殺人鬼による独り言
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俺の名前は酒井竜馬。
霊能力者だ。といっても特別な何かができるわけじゃないし、テレビに出ていた時期も有ったが、何年かで飽きられた。給料は良かったし割りと気に入っていたんだか。
実際問題として、霊と会話できても対して役に立たない。
行方不明の捜索でも失踪者が生きていれば使えないし。もちろんその方が良いのだが。
死体を見付けたら見付けたで容疑者扱いで告訴されかけ、犯人でもないのに常にアリバイ作りを意識した生活をしていた。
自分で捜索を依頼しながらも、遺体が見付かってから俺を罵倒する依頼人も多かった。生きていると信じたかったんだもんな。殴られながら申し訳ない気持ちだったよ。
そんな中、ひょんなことから初老の女性に出会った。
行方不明になった孫を探し疲れはてている様子だったが、見付からないのは当たり前だった。初老の女性の背後に居た霊がそのお孫さんだったんだから。
「お祖母ちゃんに僕は死んでるって伝えていただけませんか? うちの祖母ちゃん、昔の人だから諦め悪くて」
自分が死んでいるというのにハニカミながら云ったお孫さんを無視できるほど俺は神経が図太くなかったが、そこも運命の分かれ道だったんだな。
犯人は孫の同級生だった未成年者。
当時はいわゆる少年Aで終わるケースで、しかもお孫さんの殺害後に他にも犠牲者が出そうだったらしい。
「変だな。死体を見付けてもらったら成仏できると思ったんだけど」
半泣きでそう云った孫の言葉をそのままお祖母さんに伝えたのは失敗だったのか、今ではもうわからない。
それからだった。
古くて諦めが悪いと孫が表したお祖母さん――裏野良枝さん――と裏野ハイツを作ったのは。
法では裁けない、あるいは裁いたとは到底云えない罪人を監禁し、裁いて行くと云う信念のために孫の結婚費用に貯めていた貯金を全て使うと云った。
住んでいた二階建ての小さな木造ハイツを良枝さんが買取り、二〇二号室をゴム張り牢獄にし、下の一〇二号室に俺が、隣部屋の二〇一号室に良枝さんが住んだ。
亡くなったお祖父さんと一緒と積み上げた貯金だったらしい。最高の孫が連れてくる最高の奥さんとの最高の結婚式にするためと考えれば倹約も楽しかったと泣き笑いしながら云う良枝さんにノーと云えなかった。
だが、ただ閉じ込めただけでは加害者が自殺すると良枝さんが云っていた。
「孫は死に方も選べなかったのに、自殺なんて許しません」
普段穏和な良枝さんがそんな云い方をするのをお孫さんは悲しそうに見ていたが、彼は復讐を止めろとは云わなかった。
ドラマや映画で【復讐なんてしつ死んだ人が喜ぶか!】といったセリフを聞く度、吐きそうになったよ。
誰も喜びなんてしなくても忘れられるほど魂は便利にできていない。
結局、良枝さんのアイデアでお孫さんの命日に、好きだったギターで対決する、という名目で少年Aを監禁した。その日付とギターに気が付き、悔い改めれば良し、気が付かなければギター勝負に関係なく殺す。そのときの結果は……云わないでおいた方が良いだろう。
その内、悪徳商法で妹を自殺に追い込まれながらも犯人グループは執行猶予で収監されなかった田口さん。
息子を医療ミスで失い、その医者は当時深酒をしていて過失が認められたが、損害賠償は保険から払われて事実上医者は罰を受けずに事件が終わってしまった桜井ご夫妻が一〇一号室と一〇三号室も入った。
ちなみに、亡くなった被害者の妹さんや息子さんはまだ裏野ハイツに居たりする。
息子さんもたまに自宅ではなく俺の部屋に来たりするが、俺が仕事中だと知ってか、大人しくしている。
妹さんはそもそも気を遣って会いに来ない。案外、もう成仏しているかもしれないが、俺の口からそのことを田口さんに伝えるべきか、ズルズル先送りにしている。
妹の霊が居る、そう思う心が田口さんの笑顔の裏にある気がするから。
天国や極楽なんて本当にあるのかもわからない。なにせ行ったら戻ってこない。
だから消えるのが良いことなのかもわからない。毎日これで良かったのかと自問している。
あ、あとな、カメラが有って監視していたと思っているヤツが多いが、カメラはあるけどモニターなんてしてないぞ。俺しか居ないし。
この映像はこれから葉山が殺した被害者家族に映像を見せるかどうか、裏野さんたちが検討する。
俺達の正体をバレないようにしつつ、それでいて犯人には罰が下ったとわかるようにするか、どうするか。
そもそも被害者の女の子が死んでないと考えている家族もいるだろうし、この映像で救われる家族が居るかどうかも分からない。
泣きながらありがとうとカネを渡そうとする家族も居れば、ふざけるなと訴訟しようとする家族もいるし、そこら辺も難しいのだが。
ん? ああ、じゃあ、どうやって監視してるのかか?
それは単に被害者の霊が四六時中、滝口たちを見ていて、何かあれば俺に教えてくれるだけ。
ただまあ、困ったことに霊もミスをする。滝口や葉山に俺の名前を気付かれたとき、“誰かが云うだろう”で全員スルーしてしまった。
今回のケースでは葉山正平に殺された女の子たちが見るのもイヤと監視を嫌がり、他の霊に複雑な監視を頼んだ俺が悪かったのだが。
食べたいという筑前煮と焼き飯を作って滝口を泣かせたのは、まあ、うん、ちょっと、滝口には悪いことをした。
俺への報告は成功していたのだが、家族が作ったなんて条件を満たせるわけも無く、普通に俺が作って夕飯にしてた。
……ん? ああ。飯も俺がカネが勿体ないから作っているだけ。安いし。
良枝さんはここを買い取って貯蓄を使い果たしてるし、家賃はそのままこのオンボロハイツの修繕費になってて年金暮らしだし、頼るのは現実的じゃない。
「すいません、酒井さん、京子ちゃんが甘いものが欲しいと云っているんですが」
俺の“独り言”を遮るように、滝口に轢き殺された須藤さんが現れた。苦しみ抜いている様子を見て最近では滝口京子を京子ちゃんと呼んでいる。
奥さんも少しずつ赦せる方に行っているし、多分、滝口は殺さずに済むだろう。
「酒井さん?」
「あ、悪い。甘いもの、ってだけなら買い置きのお菓子で良いだろう。皆に買い出し頼むのも時間が遅いし」
俺は未開封のカステラを開け、樹脂の皿にトッピングしてから気が付いた。場所聞いてない。
「今は滝口はどこに居るんだ?」
「六畳間です」
「オッケ」
俺はトイレに入り、天井のハッチを開けて、ゴム壁のジッパーを開ける。
このゴムジッパーが高かったらしい。逆から見ると溶接跡と区別が着かないという高級品。
一〇二号室から強引によじ登っても音はゴムが消してくれる。カステラを置いてから俺は素早く飛び降りて天井(二階から見て床)を閉める。この間五秒。握力はこれで鍛えてたが、まさか
「お前の手首が折れるとは思ってなかったけどな。久保田、お前が殺された理由、わかったか?」
「まあ大体」
俺は俺が殺した久保田の霊に顛末を伝えていた。
死んでからは所属していた大日本プロレス道場で意識を取り戻したらしく、ここを探し出すのに十ヶ月掛かったらしい。壁抜けができるとはいえ、中々根性が必要な作業だが。
「まあ、俺も先輩がウザくて殺しちまったからな。若気の至りだったんだが……で、先輩は?」
「成仏したってヤツだな。もうここには居ない」
「そっか。じゃあ俺の怨みはお前が対象ってことで」
「……おう」
覚悟はしているつもりだが、この瞬間は“じゃあ死ね”とでも云ってくれることを望んでいる自分を認識する。
殺してもらえば楽になると思っている自分が唾棄すべき存在であると思い、心の澱が重さを伴っていく。だがしかし久保田はその澱もなんのその、透き通った笑顔を見せていた。
「これから何か格闘技で加害者とバトるときは俺がセコンドだ。バーリトゥードのセコンド! 燃えるぜ!」
「……なんならお前が俺に憑依して戦ってくれても良いぜ?」
「マジか!? んじゃ、それで頼むわ!」
こいつ、戦えればなんでも良いのか? 死んでも治らないタイプの馬鹿だったらしい。
正直、少し心が軽くなっているのも事実なのだが。
「眠らなくとも良いし、栄養バランスなんて考えなくても鍛えれば鍛えるほど強くなる! 幽霊も気に入ったぜ!」
魂はウソを吐かない、というか、俺からするとすぐわかる。幽霊は心が剥き出しだから色というか、揺らぎでわかる。
そして久保田の場合、殺したときより筋肉が二回りくらい大きい。プロレスラーの幽霊だから筋トレして強くなる自分、が明確にイメージできるのかもしれない。
「んじゃ、ちょっとジョギングしてくるわ。お前も体鍛えろよ、俺が使うんだから!」
「おう、道に迷うなよ」
この二時間後、迷わず帰って来た久保田が結婚詐欺から保険金殺人までされた浮遊霊を連れてくることになるとは、このときの俺は知るよしもなかった。
俺はただ霊が見えるだけで、霊が探せるわけじゃない。
幽霊同士の口コミで広がり、ここに人が集まったりするが、中にはウソを吐いて悪くもないヤツを殺させようとする霊も居る。良いヤツも悪いヤツも死んでから誰かを殺したがる。
霊そのものが見えるだけでは何にもならない。霊には血を染める手も持てないし、霊は総じて無力である。
霊にそんな力が有るなら、歴史上の有名人の大半の死因は呪いだろうし、戦争ではひとり殺した兵士は次の瞬間に呪い殺されていなければならない。
血に染まる手も持たない無念というエネルギーを使って俺は罪人を絞め殺し、罰を喰らうことなく日々を過ごす。
はい、というわけで84g初の中編ホラーでございます。
ホラーというよりサスペンス寄り?
カテゴライズすると『まともだと思われていた語り手が一番のサイコクズ』というタイプのホラー。
色々と伏線があるので、二週目を読んでいただいて一度で二度おいしい、的な作品を目指しておりますので、二週目もよろしくお願いします。
幽霊モノなのにクリーチャーは霊能力者のマッチョマン。しかも復讐専門とか。独自路線独走中。
裏野ハイツの設定で「一部の住人の使用や舞台はハイツでなくても可」と見たとき、運営さんから「全部使うとかお前らには無理だろ? ハンデだよ」と言われた気持ちになり、全住人を設定し、舞台は裏野ハイツから動かない話に決定。
そこから監禁系に決まり、住人の位置関係から一〇二の男が二〇二に監禁している流れに。
五十男と夫婦がキャラ被り気味なので、纏めて処理し、ちょっとベタな気はしたものの、老婆がキーパーソンに。
一階に引きこもりが多すぎるんだよなぁ、このアパート(笑)。
できれば本編中で全員出したかったけど散らかるだけだからエピローグのみ。
個人的には久保田が作者の予想を越えて育ってくれたのが驚きました。
ラストシーンに久保田が登場したのは完全に久保田の暴走ですね。当初はお婆さんとの会話形式の予定でした。
書いていてキャラクターが暴走するパターン、いやあイキイキとして良いキャラでしたね。死にましたけど。
セルフパロディというか、出しきれなかった設定を生かした短編集 http://ncode.syosetu.com/n0595dm/
よろしければこちらもどうぞ。