第二百十六話 不機嫌な王子様
グランが生徒会の仕事も切り上げ、自室にて書類整理をしていた時だった。扉の外には護衛のように同じ制服を着た人物が立っていたが、その人物の目の前に現れたケインがとりつく前に扉を開けて入っていく。
「兄さん!」
元気よくグランに会いに来たケインだが、グランのほうから口を開いた。
「ケイン!お前、聞いたぞ。この前の成績はどうしたんだ?」
「え?何かおかしかったかな!?」
「いつも好成績だろう?」
「・・・。え!?今回も1位だったけど・・。」
「あれ?そうだったのか!?すまない・・・生徒会長が昨日、1位は別の人物だと言っていたから、ケインが順位を落としたのかと思っていた。」
「ああっ・・。あれね。」
「どうした?」
ケインは神妙な顔をしていた。
「僕が順位を落とすことなんてありえませんよ。兄さんのようになることが僕の目標ですからね。」
すぐに笑顔を向けるとグランも特に気にした様子はなかった。
「そうか。そろそろ夏休暇前になるが、学園はどうだ?そういえば、あの扉の前にいる男はお前のことを心配していたぞ?」
「あいつがですか?どうせ妹のことばかりでしょう?」
「あ~・・・否定はしない。」
困った笑顔でグランが肯定の言葉を紡ぐ。
「夏休暇といえば、パーティーのことですが・・・おそらくガイの国のほうであれば問題はないかと。」
自国でのパーティー開催では、とある人物の父親に拒絶される可能性があることを示唆している。いくら王国の指示でも、娘優先であるあの父親のことは、有名である。ゲンシュルタ国では、化け物といわれるほど魔法に関しては古い教えが今もなお残っており、どのような経緯においてもパーティー参加の意志はないだろう。そのため、ガイの国における特異体質への対応は絶対的な守りとなるだろうという計画がこの二人とガイの中では決まっていた。
「そうだな。あと、ガイと揉めていた案件はどうした?」
「え!?あ・・えっと、大丈夫です。ガイが不機嫌なのはいつものことなので!」
少し考えた様子を見せたが、ケインは笑ってグランに答えた。
寮の廊下では、ある一人の男が足音を隠そうともせず、一直線に目的の場所へと向かう。
とある部屋の扉の前には、一人の男が立っており、その音の主に笑顔を向ける。
「ガイ様、お二人は中においでです。どうぞ。」
そう言って目の前のガイと同じ制服を着ているはずの男は、ガイを部屋に通すとまた元の位置に戻る。しかし、ガイは一言も話すことなく不機嫌な顔でその部屋へと入って行った。
『おやおや、なにやらあのガイ様があんなにお怒りとは。』
同じ制服を着た男はそんなことを心の中で考え、扉の前に立つ。




