第二百三十七話 いつの時代も乙女の敵は
夏休暇が終了し、私・・・アリミナール・ブラックレスは・・・太った気がします!乙女の大敵デブ!悪役令嬢であるアリミナールだと思って夏休暇に油断しました。はい、自分のせいですね。だって、屋敷のみんなが優しいの!美味しいものを与えてくるの!ああ・・・屋敷にほぼ閉じ込められていたから、感覚が狂っている。どうしよう。ゲームの設定だけあって、周りは見目麗しい人ばかりだし、なんかちょっと太っただけで罪悪感があるわ。
表情にはいっさい出ないのに、心の冷や汗が止まらなかった。
そして、寮から登校していると肩を叩かれた。
「よぉ。元気にしていたか?」
「っ!?」
現れたのはクローだった。同じ教室だというのに、わざわざ今話しかけてくることに少し不機嫌になりそうだった。
「ん?なんか、前と変わったな?」
「っ!?」
そう言って、まじまじとアリミナールを観察しだした。全身を観察されているため、あることに思い至った。
何!?太ったって!?やっぱりわかる!?主人公と争うはずの悪役令嬢が夏休暇で太ったなんて恥だよね!?うぅ・・・ごめんなさい。
アリミナールは、俯いてしまった。
「あ、やっぱり。身長伸びたか?」
「身長・・・?」
クローの一言に一瞬目を輝かせてしまった。
いや、待て。クローだよ?身長伸びたとか嘘・・?あ、ダメ。クローのことよく知らない。いや八方美人的なクローが、太ったとか言うはずないし。これは、あれだ。身長伸びたと誤魔化した可能性ならある。
「身長以外・・・はどうでしょうか?」
俯いたまま、クローに質問してみた。
「ん?他に成長したってことか?」
そう聞きながら、クローはある一点を見てきた。どことは言わないが、首から下、お腹から上の位置であるその一点に集中した視線に気づいた私は、躊躇することなくクローの腹部にパンチをしたのである。
「いたっ。」
絶対痛みなど感じなかったであろう言葉だったが、女性に対して失礼な視線だったので謝りはしない。というか!最低だ!地味に気にしているのに!変態!
心の中だけで罵倒しといた。
私の心を傷つけたクローに小さな不幸が訪れることを祈っておく。
でもなぜかクローは、ニマニマと私の心をイラつかせる笑顔を向けてくるのである。
「悪い、悪い。いや、どことは言ってないだろう?」
むー!反省していないな!そんなことしているとモテないぞ!親しき中にも礼儀ありだよ!いや、親しくなんてないけどね!?
無表情で対応しているのに、クローはアリミナールにパンチをされたことになぜか機嫌が良かった。




