表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集 冬花火

ラクガキ机チャット

作者: 春風 月葉

 高校三年生の夏、大学受験を控えた私は、自身の通う学校の空き教室で一人静かに自習をしていた。

 夏季休業も残り半日になろうとする頃、私は奥の机にラクガキがあることに気がついた。

『こんにちは』

 と書かれただけのラクガキが何故か私は気に入り、私も同じようにこんにちはと書いてから帰宅した。

 翌日の昼食後、ラクガキが気になって昨日と同じ机を使った。

 するとそこには新しいラクガキがあった。

『男の子? 女の子? どっち? 』

 私は少し考えてから、どっちだと思う? と書いた。

 翌日の昼、ラクガキは律儀に返事を終えていた。

『うーん、字がきれいだから女の子! 』

「ありがとう。でも正解は秘密です。」

 性別に関しては図星だったので、私はそれに対する返答を濁した。

 それからも私たちのやりとりは机の上で続いていった。

『あなたは何年生? 』

「三年生です。」

『受験生かぁー、ガンバレ! 』

「ありがとう。」

『文化祭楽しかったー。』

「私は疲れちゃいました。』

『体育祭の時期だ! 』

「私は運動苦手です。」

『勉強はどう? 』

「もうすぐ受験、緊張します。」

『ついに明後日だね。ガンバッテ』

「ガンバります。」

『おつかれ。』

「うん、一年間ありがとう。さようなら。」

 受験の結果を言えば、私は落ちた。

 この日の私は名前も姿も知らない誰かに、最後のお別れと受験の結果を言う…いや、書くために来ていた。

「受験失敗しちゃいました。」

 そう続けて書き、

「一年間、応援してくれたのにごめんなさい。本当にありがとう。」

 と閉じた。

 そして、扉を開けようとした。

 ドアの曇りガラスのせいか、前がよくみえない。

 ガララ…、急にドアが開き、一人の男子生徒が入ってきた。

「あっ、えーと。先輩、受験おつかれさまでした。」

 彼の言葉を聞いて、はっとなった。

「もしかしてラクガキの? 」

「はい! 」彼はニカッと笑って答えた。

「そう…、ごめんなさい。受験はおちちゃったの…。」

「そうですか…、その俺って頭悪くて、先輩みたいに良い学校うけらんないから…来年、通信制に入るつもりなんですけど、そこの募集はまだやってて、入学の時期も少しズレているんです。」

 なんで彼は自分の入ろうとする学校の話をするのだろう? という疑問はすぐに消えた。

「もし良ければ、来年も俺の先輩でいてくれませんか? 勝手ですし、一年も待たせてしまいますけど、俺はもっと先輩と話をしていたいんです。机の上じゃなく先輩の隣で! 」

「…ふっ、あはは。」

 おもわず笑ってしまった。

「何それ…ふふっ、でもありがとう。考えておくね。」

 その後、私は彼の言う通信制の学校へと通うことを決意した…


 …そして現在。

「先輩、どうしたんですか? 変な顔して。」

「ううん、なんでも。あと女性に向かって変な顔とかいわない! 」

「そういえばこれ、次の会議資料です。」

  ドサァッ、ものすごい量の紙の束に目まいがする。

「うわぁ、これまた多いわね。」

「大丈夫ですよ。俺も手伝いますから。」

 頼れる私の後輩はニカッと笑ってそう言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ハッピーエンドで、読後感いいエンディングでした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ