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異世界旅行記 ~異文化交流って大変だね~  作者: えろいむえっさいむ
3章【異世界の技術を受け入れた場合の日本における変化の過程とその結果】
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70・修学旅行では海外に行きたかったです(作者談)

前話のあらすじ「結局仲良し三人組の楽しい旅行の始まり始まり」

「飽きた……」


 窓の外に広がる地平線まで繋がる大地を見ながら、悟は一人ごちた。その様子を例えるならば、つまらない授業を聞いているときの窓際の生徒が外を眺めている感じである。


 街から街への移動は恙無(つつがな)く進んだ。事前に飛行航路をきちんと計算してあったのだろう。一日かけて移動し、街で一泊した後に一日かけてやるべきことを終えて、次の日にまた違う街へ、という計画表通りの旅程だった。旅路はとても順調で、すでに5回ほど同じ行動を繰り返していた。次は帝国領内ではもっとも西端の街だという。そのあとは少し南下しつつ東へ航路を向けて元の帝都へと戻るだけである。


 やたらと日程が急ぎ足なのは、もうすぐ冬になってしまうので急がないと飛行船の運航に支障を来すかもしれないからとか、帝国で何か大きなイベントがあるらしいとか色々理由があるらしいが、あまり長期の休暇を取れなかった悟にとってはありがたかった。もしかしたら悟の予定も鑑みて計画を立ててくれたのかもしれない。せっかくの異世界観光がゆっくりできないのは残念だなーと呑気なことを最初の頃は考えていた。最初の頃だけ、だが。


 実際観光旅行を始めてみたところ、これが思いのほかつまらなかったのだ。異世界ならではの面白い物が見れるかもしれないと期待していたのは4つ目の街まで。その頃には異世界は観光向きの条件がそろっていない事に気付いてしまったのだ。暇つぶしにつまらない原因を考えてみると、すぐに思い当たる節は3つほどあった。


 一つ目はそれぞれの街の造りが大体似通っていることだ。飛行船を除けば異世界に鉄道や航空技術なんて便利な代物がないため、基本街から街への移動は馬車か徒歩ということになる。もちろん商人のキャラバンや職を求めて移動する人はいるにはいるが、基本的に大きな街はそれ一つである程度完結するようにできてしまっている。そのため行く先々の街は押し並べて機能一辺倒の造りになっており、どれもこれも似たような街並みになってしまう。多少の違いはもちろんあったけど、正直どれもベーラの街に似通っていて、まるでコピー品の街並みばかりだとしか思えなかった。海辺の街は漁業が盛んだったし、山辺の街は傭兵が多く(たむろ)っていたが、それくらいしか違いがないのである。


 二つ目は観光と言う概念がそもそも存在しないことだ。一つ目のと同じ理由で、人々が気軽に隣の街へ行けない以上、観光産業と言う概念が存在する下地がない。だから街の目立つところに観光の目玉となる歴史ある建物がデデンと置いてあるわけでもなく、またはその街特有の食べ物や料理について露店ができているわけでもない。観光したところで面白いものが何一つ見当たらないのだ。よくよく観察したり情報収集をすればそれなりの物が見れるのかもしれないが、そこまでの手間をかける気分と時間の余裕はなかった。


 三つ目は異世界に悟が詳しくないことだ。パリやローマについて多少知識があれば、そこに対する想いを持って観光することができるため、面白かったり期待外れだったり一喜一憂することができるはずだ。だけど、悟は異世界についてほとんど何も知らない。そのため「ここは何とかって言う街だ!」って言われても「へーそうなんだ」以上の興味が沸かず、見栄えのしない街並みに辟易してしまう。歴史に興味のない学生が修学旅行で京都に行ったところで、お土産コーナー以外テンションだだ下がりになるのと同じ理由である。


 どこも大体似ていて、目立つ面白い物もなく、しかも街それぞれの知識も好奇心もない。そんな観光旅行に魅力なんてあるわけもなく、悟はとっくの昔に飽きてしまっていた。


 しかし女性陣二人はまた違うようで、今もお茶を飲みながら楽しそうに会話している。


「これを見てよ、ベアチェ。この宝石みたいな宝珠を。素材としては珍しくないフルール種の魔獣の物なんだけど、中に込められた魔術回路の精密さが素晴らしいの。同じくらい凄い物が露天に無造作に並んでてびっくりしたわ。どれを買おうか物凄く悩んだんだけど、この波形操作魔術の基礎回路と『共振』の応用回路が入っているものにしたわ。見て見て、このびっしり描かれた緻密な回路図を。私にはここまでのものは作れないわ」


 大興奮しながら赤い球のような物を見せびらかすアイツァ。悟にはその良さが全く分からなかったが、とあるお店でアイツァが何時間もかけて選びぬいた逸品である事を知っている。買い物に付き合わされて延々講釈を垂れながらその赤い球を手に取って、店の主人に金貨を何枚も渡していたのを見ていた。


 アイツァの話を聞きつつ、ベアチェも相槌を打つ。


「そうですね。前の街はベーラの街より近いところに森があって、魔獣もたくさんいるから素材が得やすいらしいですよ。だから術具製作関連の職人さんが集まりやすくて、誰が一番か競い合ってる状況だと聞いてます。少し帝都から距離があるせいでここの品物はあまり手に入らないのですけれど、アイツァさんがこれだけ喜ばれてるということはもっと取引量を増やすよう進言した方がよさそうですね。帰ったら皇帝陛下にご報告しましょう」


 そうニコヤカに答えつつ、なにやらサラリと大金が動きそうな話の算段をつけるベアチェ。笑顔の目の奥にギラリと鈍く輝く光が見える。なんとなく利に目敏い商人と同類の空気がした。


 一人は魔術関連のことで、一人は交易関連のことで旅行を楽しんでいる。年頃の女の子だというのにまるで色気のないことで盛り上がる二人を見て、悟は頭をかいた。旅行の初日に想像していた旅行とは随分違う。


 そういうわけで女性陣二人は普通に旅行を楽しんでいたが、悟としては街についたときより飛行船の中でお喋りしたり持ってきたトランプで遊んでいたりした時の方が楽しいという、とても残念な旅行になってしまっていた。窓際で頬杖をつきながら、空からの景色をぼんやり眺めていた。





…………





「ではいつも通りにお願いしますね」


「わかった、ベアチェ……様も頑張ってください。面白い物があったら買っておくから」


「それでは失礼します、ベアチェ様。夕方にまた会いましょう。ほら、サティ。さっさと終わらせるわよ」


 そう言って悟とアイツァはベアチェと別れた。もう何度も繰り返してきたことなので打ち合わせの必要もない。自分の持ち場へとさっさと歩いて行く。


 飛行船の旅の日程は全て大体同じだった。朝早くから飛行船で1日かけて移動し、夕方か夜に到着。用意された宿に泊まって翌日から二手に分かれて行動をする。ベアチェは領主やその街の有力貴族との顔合わせや話し合いに向かい、悟は予め用意されていたワープホール維持の魔術具の上で帝都行きのワープホールを作る作業を行った。アイツァは悟の護衛、ということになっている。そしてワープホール作製は一瞬で終わってしまうため、その後の暇な時間は街の中を観光することになっている。


 と言っても観光自体は先程言った通り、あまり面白くない。アイツァだけは張り切って「ここは変わった魔獣の素材の特産地だから」とか「この街でしか取れない薬草があるらしい」とか精力的に露店を巡っているて、とても楽しそうである。観光旅行をしているというより、隔日でお買い物に付き合わされていると言った方が正しいのかもしれない。護衛されてるはずの悟の方がアイツァに引っ張りまわされている。


 しかも女の買い物は長い。それは異世界でも変わらないらしい。予算は某巨大怪獣(シィーラ)のおかげで潤沢だと言っていたが、魔術関連の品物は軒並み値段が高い。魔術に関しては妥協なしというアイツァであっても、さすがにポンポン欲しい物を買うわけにもいかず、一つの店舗で腕を組みながらウンウン唸る場面は何度も見ている。今回も珍しい何かの干物のような物をまとめて何個買うかで悩んでいる。悟にはそれはアジの開きの干物にしか見えなかったが、なにやら特殊でしかも高価なものらしい。


 以前のデパートのときのように女性下着売り場で待たされるよりかはマシだけれども、いつ終わるかわからない買い物というのはとても苦痛である。居心地悪そうに店の外でうろちょろしていた。違和感。


 ふと店の外の様子を伺う。誰かに見られているような気がした。気のせいかもしれない、と思いつつ背後が気になってしまいつい後ろをキョロキョロ見まわしてしまう。フードを被って頭を隠しているせいで周囲は良く見えなかった。でもやっぱり誰かに見られている気がする。誰だろう?


「どうしたの、サティ? どうかしたの?」


 悟の動きがあまりに不審だったのか、アイツァがすぐに近くに寄ってきた。彼女も目深に被ったフード越しに見上げるような視線でこっちを見てくる。悟は何でもないと言う風に首を振りながら答えた。


「いや、なんか誰かに見られてる気がしたんだけど、気のせいだったかもしれない」


「……私たちが余所者だから珍しかったのかしら。わからないけど、一応警戒しておきましょう。サティは私の近くにいて」


「ああ、うん。わかった」


 そう鋭く言い放つ。一応護衛という自覚はあったらしい。素早く外を見回しているアイツァはなかなか格好良かったが、その手に先ほどの干物が握られているのが気になった。質問する。


「そういえばアイツァ、それ買ったの? 買い物は終わり?」


「……サティ、悪いんだけど、ちょっとお金貸してくれない? まだ予算はあるにはあるんだけど、このままだと間違いなく足りなくなりそうで……」


「わかった。いいよ後で渡す」


 苦笑しながらお金を貸す約束をすると、アイツァは嬉しそうに先程の干物をあるだけ全部持って店主の元へと歩いて行った。さらに他の乾物を物色している。ちなみにシィーラの売却代金は二人で山分けにしているのだが、何を買えばいいのかわからない悟はほぼ全額手つかずなのに対して、アイツァはすでに6割方消費してしまっている。普段慎ましい生活をしている人間が巨額のあぶく銭を手に入れると、貯蓄することなくすぐに使いきってしまうという典型的なパターンである。気持ちはわかるがもうちょっと落ち着いてほしい。


 ほくほく顔で戻ってきたアイツァを見て「やれやれ」とため息をついたころには、先程まで感じていた視線について忘れてしまっていた。





…………




 それは次の街にたどり着いた夜のことだった。本来、飛行船から降りて宿に入った後は、そのまま別れて次の日まで合流しないのだが、珍しく夜中にベアチェが悟とアイツァの寝室にやってきた。部屋の中に招き入れる。


「夜分遅くにごめんなさい。少しご相談がありまして」


「大丈夫です、ベアチェ様。ご相談とはなんでしょうか?」


 アイツァが外行き用の態度で応対する。他の人の目はないのだが、一応保険だ。余計な口を聞くと怒られるため、悟は黙って座っていた。


 ちなみに悟とアイツァは同じ寝室を使っていた。これは「夫婦は同室」と勝手に配慮された結果らしい。そこはまあ慣れているので問題ないのだが、悟が「いくら夫婦だからって同じベッドで寝る必要はない」と必死に嘆願した結果、アイツァがキングサイズのベッドに一人で寝て、悟はマットレスのない硬いソファーの上で雑魚寝をする形になっていた。寝心地は最悪に近かったが、変に緊張しない分ぐっすり寝れるというアベコベの現象が起きてしまっている。


 ベアチェは何とも困ったような表情をしながら言いだした。


「お二人には申し訳ないのですが、少し魔物退治をお願いしたいのです」


「はぁ」


 急な話に面食らって、悟はアイツァと顔を見合わせた。

次話「久しぶりの魔物退治」


 『異世界旅行記』と題打ってるにも拘らず、旅行シーンを大幅にぶった切るこの所業。どうです、凄い(アホ)でしょう? (・´ー・`)


 どうでもいい話ですが、作者は修学旅行で京都に行きました。中学と高校両方とも。ええ、それはもう楽しみましたとも、ゲーセン巡りとかマージャン大会とか……せめて国内にしても沖縄とかだったら良かったのに or2

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