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10 アイライクバスケットボール

10 アイライクバスケットボール


 エリックには密かな楽しみがあった。それは休日の公園――休日でなくても、自分に暇がある時におとずれた近所の公園――そこでバスケットボールを弾ませてバスケットボールをバスケットリングに入れるバスケットボールだった。要するに彼の密かな楽しみとは、一人でもバスケットボールをプレイするというものだったのだ。気分が落ち着いた。バスケットボールを弾ませて、空想の相手を二、三人抜いて見事にゴールすると、リラックスした気持ちになれる。気分がすっとする。別に最高のプレイヤーになりたいわけではなかったけれども、何か嫌なことがあったり体を動かしたいと思った時には、無理をせずに彼は公園を訪れて一人でもバスケットボールをするようにしていた。


 そんなある日。


 いつものように公園を訪れて「さあいっちょバスケットボールでもするか」と思っていると、もうすでにコートには先客がいた。コートに先客がいることは珍しいことではなかったが、その日の先客はこれまでに見たことがない、色の白い、ひ弱そうでぶかぶかの服を着た男の子だった。まだ中学生くらいだろうか? 男子中学生らしい人物がバスケットボールコートで必死にバスケットボールを弾ませていたのである。それも一人でだ。エリックは彼のことをちっとも疎ましいと思わなかった。コートを先に占領されていて悔しい思いをしているのかというとそんなことは全然なかった。自分と似たような少年のことを見つけて、むしろ彼の心にはうれしい気持ちが広がったのである。


 エリックは少年に向かって言った。「いいボールの弾ませ方だ。君はバスケットボールを弾ませるのが好きなのかな?」

 すると少年が答えてくる。「もちろんボールを弾ませるのも好きですし、これを放ってあのリングに入れるのも好きなんです」

「あのリングに入れるのも好きだって?」エリックは驚いた。「じゃあ君はもうすでにその年齢でバスケットボールをバスケットボールのリングに入れたことがあるっていうのかい?」

「そうです」少年は言った。「もう何度も入れたことがありますよ。最初はボールを空中に投げるというのに抵抗がありましたが、しかし今では全然です。地面に弾ませていたボールをすばやく持ち上げて、さらにそれをバスケットリングの方へと投げることさえできますね」

「ほとんどプロじゃないか!」エリックは言った。「それじゃあ君はもうほとんどテレビに映っているプロたちと同じことをしているってわけなのか? 確かにテレビに映っているプロの人たちもそんなことをしていたな。そんな――今までコートでボールを弾ませていたかと思うと、一瞬でボールを持ち上げてそれを空中に放ってしまう、しかもそれをリングのど真ん中に収めるんだからな! 君はそれができるというのか。まったく同じことができるというわけじゃないんだろうけれども、だが少なくともそれと似たようなレベルのことはできるんだろうな。何て末恐ろしい子なんだ」

「確かに前にいたところでも、そのプロっぽい技をできるのは僕しかいませんでした」少年が急に語り出す。「僕が前に住んでいたところでも、さすがにこの技をできる奴はほとんどいませんでしたね。さすがに年が上の先輩とかになってくると、ちらほらできる人もいるようでしたけれども、でもやっぱりほとんどいませんでしたよ。僕はかなりバスケットボールが好きなんです。それは自分でもそう思いますし、また僕を知っている人ならみんなそう思ってくれることでしょう」


 どうやら彼は最近この街に引っ越してきたばかりのニューフェイスらしかった。年齢はまだ中学生ということだったが、堂々と物おじせずに喋るので、周りの大人たちとも対等に渡り合うことができるだろう。身長もまだ中学生ということだったが、大人の平均くらいはありそうだった。だがまさかこの少年がもうすでにバスケットボールのプロっぽい技まで習得しているとは! 信じ難いことだろう。遠巻きに彼を見ているときは、せいぜいボールをどれだけ弾ませられるか、ということをチャレンジしている最中なのかなと思っていたのだが、現実は全然そんなレベルではなかったらしい。彼は何度もボールをコートに弾ませては、本当に彼の話の通りに高速でボールを持ち上げて空中に放り投げる、そしてその放り投げたボールが面白いようにバスケットリングの中へと吸い込まれていくのである。見ていて「痛快とはこのことだ」と思わざるを得なかった。


 エリックは言った。「君はどうしてそんなにバスケットボールが上手なのかな? 何かこつでもあるのかい? まさかその年でここまでのプレイをやってのけるとは正直思っていなかったよ。俺の名はエリックだ。高校三年生をやっている」

「高校三年生の人か」少年が言う。「どおりで大きい人だと思った。大人でも僕の身長より余裕で小さい人もたくさんいるのに、お兄さんは僕と同じくらいか、いやちょっと高いくらいなんじゃないかな。でも高校三年生という情報をきいて納得したよ。そりゃ僕よりも身長が高いわけだ。だって高校三年生なんだもの。僕の名前はアランです。アラン・バイヨルと申します」

「アランか」エリックは言った。「ところでアラン、君は自分が将来どうしたいのかということを考えたことはあるかい? もしくはその考えた結果を誰かに伝えたことがあるかい? 君は今中学生だということだけれども、もしかしてもう三年生になる歳なんじゃないのかな? それだけバスケットボールがうまいのは、将来プロバスケットボールプレイヤーになりたいからじゃないのかい?」

「まさか!」アランが言う。「そんなプロバスケットボールプレイヤーになろうだなんて思っていませんよ。確かに前に住んでいた街では、僕にかなうものはいなかった。僕がダントツのナンバーワンだった。でも井の中の蛙だとは思っていたんです。きっと場所が変われば、僕みたいなプレイヤーは平均的なレベルに埋もれる可能性だってあるんじゃないかってね。だからプロになろうだとかそんなことを思ったことは一度もありませんよ。そんなことを望んだことすらないですね。ただバスケットボールは弾ませるのもリングに入れるのも好きなので、ずっと続けていきたいなと思っているだけなんです」

「じゃあちょっと俺と一緒にバスケットボールをしてみようか」


 エリックはそう言うと手に持っていた自らのバスケットボールをコートで弾ませ始めた。よく弾む。彼は自らの発言の通りに、これからアランと一緒にバスケットボールをしようというのである。ただテレビで見ているような、ボール一つを二人で競い合って奪い、またそれをリングに入れるまで繰り返すというプレイはかなりレベルの高いことだと思われたので、まずは一緒のコートでそれぞれのバスケットボールをそれぞれの感覚で弾ませるのを楽しみ合うことにする。エリックは自然と「うふふ」と笑うような感じで表情が崩れてきた。アランもまた然りである。ちなみにエリックも今のアランができるようなプレイはほぼできるのであった。エリックもアランに負けず劣らずのバスケットボール好きなので、テレビで見た技はどうしても次の日にはマネをして、それに近いレベルにまでは自分の技術を磨いてしまうタイプだった。


 アランが言った。「エリックさん――エリックさんはもう高校三年生ってことですけど、じゃあもう進路は何か決まっているんですか?」

「いや何も」エリックが答える。「どうしたいきなりそんな真面目な質問をして」

「実は僕も今悩んでいて」アランが言う。「今僕は中学三年生なんですけれども、今度の春から何をすればいいのかわからないんです。つまり中学を卒業してから自分が何になるべきなのかということに悩んでいるんです。ああ僕にプロ並みの才能があればな! エリックさんは初めから高校三年生だったんですか?」

「違うよ」エリックは言った。「俺は途中から高校三年生になったタイプだ。毎年変化しているよ。最初は高校一年生からで、それで一年たつごとに学年が一つあがっていっている。だがご存じのとおり高校四年生はこの国にはないので、必然的に来年の春からは俺も生徒以外の何かをしなくちゃいけないことになる」

「え、高校生って途中からなれるんですか?」アランがあきらかに驚いた様子で言う。エリックはぴんときた。なるほど、この少年はまだ自分もこれから高校生になれる可能性があるということを知らないんだ。まるで本当にかつての自分を見ているみたいだ。かつての自分も、彼と同じような時期に同じようなことで悩んでいたんだったっけ。そう考えると彼にとって自分は道しるべみたいなもんなんだろう。同じバスケットボールという趣味もあるし、一度じっくりと話をききたいとさえ思ってくれているのかもしれないぞ。まあ俺も俺で、今は高校三年生という立場から君と同じような悩みを抱えているんだけれどもね。


 エリックは言った。「あと少しボールを弾ませたらちょっと休憩しないか。自動販売機のジュースくらいだったらおごってやるぞ」

「え、いいんですか?」


 エリックはこのあと少年にたっぷりと高校と高校生活のことについて話してやった。もちろん公園のベンチでだ! どこまで自分が喋っていいのかはあまりよくわからなかったけれども、彼は、あまりにも素直に話に食いついてくる少年に対してついついどこまでも話してやりたくなる衝動に駆られた。ついには気の緩みから大学というキーワードまで出してしまい、いつの間にかその話し合いはお互いの進路への現時点からの不満をたらたら言い合う感じになってしまった。ああせっかく気晴らしにこの公園に来たはずだったのにな! でもすばらしい出会いがあったから良しとするか。

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