第百五十九話 地獄の味とケイン
走った先では、廊下の端に群がっているお嬢様方の集団を見つけた。
女性陣よりも身長があるため、一目でその集団の中心が誰なのか理解することが出来た。知っていたことではあるが、アリミナールにとってはこのように目の前で人気があることを再度認識させられたかのような感覚となる。
ケインが囲まれていた。
さすがケイン。これは、リリーダも逃げ出したくなる。女の子たちがハンターの目をしているよ。怖いよ。これは何事もなく通り過ぎることが吉だね。
逃げるようにその集団から距離を取って、速足で通り過ぎようとした時だった。
「アリー?」
びくりと背筋を撫でられたかの感覚に震えた。ケインの一言に周りのお嬢様方も反応するので、冷や汗が流れる。ちょっとごめんねといい、その集団からかき分けて私の目の前までやってきたケインには何してくれてんだというしかない。群がっていた人たちもこちらを見てくるので、恐怖しかなかった。
エプロン姿で、カップケーキを持っているアリミナールに気づいたケインは少し躊躇いながら話しかける。
「あのさ、もしかしてそれ・・・。」
最後まで聞いてこないケインに、何も答えることはない。表情もいつも通り動かないアリミナールだが、心の中ではお嬢様方の視線に殺されるのではないかとひやひやするばかりだ。すぐにその場から立ち去りたい衝動があったが、この人数がいる場面で王子様を無視して走るほど愚かではない。
「あ、あの。」
消え入る声で話し始めたアリミナールは、先手必勝とばかりに決心を決めることにした。
「ケイン様、申し訳ありませんが急いでいますので。女性をお待たせするのもよくありませんし。」
そう言ってケインに群がっていたお嬢様方に目を向ける。
人気者だな。子供の頃からすでにオモテになっていたけど、こういう時に声をかけてくるような空気読めないことはやめてほしい。あ、でも主人公に対しての特別扱いは大事だと思う。
「それ!大事に持っているけど、誰にあげるんだ?」
「え?」
「アリーが作ったやつだろ?」
「あっ。えっと・・。そんなの秘密です!ケイン様に教えるわけないじゃないですか!」
突然焦り出して、慌てふためきだしたアリミナールに、ケインも狼狽える。
「な、なんで!?」
「乙女の秘密です!ね、皆さん!」
ケインに群がっていたお嬢様方に同意を求めれば、なぜか温かい目でみんなうんうんと頷いてくれる。
恋する乙女と思われたのか、ケインを引き留めてくれるお嬢様方のおかげでアリミナールは、その場から立ち去ることができた。




