第二百四話 噴水と私と落し物
噴水の中にはないと判断すれば早かった。よく見ると、噴水近くにキラリと光るものが見えた。自分が意味のないことをしてしまったことに気づく。
「おっ、おまっ!なっ、なにっ!」
そこでやっと私は放心状態から帰ってくる。
そういえば誰かの声を聞いたことを思い出す。この状況説明をどうしたものかと考え始める。自分の行動に怒っているのであろう誰かの、しどろもどろな言動を聞きながらゆっくりと振り向いた。
「そっ、そんなっ!恰好でっ!おまっ!」
顔を耳まで真っ赤にしたナリクを見て、アリミナールはぴしりと固まる。
あ・・・ああ、はいはい。大丈夫、だいじょうぶ。最近の私の強靭な精神ときたら、あれだよ?ナリク君がいたからって驚かないからね!リリーダと離れてからというもの、攻略対象者との遭遇なんて慣れっこだよ。ははっ。
自分の運のなさに、半ば投げやりになりつつあるアリミナールだった。
「そこで!なにしているっ!」
やっとナリクの言動がしどろもどろではなく、はっきりと聞き取れるようになった。
しかし、アリミナールは動きを止める。
なにをしていると言われても、噴水の中に入っていますとは言えない。なんか、すごい怒っているし。何を言っても許してはくれないだろう。このまま教師にバレてお説教コースかな?
しょぼんと落ち込んでいるとナリクがさらに声をかけてくる。
「とっ、とにかく!早くこっちに!」
ナリクが声をかけるほうが遅かった。
噴水の中央に設置された像から、機械音が聞こえてきたのだ。
カシャン、カシャン。
シャーっ。
噴水の中にいるアリミナールは、噴水の上から降る水を避けることも出来ず濡れてしまった。予想より噴水の水の量が多く、アリミナールは目の前が霧のようになり、見えないほどだった。ずぶ濡れになりながらも、足下を見て噴水の水から逃れることには成功した。
噴水の縁まで来て、ずぶ濡れではあるが足を外側に出した。頭から濡れたので髪の毛まで濡れている。前が見えづらいため、前髪をかき上げて露になっている足をぶらぶらと乾きもしないのに動かした。
目の前を向くとナリクの姿があった。
「くそっ、衣替えでさえなければ。」
衣替えさえなければ、上着を着ていたのにとナリクは言いたかった。
「とっ、とにかく話はあとだ!お前、そこから一歩も動くな!」
ナリクに真っ赤になり怒られながら、きっと人を呼んでこようとしてくれているのだろうと気づいたが、アリミナールが止める間もなくナリクは走り去っていく。




