第百八十三話 記憶よ、去れ
コンコン。
コンコン。
寮の部屋の一室に響き渡るノック音。
誰もいない部屋ではないのに、部屋の住人は返事がない。
ピッ。返事がない・・・ただの屍のようだ。
今度は大きな音でノックをしてみた。ドンドンっ!
ピッ。返事がない・・・ただの屍のようだ。
いや、ゲームじゃないんだから!
とアリミナールは心の中でツッコミを入れていた。
「リリーダちゃん?私だよ・・。」
それでも部屋の住人の返事はなかった。
アリミナールは大きなため息をして、ゆっくりと重い足取りで自分の部屋に戻った。
「はぁ~。嫌われたのかな~。」
独り言を無意識に言っていた。嫌われてないと信じていたが、自分の言葉も信用できないほどに落ち込んでいるアリミナールがいた。
ただ単純にリリーダの機嫌取りをしていいのだろうか?これは大きなチャンスではないだろうか?今まで私に付きっきりだった主人公が一人になったなら、攻略対象者と真っ正面から攻略するには、絶好の機会といえる。あと、私にとってもこれはいい機会なのかもしれない。リリーダがいることで、あまり周りの様子がわからないことも多かった。少し、この時間を使って出来ることを考えてもいいのかもしれない。
・・・・。っていうか、私最低じゃないかな!?友達に嫌われているのに、自分の心配ばかりじゃない!?今までリリーダの明るさに助けられた部分が多かったのに、友達捨てたみたい!?いやいや、これはリリーダのためでもあるし・・・とかいいつつ自分のためなのか!?ふぅ、落ち着こう。一人になると余計な心配ばかりしてよくないな。
ゴロゴロとベッドの上で、ローリングしながら自問自答のように頭の中で言葉が回転していた。
そして今日の記憶の中で、アリミナールは写真を破かれた瞬間を思い出していた。
ああ・・・私の唯一のグッズが。泣きたい。ああ・・・。誰か時間を巻き戻して。ケインとガイの写真が・・ああ。いやいや、本人たちが近くにいるんだから、こんな幸せなことはないと喜ぶべきだよね。でも・・・イベント見るのと、グッズゲットするのはまた別でしょ!?誰か!この気持ちわかって!
割と自分でもこんなどうでもいいことに悩めるってすごいなと感心してしまう。だって、バッドエンド=死だよ?
でも、どうせ死ぬなら後悔ないようにしたいね。またグッズはチャンスがあるかもしれないし。そうだよね・・・夢は全コンプ・・・ツンデレ君の写真が欲しいなぁ~。よし、もし叶ったら家宝にしよう。
一人、寮のベッドの上でムフフと不敵な笑みをするアリミナールがそこにはいた。




