第五十九話 乙女ゲームは悪役令嬢にも青春をくれる
「先輩、これ先輩のために作ったんです。良かったら食べてください!」
「あ、ありがとう。」
ってそんな青春ストーリー寒気がするわ!
この世界にいてわかったけど、絶対にトラブルに巻き込まれるのよね。とりあえず、大人しく過ごそうとしてたのに、グランとかケインとかガイに邪魔されてたし。あとリリーダも。まぁ、それは置いておいて、このクッキーが爆発せずに出来上がった時は、どうやって食べさせようか。初対面の人からクッキーもらうって私だったら怖いわ。でも幸い、アリミナールっていうか今の私は見た目小さいし、怪しまれはしないか?自然に食べてもらう方法を考えよう。さっきの青春ストーリーは没ね。
「ふぅ」
まさか、リリーダを撒くのにこんなに時間がかかるとは。昨日の今日で元気良すぎ。大体この学園、ゲーム形式なんだから休み時間くらい長くしてほしいわ。でも、今はそんなことどうでもいい。
ナリク君の情報は忘れもしない。
ナリク・グルテン、ツンデレ要員。父・母ともにすごく有名な舞台役者でナリク君自身も役者を目指しているのよ。自分に厳しく、ついつい他人に厳しい口調をしてしまうけど、本当はすごく友達思いなところもあって、攻略していくうちに段々とデレが出てくるのよね。
今現在はツンしかないだろうけど、いいの!
ナリク君が体育館で稽古の練習に励んでいる情報はしっかり把握済み。ゲームの情報だけど、合っているはず。まさか、自ら攻略対象者に近づく日が来ようとは。恐るべしオタクの力。
あとは私が緊張せずに実行することだけよ。
来た!
「あの、すいません!」
声かけちゃった~!手が震えてる。うううっ、乙女は度胸よ。顔を覚えられない内にいざ!
「えい!」
手に持った袋から一つクッキーを取り出して、ナリク君の口に無理やりいれた。困ったときの力技だよね。
「ど、どうですか!?」
間髪入れずに質問した。考える時間は与えない。
「な、なん?え、いいんじゃないか?」
ナリク君の生の声きたー!よっしゃー!モグモグ食べている!
「ありがと、それじゃ!」
「え!?ちょっと?」
猛ダッシュで逃げることにした。
一瞬だった。でも私幸せだ。さようならナリク君、いや、ツンデレ君。もう会うことはないだろう。この思い出を一生大事にするね!とても清々しい気持ちでいっぱいだった。上機嫌のアリミナールはリリーダを探しに食堂へと向かうことにした。