第七十話 そんなイベントは聞いたことありません
一応ここは女子寮の裏側で、普段寮母さんはここを使わない。出る時もここから出てきた。女子寮に男性を入れるには許可が必要であるが、怪我をしている私の推しをこのままには出来ないので無理やり連れてきてしまった。
「おい!これがバレたらどうする気だ!いいから、これは自分でなんとかするって言っているだろ!」
「しっ、静かにしないと。」
裏口から入りながら二人でコソコソ話している。逃がすわけにはいかないのでナリクの腕を引っ張って行く。
カチャッ。やっと寮にたどり着いた。どうやら着いてしまえばナリクもおとなしく怪我の手当てを受けてくれる。
「お前、授業はどうした?」
くっ、忘れてはいなかったのか。
「えっと、熱で・・。」
「なっ!熱があるのか!?」
「もう下がりました。えっと、気分転換に寮を出て、バレないように戻ろうとしていました。」
まだこの理由のほうがいいよね。
「バカじゃないのか?ぶり返すこともあるんだからちゃんと寝てろ。」
あ、バカって言われてるけど私のこと心配してくれてるんだ!嬉しい!
「ありがとう。」
「礼を言われるようなことは言ってない!」
「だって、私のこと心配してくれてる。」
「してないっ!」
ふふふ、このツンデレ君は本当にかわいい。
「かっ、勘違いするな。お前のことなんて心配してない。」
ツンデレ君、そのセリフは墓穴だよ。ちょっと目線を合わせてからの目逸らし、ごちそうさまです。やばいよ、こんなツンデレ君は癒しだよ。このまま包装して持ち帰っていいですか?ダメですね。私の脳内お花畑だよ。ってかこのイベント何?ナリク君ってアリミナールとこんなイベント発生ありませんよ。やっぱりゲーム設定狂ってるな。もうなんでもいい。ありがとう!
「お前、名前は?」
あ、すっかり忘れてた。ナリクにとってアリミナールは初めましてだった。
「アリミナール・ブラックレスです。あなたは?」
「ナリク・グルテン。」
「ナリク君!ふふ。」
「なっ、なんだよ。」
「呼んでみただけです。」
「はぁ?変なやつ。」
なんだこの空間は。全国の、いや全世界のナリク君ファンのみなさんごめんなさい。
「この前、お前と・・。」
「アリミナールでいいですよ?」
「あ、アリミナールと会ったよな?」
「え、どこかでお会いしましたか?」
いや、わかってるけどね。恥ずかしいから忘れてくれ。
「クッキーくれたよな。」
「人違いでは?」
ナリク君ごめん。そのことは忘れてくれ。頭殴って忘れさせるか?