第百四十七話 悪役令嬢は庶民の味に弱い
クローは、その食堂のおばさんに優しく話しかけていた。
「こんなお嬢様にうちの店の商品が口に合うかわからないけど、仲良くやんなよ?」
ちょっとの会話を済ませた後、そのおばさんは仕事に戻ったのか、扉を開けて建物の中に入ってしまう。その際、アリミナールに向けて手を振られたので、お礼の意味も込めて手を振り返してしまった。
「どれがいい?」
クローが貰った紙袋から中身を見せてくれる。その瞬間にぱぁっとアリミナールの表情は明るくなってしまった。学園脱走計画でも食べた商品が入っていたからだ。二つ選んで、クローにお礼を言った。
「ありがとうございます。」
「それだけでいいのか?」
「はい。」
両手に揚げ物とパンを持っているお嬢様はそうそういないだろう。そうして、クローから離れて行こうとするアリミナールであったが、なぜか後ろから付けられている。それに気づいたので一度立ち止まることにした。
ピタっ。
後ろのクローも同じように止まる。隠れるようなこともしていなかった。アリミナールが後ろを振り返っても何も言わなかった。
自分から聞くこともせず、アリミナールは学園の階段へ上って行く。これから行くところにクローは連れて行けないと考えなおし、声をかけることにした。
「あの、付いてこないでもらえませんか?」
「おばさんから感想聞いてくれって言われたからな。」
「そうですか。では、食べ終わったら伝えに行きます。」
「そうか。」
そう言って歩き出したが、クローはなぜかそのまま付いて来ようとしていた。
「まだ何かありますか!?」
「いや、なんとなく?」
溜息をついたアリミナールは、もう知らないと言わんばかりに付いてくるクローを無視して進んだ。
着いたのは、ただの廊下に等しい所だった。席もなければ、どこかの教室に入るつもりもなかった。この場所は人通りが少ない、窓からはアリミナールのお目当ての裏庭が見える。
この場所は、もちろん知っている。【初恋レディ】で、主人公がお弁当を持参して食べる姿が一望できるのだ。ふふ、さすが私だな。こんなこともあろうかと、ちゃんとリサーチ済み。まぁ、お助けキャラがいるのは計算外だけど。
窓の外を眺めながら、クローから受け取った揚げ物を出し、お嬢様としてはありえないだろう、立ち食いを始めたアリミナール。何も言わず、クローも隣で食べ始めた。
予想通りリリーダ発見!そしてもちろんあの方も!




