第百十話 勘違いしないでよね
寮から学園までの距離はそう遠くない。今までだって気にしたことはない。それでも今日の私はびくびくと怯えながら歩を進める。
隣にはいつもの通り、リリーダが一緒に歩いて学園まで歩く。
「アリミナールさん、おはようございます。」
後ろから見知らぬ学園の男性生徒が声をかけてくる。最近では珍しくない。しかし、今のアリミナールにはそれだけでびくりと怯えてしまう。
「あっ、おはよう・・ございます。」
リリーダに少し隠れるようにして、顔を赤らめ挨拶を返す。
「はぅぅう!アリミナール様ダメですよ~。」
「ひゃぁぁっ。」
挨拶を返しただけなのにリリーダに抱きしめられてしまう。それからというもの、リリーダは誰かに挨拶をされるアリミナールを見るたびに、そわそわして落ち着かないでいる。
心臓に悪い。
この学園の顔面偏差値おかしい!アリミナールっていうか、私!ちょろいからすぐに勘違いしちゃうよ。もう誰も私に話しかけないでほしいわ。それに、悪役令嬢のアリミナールもきっと私と同じでちょろかったのよ。そうに違いないわ。
「アリミナール、おはようございます。」
次は誰だと振り返ると、グランの姿があった。おや、珍しい。そうか、人払いの呪いが消えたからこうして学園への道で出会ってしまうのか。いつみても美少年。
先ほどと変わらずに顔が熱くなる。
「グラン様、おはようございます。」
リリーダには挨拶をしないのかしら?と私は考えていた。
グランのほうも、なにかおかしいと感じているのかこちらを見ている。そして何を考えているのかアリミナールのほうに手を伸ばしてきた。
「なぜ逃げるんだ?」
グランの手が自分に近づいていると感じたので、アリミナールは反射的にリリーダのほうに逃げてしまった。
なっなっなんだ!びっくりするだろうが。美少年は心臓に悪いんだからやめてほしい。これからは半径5m以内に近づかないでほしい。近づくならリリーダにしてくれないかな。
「そんな反応をされるとは・・・面白い。」
極上の笑顔でそんな言葉が聞こえた時は幻聴かと思うよね。いや、たしかに聞こえた。仮にも王子様なんだから発言には注意してほしい。
「近づかないでください。」
「ははっ、冗談ですよ。」
ガクブルだよ。完璧超人王子様が消えているよ。
リリーダに至っては、怖がって縋る私を見て喜んでいるようにも感じてしまう。




