬢の話を遮って、アリミナールは言った。
「うるさい。」
「えっ?なんと仰ったの?」
「うるさいと言いました。」
言われて令嬢は一瞬固まっていた。
「あなた、私を誰だと思っているの!」
怒りだしたその令嬢を無視してアリミナールは話を続ける。
「興味ありません。あなたの好きな殿方は、その女性を貶めるあなたをみてどう思うのですか?あなたの好きな殿方は、そんな小賢しいあなたを本当に好きになるとお思いで?あなたはそんな殿方を好きになったのですか?好きになる人を間違えましたね。あなたが本当にその殿方を好きならば、殿方が幸せになるためにあなたは進むべきではありませんか?その人の幸せを自分の幸せと勘違いなさらないで。」
「っ・・・。」
「あの女とはリリーダのことですよね?リリーダちゃんは私の友達です。友達に何かあれば私は絶対にあなたを許しません。」
「あ、待ちなさい!」
その令嬢の止める声を無視してアリミナールは部屋から出て行った。