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異世界旅行記 ~異文化交流って大変だね~  作者: えろいむえっさいむ
資料【異世界の文化または人物と交流があった者の変化について記録】
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閑話・自転車の乗り方

時期は夏休み、ちょうどデパートから帰ってきたところです。

『サティ、確かキックボードの代わりに使う乗り物があるって言ってたよね。それってどういう物?』


『自転車? 見ればわかる。キックボードより早い』


『へぇ、あれより早いんだ。じゃあその”じてんしゃ”というものに乗ってみたいんだけど、乗れる?』


『わかった。明日、自転車借りて、練習しよう』


『お願いするわね』




…………




「驚いたなぁ……」


 悟は感心したような呆れたような、何とも言えない表情をしていた。


 場所は路地裏である。アイツァが自転車に乗りたいと言ったので、連取できる場所を探したら、こんな薄暗いところしかなかった。車通りもなく人目もないところだから誰かにぶつかったりする心配はない。ちょっと狭いし走れる距離も短めだけど、練習ならここでもなんとかなるはずだ。ちなみに自転車は千恵の通学用のを借りている。その持ち主の千恵は今友達と海に行っている。


 目の前には全身傷だらけのアイツァと、倒れて籠がベコベコになっているママチャリがあった。これはあとで籠を修理しないと怒られるなぁとどうでもいいことを考える。アイツァの自転車の練習が思っていたより酷い有様なのだ。


『くっ、こ、こんなに難しい乗り物があるとは……なんでサティはこれを乗りこなせるの!?』


『自転車、難しくない。簡単、な、はず……』


 そうは言ったものの、アイツァのここまでの失敗ぶりを見ると断言できなくなってくる。どういうわけだかわからないが、アイツァは自転車に乗るのがものすごく下手だ。


 自転車はある程度スピードがないと倒れる乗り物だ。慣性の法則に従って、ある程度の速度を出した自転車は、乗り手の直感的なバランス調整も含めて転倒しないように微修正しながら真っすぐ走ることができる。よく初心者にありがちな「怖くてスピードを出せずにハンドルだけで操作しようとして転ぶ」というのはつまり、単純に速さが足りないだけだ。ある程度スピードが乗れば誰だって自転車で転ばない。


 だが、アイツァはその常識を覆した。何をしても乗れないのだ。後ろで荷台を支えている状態で転ぶ。壁まで支えにしながらなんとか乗っても、そこから身動きができなくなる。とにかく勢いで乗ってペダルを漕ぎ出せばなんとかなる、と指示を出して乗せてみたが、乗ったときの勢いそのまま反対側に倒れてしまった。スピードを出す以前に自転車に跨れない。まさかこうなるとは思わなかった。悟は頭を抱えた。


 なまじアイツァが痛みに耐性があるのが良くなかった。なんども転んでは挑戦し、同じように再び転んでいく。自転車よりむしろアイツァの体の方が丈夫そうだった。と言ってる間にまた挑戦して転んでる。もうやめて、自転車のライフはゼロよ!


 何十回目かの失敗を経て、さすがに体力が尽きたらしい、アイツァが地面にへたり込んだ。自転車は、アイツァの数倍ボロボロであった。これは後で千恵に土下座して謝罪しないといけないかもしれない。アイツァが悔しそうに呟く。


『サティはあんなに簡単そうに乗ってたのに、なんだか悔しいわ。どうして乗れないんだろう……』


 悟はうーんと悩んだ。思い当たることは一つある。もしかしたら、と前置きしてから思っていたことを話してみた。


『アイツァ、たぶん、自転車、初めて見る。だから、乗り方、詳しくわかってない。自転車に乗る印象(イメージ)がない。オレ、シィーラ解体、最初下手だった。解体の仕方、見てなかったから』


 悟がシィーラの解体を最初手伝ったとき、どこをどうすればいいのかわからなくて何の役にも立ててなかったことを思い出していた。生き物の解体なんて見たことがないから、皮を剥ぐやり方は骨の外し方なんて想像もつかなかったのだ。それと同じで、サドルに座ってペダルを交互に踏み込みながらハンドルでバランスを取るという一連の流れが、アイツァは理解できていないんじゃないかと思ったのだ。


 アイツァはなるほど、と納得しながら頷いた。


印象(イメージ)ね……』


『アイツァ、休憩する。飲み物買ってくる。何がいい?』


『りんごじゅーす』


 了解、と一言残して悟は自動販売機へと向かっていった。途中で、どうやってアイツァに教えたらいいかで頭を悩ませていた。





『サティ、自転車に乗れたわ! やっぱり印象(イメージ)が大切だったみたい!』


 悟が缶ジュースを取り落とした。ほんの数分離れただけで、そこにはとんでもない光景が繰り広げられていた。


 アイツァが自転車に乗っていた。それはいい。ただ、その運転の仕方がおかしかった。ハンドルは握っているしサドルに座っているが、ペダルを踏んでいない。それなのに自転車が高速で動いていた。しかも直線軌道だけでなく、急カーブ、急停止、ジグザグ走行、ジャンプ、しまいには壁を真横に走ったりしていた。いつの間にか安物のママチャリがUFOのような動きをしだしていた。悟は慌ててアイツァに質問する。


『ああああアイツァ!? なに! なにした!?』


『これ印象(イメージ)をもとに風の魔術で補佐をして運転してるの! これなら簡単だったわ! こんな動きもできるのよ、すごいでしょ!』


 そういうとアイツァは某亀の甲羅を投げ合うレースゲームでキノコを食べたときのような超加速をしてみせた。狭い裏路地に爆風が吹き荒れる。捲き立つ埃にせき込みつつ、悟はアイツァを必死で止める。こんな光景、知らない人に見られたら何言われるかわかったもんじゃない。


『アイツァ! やめて! 止まって! アイツァ!』


『いいじゃない! こんな場所なら誰にも見られないわよ!』


『ダメ! 危ない! 自転車、壊れる! これ以上、怒る!』


『何よもう、せっかく楽しくなってきたところなのに。それにしてもキックボードより早いってのは確かね。乗り心地もいいし、この”じてんしゃ”もあっちに持ち帰りたいわね。これって簡単に入手できる?』


 どうやらかなりお気に召したらしいアイツァが、自転車について笑顔であれこれ聞いてきた。気に入った物には饒舌になるのがアイツァの癖らしい。キックボードについて語っていたときと同じ顔をしている。悟は一つため息をつくと、とうとう車輪すら歪んでしまっている自転車のハンドルを引きながら、アイツァに冷酷な宣言をした。


『アイツァ、自転車、禁止。もう乗っちゃダメ』


『……え!?』


 悟の言葉を聞いてアイツァは愕然とした表情になる。そしてさっさと帰ろうとする悟のあとを慌ててついてきて媚びを売ってきた。


『ちょ、ちょっとサティ。なんか怒ってるみたいだけどどうしたの? 調子に乗ったのは謝るけど、別にそんな気にするほどのことじゃ、ね、ちょっと待ってよ、サティ!』




…………




 余談だが、海から帰ってきた千恵に自転車を見せたらしこたま怒られた、悟が。なぜ自分が怒られるんだ、壊したのはアイツァだと指摘したら「何も知らないアイツァちゃんの管理は悟の責任でしょ! ちゃんと新しい自転車買いなおしてよね!」と言い返された。解せぬ。

 前話の出来が個人的に微妙だったので、媚びを売るために明日の分を連続投稿。明日は投稿お休みします、ご了承のほどをお願いします m(_ _)m

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