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8 真の大学とは

8 真の大学とは


 イレールとエリックは物陰に潜んで息を殺していた。やっと大学という場所を見つけたのだ。インターネットなどを駆使して、今日ついにその場所にたどり着いた。結構家の近所にあった。電車で何駅かの移動を余儀なくされたのだが、これなら高校の代わりに通学する場所としてはぎりぎりありかもしれない。ところでインターネットで検索してみてわかったことなのだが、どうやら大学という場所は世界中にごまんとあるらしい。こういうところも高校と似ているところだ。やはり学問を修める場所なのだろうか? また大学にいきたいという奴は、事前の情報の通り、自分で好きな大学を選んでそこの試験をパスしなければならないようだ。インターネットの力を持ってもしてもまだ具体的に大学がどういうところであるのかという謎は謎のままだったが、しかしかなり真実には近づいたように思う。今まさにイレールとエリックはその大学に突入してその謎を突き止めようというのである!


 イレールが言う。「やっとここまでたどり着いたな。やっとここまでたどり着いた! 険しく果てしない道のりだった。本当に予想以上に険しくて果てしなくて、途中で何度も挫折しかけたが何とかここまでやってきた。今思えば誰かに大学のことをたずねるなんてことは、インターネットがあればまったく必要なかったし、また本当にインターネットといものを思い出してからは展開が早かった。だから何とか二月が始まるまでにこうして大学のある場所までたどり着けたぜ! 見ろ! やはりこうしてグーグルマップもしっかりと示している。きっとあれが俺たちの目指していた大学という機関の建物で間違いないことだろう。準備はいいかエリック。さあそろそろあのでかい建物に突撃だ」

「いやちょっと待ってくれイレール」エリックが言う。「何か様子が変だ。何か様子が変だと思わないか? こんなに大勢の人がひっきりなしに校門を出たり入ったりしているなんてどういうことなんだ? 授業は? ここが学問を修める場所だというなら、その中では少なくとも何かしらの授業が催されているはずだ。それなのに休憩時間のように生徒らしい人たちが本当にひっきりなしに、際限なく校門を行き来しているじゃないか。今は偶然にも休み時間なのか?」

「確かに言われてみればそうだな」イレールが言う。「でも本当に今がただの休み時間という可能性だってあり得ることだろう。さっきからときおりチャイムの音色だってこの建物から聞こえてきているじゃないか。大丈夫さエリック。心配するな、ここが大学という場所であることは間違いないんだ。グーグルマップがあるだろ! こいつを見てみろ。これでこの建物が大学じゃなかったら一体何だというのだ。見様によっては大きな病院に見えなくもない」

「しかし突撃するといって具体的にどうするつもりなんだ?」エリックは言った。「あの校門を行き来している若者の一人に声をかけて、それで大学のことを直接たずねようとでもいうのか。それはそれでいいアイデアかもしれないが、しかしちゃんとそれが実現可能なものなのかどうかは考えておけよ。俺たちはクラスメイトという近しい間柄の奴らにだって最終的には気を使って大学のことをきけなかったんだぞ? もしきいたそいつが大学のことを知らなかったら話がややこしくなると思ったし、大学のことを知っているに違いない奴らにだって、結局厳しい現実を突きつけられたらどうしようってことで怖気づいてしまったじゃないか。頼れるところはインターネットだけだったってわけだが、そのインターネットだってどこまで真実のことを語ってくれているかわからない。何事も過信は禁物だ。過信は禁物だって言っているだろうがイレールよ」

「エリック!」イレールが言う。「どうしようか。そうだな。せっかくここまでやってきたんだ。さらにさらに冷静になって物事を遂行していかなければ、きっと後悔してしまうことになるだろうな。さあでは考えようじゃないか。あの若者たちに声をかけてみようか? そんなことが恥ずかしくてできないっていうのであれば、あの警備員は? あの校門のところに立っている警備員みたいな人に道をたずねる感じで話しかけてみたらいいじゃないか。警備員かもしれないけれど、きっと俺たちなんかよりはずっと大学のことについて詳しいはずさ」

「いいアイデアだ!」


 こうしてエリックたちは、誰に話しかけるよりもまずあの校門の近くで警備をしているおじさんに声をかけてみることにした。


 警備員のおじさんが言う。「私はここの大学の警備をしているものだ。警備をしているリオネルというものだ。リオネル・ゾラだ。君たちは何者なんだ。君たちは一体ここに何をしに来たというのかな? 見たところここの学生たちのように見えなくもないが、しかし私に話しかけてくるということはここの学生たちじゃないんだろうね。私に軽くあいさつをしていく学生たちはたくさんいるが、こうやって私との立ち話を望む学生なんてそう多くはないからね。改めて問おう、君たちは一体何者なんだね」

 イレールは言った。「僕たちは高校生です。近所の高校で高校生をやっています。この度自分たちの進路について、ちょっとこの大学というところがどういうところなのかと思いましてね。それで学校の休みを利用してリサーチしにきたというわけなんですよ」

「リサーチか」警備員が言う。「それはご苦労様だね。それでリサーチしてみて何がわかった? 何かいい情報を手に入れることができたかね? 今ちょうどここの学生たちはテスト期間の最中でね、みんな忙しくしているよ。君たちも来年の春にはこの大学へ?」

「いえ実はまだ何も決めていないんです」イレールが言う。「僕たちはその……まだ自分たちが高校を卒業して何をすべきかという結論を何も持っていないのです。それで大学というものも噂にきいていたものですから、どれひとつ見てみよう、という魂胆でして。今僕たちが何よりも恐れているのは、現実感の強い真実です。どうにもならないくらいに強い現実感を伴ったセリフには一発で心がやられてしまうことでしょう。メンタルが壊れて修復が不可能になってしまいます」

「ちょっと何のことを言っているのかわからないが……」リオネルが言う。「よければ私も君たちの力になろう。君たちみたいに私に直接何かを話しかけてくるのは珍しい。ぜひ協力させてくれないか。それで君たちは何を求めているんだ?」

「何を求めている?」イレールは言った。「それは何を求めているんでしょうか、ええと、とにかく僕たちはここが大学であるということを突き止めるので精いっぱいだったんです。そのあとのことは残念ながら真剣に考えていませんでした。とにかく大学にさえ行けば何かがわかると思ったんです。ところがあなたにこうして話しかけてみて、自分たちが何を求めているのか? さあ僕たちは何を求めているのか?」

「ちょっと混乱しているようだね」リオネルが言う。「だが恐れることはない。正解だ。まず正解だとだけ言っておこう。つまりここは大学さ。君たちが長い間探していたと思われる大学の場所はここだ。まずそこからはっきりさせようじゃないか。そして大学というのはここだけではない。混乱してしまうかもしれないが、大学はここだけではなくてもっと世界中にたくさんの大学があるんだよ」

「それはもう調べてあるんです」エリックはイレールに代わって行った。「大学がここだけではなくて、もっと世界中にたくさんあるということは僕たちもつかんでいたんです。インターネットを駆使しましたからね。事前にインターネットで大学のことについては軽く調べてきたんですよ」

「エクセレント!」リオネルが言った。「インターネットだって? 本当なのか。君たちはもう事前にインターネットで大学というキーワードを調べていたと? じゃあ本当に君たちはインターネットを使いこなせるというのか。こりゃたまげた。大学に入れば、きっといい大学生になるに違いないぞ!」

「大学生?」イレールが言う。「大学生とは何ですか? 高校に通っている僕たちのような生徒を高校生と呼ぶように、大学でもまた大学に通う人を大学生と呼ぶのですか?」

「勘の鋭い子たちだ」リオネルが言う。「その通り! 君たちは何て勘の鋭い子たちなんだろうな! それにインターネットも使えるようだし、物おじもせずに私のようなおじさんに話しかけてきた。悪いことは言わんから、君たちは今すぐにでも大学生になるべきだな。高校を卒業してすぐに大学に入りなさい」

「でも具体的にどうすればいいのか」イレールは言った。「もちろんまだ大学に入ると決めたわけではないのですが、しかし大学に入ろうと決めたときに、大学への具体的な入り方がわからなければね。噂によると大学にも試験が必要だとお聞きしましたが?」

「話が長くなりそうだな。よければ警備室の中へと案内しよう」


 リオネルの言葉に甘えて寒い外から暖かい警備室の中に入ってみると、もう一人、警備員らしい男が険しい視線でテレビじっと睨みつけていた。テレビにはサスペンスドラマが映されている。リオネルに椅子に案内されるかされないかというタイミングでその険しい視線の男が言った。


「君たちとリオネルとのやりとりはすべてここから見させてもらっていたぞ。お前たちこの大学にどうやら興味があるらしいな。だがやめておけ。ここの大学にいるのはみな精神病患者みたいな奴らばかりだ。猿以下の人間ばかりだよ。こんなところに入ってしまったら最後、君たちの輝かしい未来もそれでつぶれてしまうことだろう。もうすでにインターネットを使いこなすことができるんだって? だったらもっとまともな大学に行くべきだ。家が近いからとかここしか見つけられなかったとかいう理由で大学を決めるんじゃない。本当の大学はもっと可能性に満ちた、人類の英知が集められた最先端の研究所だ。まだまだ真面目な君たちにはそこへ行くことをおすすめしよう。どうだ、せっかく来たんだからまあ今日はくつろいでいかないか。いろいろ話をしようじゃないか」そして男は話しながらテーブルの上にあった皿に手を伸ばして「これはするめだ。ストーブの上で焼いたするめは極上にうまいぞ」


 こうしてエリックたちは急に訪問することになった大学の校門の横の警備室? みたいなところで日差しのやたら強い寒空の午後を過ごすことになった。年が明けてから初めてかもしれなかった。年が明けてから、やっと正しい道を踏み出して、そしてその中で過ごす初めての、間違いのないくつろぎと好奇心の満たされる時間だった。

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