第四十七話 主人公の名前を設定してください
私は状況を飲み込むことが出来なかった。
嫌な思考が巻き付いてくるように私から離れない。力が入らない、思考が停止する。ゆっくりと、ゆっくりと私はリリーダに近づく。そして、いつも前髪でかわいい顔を隠すリリーダを見るために前髪を額に巻き上げた。そこには美しい瞳が見えた。両の目の色が違い、右目は青い瞳で左は緑の色をしている。主人公の特徴なんて覚えていなかったが、その自分の行動が答えなのではないかと思った。そう、初恋レディの主人公。ゲームだから名前は存在しなかった。覚えている設定はひとつ、庶民であるはずの主人公が突然身分の高い人が通う学園に入学することからストーリーは始まった。今思えば魔法が関係していたということなのだろう。
ゲームの世界から逸脱しているこの状況はバッドエンドから遠ざかっているのか?リリーダとは友達だ。今までの関係が突然変わるというのはありえない。ありえないのか?もしも学園に入ったことでリリーダとの関係が変わってしまったら私はどうすればいい?
「アリミナール様?」
「あ、嬉しい。リリーダちゃんがいれば何も心配いらないわ。」
今の私の顔はちゃんと笑えているだろうか。私がバッドエンドを選ばないということは、リリーダのハッピーエンドを壊そうとしていることと一緒ではないだろうか?
ギュッツ。
「リリーダちゃん?」
リリーダはそっと抱きしめてくれた。
「大丈夫ですよ。私はずっと傍にいます。」
ずっと一緒に育ってきたリリーダには何かわかるのだろうか。今はただ、リリーダの言葉が暖かい。主人公でも、敵でもいい。今ここにいるのは私の友達のリリーダなのだから。
「ありがとう。」
お父様は私が泣いていることにただただ驚いていた。友人が出来たことは喜ばしいことだが、なにやら複雑な心境のようだ。落ち着いた頃今は亡き、お母さまからの贈り物でオルゴールのような箱を渡してくれた。それがどうやら入学祝いのようだ。
ライトストーリー学園、入学初日は自己紹介を行っていた。私は短い自己紹介を終え席に着く。ついにこの時がやってきた。ゲームに登場していたキャラクターたちとはすでに面識のある人もいる。ゲームと違う設定をどうやって主人公は攻略していくのか気になるところでもある。そうこう考えている間に、クラスの自己紹介が終了し、チャイムが鳴った。
「ねぇ、俺のこと覚えてる?世界征服は着実に進んでいるのかな?」