14 卒業というシステム
14 卒業というシステム
二月も半ばに差し掛かり、今日は久しぶりの登校日だった。無事に授業? というか担任の先生からの連絡事項が終わり、昼前の放課後という運びになった。イレールと教室の後ろの方をいつも通りに陣取って話していると、同じクラスメイトのベレニス・ドメネクという女子生徒が急にやってきて話しかけてきた。
「エリック君たちは今日これからどうするの?」ベレニスが言う。「もしよかったら私たちと一緒にこれからのことを考えない?」
「君たちと一緒にこれからのことを考えるだって?」イレールが言った。「それって一体どういうことなんだ? お前たちと一緒にこれからのことを考えて何か解決策でも出るっていうのか? そんな一緒に考えただけで何か解決策が出るくらいだったら、もう俺たちだってとっくにやっているよ」
「出るかどうかはわからないけど」ベレニスが言う。「でも何もこれからすることがないっていうんだったら一度付き合ってみたら? 何かあなたたちの知らない情報があるかもしれないわよ」
「やけに自信がありそうだな」イレールは言った。「きっと何か俺たちの知らない情報があるんだろうな。きっと君たちなりに、これからの卒業に向けて何かしらの意見がまとまりかけているんだろう! だが甘く見ないでくれ。くれぐれも俺たちのことを甘く見ないでくれよな。君たちが君たちなりに今後の卒業に向けて何かしらの答えに近づいているように、俺たちも俺たちで何となくだが卒業に向けての計画は立てているんだ」
「どうせ大学に行くとか行かないとかなんでしょ」ベレニスが言う。「知っているわ。あなたたちが何を考えているのかってことくらいわね。むしろこの時期になって余裕をかましている生徒には二通りしかいない。もうすでに進路が決まっているか、それか心の底から未来に対してあきらめてしまっているかのどちらかよ! あなたたちはまだまともに学校に来ているし、それにずっと余裕たっぷりの表情だった。もしかしたらあきらめているのかなとも思ったけれども、どうやらそんなことはないようね。きっと大学についてほかの生徒たちよりちょっと多くの情報を持っているとかその程度なんでしょう。だから大学への進学を決めた生徒に比べるとやや余裕がないけれども、まったく進路を決めていない生徒と比べるといくらか余裕があるのよ。ぜひ私たちと一緒にくることをおすすめするわ。おもしろいものをみせてあげる」
「おもしろいものかどうかはあくまでも俺たちが決める!」イレールは言った。「お前たちについていって、その先で見たものがおもしろいものなのかそうでないのかは俺たちが決める。それは俺たちが決めることであるべきだろう。それに今後の立ち振る舞いについて役立つ情報がどうしても欲しいというわけでもない。疑問だ。俺たちは確かにほかの生徒たちに比べて少しの余裕があるかもしれないけれども、それが将来に対する不安がほかの生徒と比べて少ないからきているものかどうかといわれると、案外そうでもないかもしれないんだぞ。まったく別の要素、たとえば今日の天気がいいからとか、体調がすこぶるいいからとか、たとえばそんなことから心の余裕を獲得しているのかもしれない。獲得しているかもしれないじゃないか!」
ベレニスの誘いについていくことにした。彼女は教室を離れると、校舎の一階に設けられている視聴覚室というところにエリックたちを案内した。そこには十人ほどの生徒たちが机に座ったり椅子に座ったりしていた。同じクラスメイトばかり、というわけではないようだったが、みんな同じ学年の生徒たちであるらしかった。ちらほらと見たことのある顔ばかりだった。きっとクラス分けは関係なしに今日という時間に集まっているのだろう。何か異様な雰囲気がしないでもなかった。いや、しないでもなかったというレベルではなかった。はっきりと普通ではない、何か得体のしれない、何が行われるのかわからない不気味な雰囲気が視聴覚室を支配していた。
「こんなところに連れてきてどうするつもりなんだ」イレールは言った。「俺たちから情報を引き出そうったってそうはいかない。確かに俺たちは大学に関する有力な情報を持っているかもしれない。だがそれは俺たちが自力で、苦労して獲得したものなんだ。もしその情報をよこせというのならば、お前たちにもそれなりの犠牲を要求するぞ。お前たちもそれなりの情報を俺たちによこすべきだ」
「別にあんたたちの情報なんかには興味ないわ」ベレニスが言う。「今日ここへあなたたちを呼んだのは、別にあなたたちから大学の情報を引き出そうと思ったからじゃない。うぬぼれないで! 所詮苦労して手に入れたといっても、大学のことなんでしょう? 大学のことくらい、本気でそこを目指そうと思ったらいくらでも手に入れられるんだわ。私たちがあなたたちにたずねようとしたのはそんなことじゃない。そんなくだらないことじゃないのよ! 賢明なあなたたちならもう気づいているはずよ。どうせこのまま大学にすすんだって今回と同じことの繰り返しになるってね」
「それは……」
イレールの言葉が詰まる。つまり痛いところを今彼女につかれたってわけだ。だが大学以外に何かいい解決方法があるっていうのか。まさかこいつもレナルドたちのように大学以外の、しかしやはりわけのわからないキーワードを出して俺たちの心を乱そうっていうんじゃないだろうな。騙されてなるものか。耳を塞いでしまいたい気分だ。真実で正気なことだからといって何でもききたいわけじゃないんだぞ! とりあえず今俺たちは先がなくても大学に進むことによって気を紛らわそうとしているんだ。無意味に邪魔なんてしてこないでくれ。
ベレニスが言う。「私たちはそもそもこの学校の『卒業』というシステム自体がおかしいんじゃないかと思っているの」
「卒業がおかしいだって?」イレールが言う。「は? じゃあお前らはどうしろっていうんだ。卒業しなかったら俺たちはこのままずっと高校生でいるしかないじゃないか。お前たちはずっとこのままでいいというのか?」
「その通りよ!」ベレニスが言う。「だってそうじゃない? どうして私たちだけが高校生というものを卒業しなければならないの? 今年の春ですべての大人たちや子供たちが今所属している機関や組織から卒業するっていうんだったら、そりゃ私たちも高校を卒業してしかるべきかなって思うけれども、そうじゃないじゃない。現実はちっともそんなことなんてない。いつも卒業するのは高校三年生ばかり。私たちのような高校三年生ばかりなんだわ!」
「非現実的すぎるだろ」イレールが言う。「お前らどうかしちまってるのか? 頭がいかれてしまっているんじゃないのか? ずっとこのままでいいだって? そんな意見には賛成できないな。とてもじゃないが賛成できない! 確かに先が見えないまま卒業してしまうことに不安は覚えるけれども、しかしそれだって自分たちの努力で何とかなると思っているんだ。お前たちとは根本的な考えが違う。お前たちのように卒業が苦しいからっていつまでも高校生でいたいだなんて思ったことはこれまでこれっぽっちもないね!」
「だけど付き合ってもらうわ」ベレニスが言う。「今日あなたたちをここへ連れてきたのは、これから私たちが執り行う儀式に参加してもらうためよ。これで人数がそろったわ。私たちは今から悪魔の契約を執り行うの。魔界に住む神々に救いを求めて、私たちが永遠の高校生として現世に君臨できるようにお願いするのよ」
「狂ってるってば!」イレールは言った。「アホか。お前たち狂ってるよ。完全に狂ってるよ。悪魔だって? 魔界の神々だって? この女だけじゃなくてここにいる全員がマジのマジでそんなこと平気な感じで言っているのか? だとしたらとうとう頭がおかしくなってしまったんだな。今後の不安に押しつぶされてお前たちは精神的につぶれてしまったんだ。近寄るな! 誰がお前たちの儀式なんかに参加するか。そんなにやりたきゃせめて自分たちだけで勝手にやってろ――行くぞ!」
イレールがエリックの腕を引っ張って教室から出て行こうとした。もちろんエリックとしてもベレニスの言っていることは意味不明だったし、彼女の言っている儀式とやらが果たして何の儀式なのかちっともわからなかったが、しかし彼女の物静かな口調に一定の魅力を感じないでもなかった。ベレニスにはどうも彼女なりの勝算があるらしい。
教室をあとにしようとしたときだった。イレールに腕を引っ張られているが、エリックの体はうまくそれについていっておらずにその場で少し固まる感じになっていた。そんな彼に対してベレニスが微笑みながら言った。「エリック君はおうちでペットとか飼ってるの? もし飼ってるんだったら、今度の登校日までに持っておいでよ。それを生贄に使おう。みんななんでおうちでペットを飼っているか知ってる? いざというときに悪魔を呼び出してお願いを聞いてもらうためよ。きっと大量のペットを生贄に捧げれば、どんな願いでも夢じゃないんだわ」
「ホラーかよ!」
エリックはそう言うと、イレールとともに教室をはやてのように抜け出した。廊下がいつもよりやけに長く感じた。卒業するのは怖いけど、だからって卒業したくないわけじゃないだろ。




