第二十話 子供の時間
その日は慌ただしかった。普段出かけないはずのアリミナールの身の回りを、使用人たちが右往左往していた。出発の際はお父さままでもがお見送りに来られた。
「アリー、お前のことは信用しているが、くれぐれもお行儀良くな?」
お父様のその言葉に、コクリと頷きをみせ安心したようだ。アリミナールの胸中は、王子様に無礼があれば追放されることも、夢ではないかもしれないなどと考えていることは、この場の誰も考えない。また、屋敷の外を見たいとお父様に言おうと考えていたアリミナールが、ガイ様の招待を断るわけもない。 たとえお城でも外に出れるならと考えていた。
ジェット国の馬のような紋章をつけた馬車に揺られどのくらいたっただろうか、普段見慣れない町まで通るため、アリミナールはわくわくしていた。警護のため馬車には一人強面な男性がいたが、馬車の中での落ち着きのなさぐらい許されるだろうと、窓の外をずっとみていた。強面の警護人と目があえば、お嬢様スマイルで誤魔化すことにした。
アリミナールとともに馬車に乗車していた強面の男。普段はジェット国の王子たちの警護や城に招く客の警護に充てられることも珍しくない。最近ではガイ・ブルスタール王子の警護の一人である。普段、お城に向かう客たちのなんと浅はかなことか、城内について質問攻めにされるのであるが、目の前のお嬢様ときたら窓の外ばかりみている。ガイ様と同年代ということは6歳ほどであろうか、身長は年齢よりも小さくみえ小柄、大きな目を輝かせている。可愛らしい外見のため、屋敷からそう出ることがないのだろう。普段から顔が怖いと言われる自分にさえ、目が合うと笑顔を向けてくれる。ガイ・ブルスタール王子とはまだ半年ほどしか使えていないが、まだ子供であるはずの彼は言葉数が少ない。何を考えているかよくわからない方だが、目の前の少女のような友人が出来たのは喜ばしいことである。そんなことを考えていたためか、少女と目が合うと微笑みかけてしまった。
アリミナール・ブラックレスは顔に出ない。しかし、強面の警護の人が微笑みかけてきたことに驚いている。そして笑顔を返す。
「外の世界は広いんですね。」
「はい、どうぞお気になさらず楽しんください。」
やはり、アリミナール・ブラックレス嬢は箱入りお嬢様であったかと納得をした強面の警護人であった。少しばかりかわいそうな気もしてしまった。