第十六話 何しに来たの?
初恋レディにおけるガイ・ブルスタールとは、隣の国のジェット国の王太子である。兄弟が多く、王位継承権は上の兄たちが有力のため期待されて育てられたわけではない。口数が少なく、何を考えているかわからないと周りには言われている。ケイン王子とは友人関係。主人公に会い、心を開いていく物語だ。実はアリミナールとは接点がなく、初恋レディのストーリー上、唯一アリミナールが婚約者ではないルートである。そのためかアリミナールの死亡フラグはない。
「本当に会わせてくれるのか?」
「今、向かっていますよ。」
表情にはでないが、少し緊張と喜びが混じった声でガイ・ブルスタールはケイン・アンジャードルタに質問する。馬車に揺られながら屋敷に向かうケインの胸中は穏やかではない。
「ようこそお越しくださいました。」
ケインとガイが屋敷で一番初めに聞いた声は、屋敷の主人でも娘でもなかった。グラン・アンジャードルタが出迎えてくれた。
「兄さま、来ていたんですね。」
ケインが笑顔で答える。しかし、アリミナールの屋敷にグランがいることはすでに把握済みであった。兄の命令、じゃなくてお願いで偶然を装うことにすると言われていた。
「まずは屋敷の主人に挨拶にいこうか?」
とても自然に、グランはケインとガイを案内する。
「それで、それで、兄さまはその時に大きな風があったのに全然驚いてなかったんです!」
「僕だけじゃないだろ、ケインだって笑顔だったじゃないか。」
「僕は驚きすぎて、動けなかっただけです!兄さまのすごいところはたくさんあります。」
「ケインはいつも楽しそうに僕の話をするね。」
グランとケインは二人で話している。どうでもいい話題を。はじめこそアリミナールとガイが、二人で話さないか不安でみていたが、4人でテーブルを囲んで話しているというのに、現在喋っているのはこの二人だけである。
そんな中話していない二人といえば、アリミナール・ブラックレスは笑顔で二人の話を聞いている。その隣で座っているはずのガイ・ブルスタールもなぜか笑顔で話を聞いているだけだ。
このまま時は過ぎていく。ブラコンのケインの話が尽きることはない。
『兄さま教えて。この二人は何をしているの?』
『ケイン、僕だって知りたいよ。』
二人の心の中、つまりテレパシーなんて持っていないが、二人の心がつながった瞬間だった。