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5 近所のコンビニ

5 近所のコンビニ


 ある晴れた日の日曜日の午後、だんだんと寒さが増してきて外には雪がちらつき始めた。やはり冬ともなれば気候が変わりやすく、部屋の中にいるのに寒すぎないか? と思って外を眺めてみると、おおよそ雪がちらついている――そんな午後、エリックはココアを飲みたいという気持ちに負けて近所のコンビニまでココアを買いに行くことにした。正月休みでなぜかココアにはまってしまい、それからちょくちょく、本当にたまになのだがココアを飲みたくて仕方のなくなるときがあるのである。


 近所のコンビニに到着して缶のコーヒーを買おうか、それかココアの粉になっているやつを買って家で作って飲もうかと考えていると、同じクラスのジョゼ・パストゥールという男子生徒とばったり遭遇した。


 ジョゼは言った。「おおエリックじゃないか。エリックこんなところで何をしているんだ。今日は確かに学校が休みの日曜日の午後だが、何をしている? お前のその手に持っているものは何なんだ。お前のその今手に持っているものはなんだ!」

「ココアだよ」エリックは答えた。「これはココアさ。俺は今このコンビニにココアを買いに来たってわけなんだ。それで今こうしてココアの缶を持っているのさ。ところがだ! 問題が発生したというわけなんだ。問題が発生したというわけなんだな! 今こうやってコンビニの中をふらついてみると、俺はとんでもないものを見つけてしまった。ココアの粉の袋さ! ほら俺の今目の前にココアの粉の袋があるだろう。これは一体どういうことなんだ。誰かが俺を混沌と混乱の渦の中に陥れようとしているのか」

「そんなことはないと思うぞエリック」ジョゼが言う。「考えすぎというものじゃないかなエリック。これはただのココアの粉さ。ココアの粉がいっぱい入った袋なんだ。お前目的はココアらしいな。じゃあそのままココアの入っている缶を買うか、それかこのココアの粉のたくさん入った袋を買ってそれを家で溶かして使うんだ。缶を買うか粉を買ってあとで溶かすかすると、お前の今日の目的は達成されることだろう」

「ありがとうジョゼ」エリックは言った。「俺もちょうど今お前の言ったようなことを考えていたところだったんだよ。どちらのココアを買うべきか悩んでいたところだったんだよ。しかしこうしてお前にも指摘されて、俺はもうすっかり自分が今何について悩んでいるのかということが明確になったよ。俺の今持っている悩みがどんなものなのかということを俺は今あらためて理解することができた。ココアの缶を買うべきかココアの粉を買うべきかだ! ところでお前は何を? お前はこのコンビニに何をしにやってきたというんだ?」

「ちょっと小腹を満たしにな」ジョゼが言う。「俺はちょっとこのコンビニに小腹を満たしに来たというわけなんだよ。お昼ご飯はもう食べたんだが、夕食までには時間がまだある。だが俺の腹はまだ満足していないというわけなんだ。そういうときお前ならどうする? エリックならどうするかな? 俺はこう考えたというわけなんだ――コンビニに行って何か食べるものを買おう。がっつりと量のあるものを買うんじゃなくて、ほんの少し、お腹が少し満たされる程度のものを買おう。そして夕食があるんだ。俺には夕食があるんだから、がっつり食べるのはそのときだ! あくまでも今コンビニで買うものは、その夕食までのつなぎでしかない。そのことを十分に意識して新たな食べ物を手に入れるんだ。これは間食というやつなんだ――とね」

「なるほど」エリックは言った。「じゃあお前もこのコンビニに俺と同じように何かを買いに来たという点では同じなんだな。まったく共通点がないというわけではないということだ。うれしく思うよ。俺はそのことをうれしく思うことにするよ。それじゃあジョゼまたな。ジョゼまた明日! お前がこのあと何を買うに至るのか俺は知らないが、俺はココアの缶か粉を買って帰ることにするよ。財布の中身を見てみて、両方いけそうだったら両方買うという案もいいかもしれんな! 何にせよ俺は今ココアにはまっているんだ。この冬からなぜか知らんがココアの甘さと暖かさに魅了されているというわけなんだ。だから両方買うという選択をしたとしても、それで俺が後悔をするって確率は低いことだろうな。っていうかいつまでも迷うくらいだったら、ええいもういっそマジで二ついっぺんに買ってやることにするか」

「明日はないぞエリック」急にジョゼが不思議なことを言う。「エリック、申し訳ないが俺たちに明日はないんだぞ。俺たちには俺たちが明日自然と会うような明日などないんだぞ。そんな予定はないぞ。どうしたエリック。忘れてしまったのか。俺たちはもう高校三年生で、しかも三学期に突入してしまっているから、そんなに毎日毎日学校に通う約束なんてないんだぞ。週に一度くらい顔を出しておけばそれで出席は十分という感じになっているんだぞ」


 エリックは驚愕した。何を言っているのか。今ジョゼは何を言ったのか? 思わず手に持っていたココアをするりと床に落としてしまいそうだった。手の力が急に入らなくなってしまうような、全身の力がすっと抜けて行ってしまうような感覚に襲われたのである。それにしても本当にどういうことなのだろうか。毎日毎日学校に通わなくてもよくなっているとはどういう意味なのだろうか。さっぱりわからない。あくまでも我々は今高校生なのであって、三年生の三学期かもしれないが、学校に通わないでいいとなれば一体どこにいけばいいというのだ。まさかずっと家の中にひきこもっていろとでもいうのか? 確かに寒い季節なので、むやみやたらと外に出たいという気持ちにはならないけれども、だからといって明日からもうすでにどこに行かなくてもいい、つまり行くところがないという状況はあまりにもつらいような気がする。そりゃあんまりにも殺生というものだ! ジョゼ。嘘だと言ってくれ。今お前が言い放ったセリフは、ちょっとした寒気に見舞われている午後のコンビニでの一幕を盛り上げるために言ったデタラメだと証明してくれ。このままだと俺はどうにかなりそうだ。このままだと俺はどうにかなっちまいそうだよ! 今までまともにやってきたけれども、今までまともにやってきたからといってこれからもまともにやっていけるかというと、それほど甘いもんじゃないんだろ? この世の中ってどうせそれほど甘い感じにできてないんだろ?


 ジョゼが言った。「おい大丈夫かエリック? 冗談だろ? 学校にはもうほとんど通わなくてもいいって、それくらいのことはお前も知っていただろ? 知っていて、それでふざけて今そんな驚いているような顔をしているんだろ? 血の気が引いているぜ。顔が真っ青になってしまっているじゃないか。早く家に帰ってココアを飲めよ。お前が今はまっているそのココアというものを飲んで早く体を温めるんだ。まあどうせ明日も学校に行かなくていいんだし、ゆっくり体を休めたらいいじゃないか」

「お前は不安じゃないのか?」エリックは言った。「ジョゼ、お前は不安じゃないっていうのかよ。このままだとじゃあほとんど学校にも通わないまま卒業してしまうことになるじゃないか。そんなことになって本当にいいのか? 確かに休みが増えるという観点からはいいことかもしれないが、卒業したあとどうなるんだ。このまま何もかもが不確かなまま卒業してしまったら、それこそそれで人生終わってしまうんじゃないのかよ。なあジョゼよ、ジョゼ! お前もなのか? お前もまさか大学というところに行こうとか考えているんじゃないだろうな? いやそれどころか! もしかしてその大学という機関への試験をもうすでにパスしているとかじゃないだろうな!」

「落ち着けよエリック」ジョゼが言う。「心配するな。俺は大学なんて知らんし、そこへ行く気もないし試験だってパスしてない。そもそも試験なんて受けてないよ。だが確かにお前の言うとおりだ。このまま卒業させられたって、そのあとが謎すぎて俺たちは終わってしまうことだろう。このままじゃいけないって気持ちは俺にもあるんだ。俺もお前みたいに焦るような、ふいに不安に襲われて目の前が真っ暗になってしまうような気持ちはあるよ。だけど考えたって仕方ないだろ。考えたって俺たちのような空っぽの頭じゃ何もいい案なんて出てこない」

「でもお前は俺ほど焦っていないように見えるがな?」エリックは言った。「お前にも焦りや不安といった気持ちがあるってことはわかったけど、でも俺とお前は何だか違うみたいだ。何かお前には策があるんじゃないのか? 何か自分には一発逆転のアイデアがあるから、それで余裕で今こうしてコンビニの店内に立っているんじゃないだろうな?」

「だから何もないって!」ジョゼが言う。「本当に疑り深い奴だなエリック。そんなんじゃ気疲れして仕方ないだろう。本当に俺は何も考えちゃいないさ。そうだな、俺が今本気で考えていることといったら、小腹を満たすために何を買おうかなってことさ。でもそれだって実をいえばもうほとんど決めているんだ。お前のココアほど決めているってわけじゃないけれども、こうしてたまに小腹の空いた時に、俺は自分で何を買うかもうほとんど決めているものがあるんだ。それが何か教えてやろうか? スニッカーズさ!」

 エリックは言った。「すまん、俺は今お前が小腹を満たすために何を買うかということに対してはまったく興味がないんだ」


 彼はそう言うと、ココアの缶と袋を握りしめてふらふらとレジまで歩いて行った。もはや気力がなくなり、いつ地面に倒れ込んでもおかしくはないという状況だった。ジョゼは何も言わず追いかけてこなかった。きっとエリックと話したことで、あらためて自分の今の高校三年生の三学期という立場を理解したのだろう。まともな神経の奴ならば動けるはずがない。こうしてエリックのとある日曜日の午後の買い出しが終わった。ココアは無事に缶と粉の二パターンも購入できたが、あいかわらず高校卒業に対しては厳しい見解しかもたらされなかった。

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