第二十八話 ここにお嬢様はいない
隣国までの移動とあって、場馬に揺られること7時間。休憩も挟みながらの移動であった。生活面での金銭はすでにお父様が支払い済み。しかし、もしもの時のためにアリミナール自身にもお金を渡していた。私は盗まれることを考慮して財布には少しだけ入れ、他は日用品に隠すことにしていた。これは前世での海外旅行の知恵なので誰にも言わないようにした。
「お嬢様にとっては、初めての長旅ですよね~?お体は大丈夫ですか~」
「キャラベル先生、お気になされず普通にお話になってください。邪魔なお父様はいないので。ふふ、長 旅でも外に出られることは喜ばしいことです。」
「おやおや~ありがたい!ただの教師には敬語は難しいので~。じゃあお嬢様はノイシー先生とでも呼んでください~。」
「では、ノイシー先生。今後はお嬢様と呼ばずにお願いします。お金持ちのお嬢様と思われると、命の危険もありますので。」
ニコリと笑顔になる。お堅い人だと聞いていたが、なんだか緩い人のようだ。
「んじゃ、アリミナールちゃんで!」
「ふふ、嬉しいです。」
「ずいぶんしっかりした人ですね~。娘とは大違いだよ~。自分にはアリミナールちゃんと同い年くらいの娘がいるけど、いつもびくびくして変わり者ですよ~。」
「ノイシー先生の娘さんは、反抗期ってやつですか?」
「ん~嫌われてはないんだけどね~。自分は魔法の研究やら勉強やらで構ってあげてないからかな~。何年も会ってないのはいつものことだからね。」
「少し羨ましいです・・、いえ。」
「あは~君のお父様とは違うよね。あの人苦手だよ~。」
「正直に言って頂けて嬉しいです。お父様は少しおかしい人なんです。」
「いや~自分が言うのも変だけど、かなり変わった人だと思うな~。アリミナールちゃんがまともな子で本当よかった~。あの人、娘に会えないなんて死ぬって自殺しようとしてて、使用人の人たちに止められてたよ。」
いや~!お父様はなにしてんだ。たしかに無期限で会えなくなるけど、魔法の暴発を危惧してのことなんだから、素直に聞いてくれよ。もうすでに屋敷に帰りたくなくなったよ。さようならお父様、娘がいなくても生きていけるって実感したら、帰ってあげますね。
森の中を進むこと数時間、木造で作られた別荘のような家にたどり着いた。
「人いないからバンバン燃やして平気だよ~」
「魔獣の森?」
「アリミナールちゃん正解。」